音楽の記事が中心のMikikiですが、作家や写真家、映像作家、漫画家、演劇関係者など関わってもらう方は多種多様。そこで、音楽関係以外の表現者のみなさんが好きな音楽は?という興味からスタートさせたのが連載〈My Favorite Songs〉です。毎回、1人の選曲者が設定したテーマと、それにもとづく3曲以上の選曲を記事化。〈あの人がこの音楽を好きだったんだ〉という発見や、音楽とほかのカルチャーのクロスオーバーを楽しんでもらえたら幸いです。第11回は、〈名称未設定の夢〉の新作公演「わたしをおこさないで」の上演を控える俳優の加藤美菜さんが登場。 *Mikiki編集部
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選曲によせて
10月に上演する演劇作品、「わたしをおこさないで」にまつわる4曲を選曲しました。
〈名称未設定の夢〉で企画する第二回目となる今作ですが、前作に引き続き、〈夢〉をテーマに創作しています。
Tyler, The Creator feat. Kali Uchis “See You Again”
(2017年作『Flower Boy』収録曲)
夢の中でしか会えない理想の〈君〉に語りかけるこの曲では、「目が覚めたら戦いに行かなきゃいけない、もう一度会えるかは分からない」と話します。夢の中にいながら、現実を意識していたり、そうやって何度も何度も、自分の夢の中にしかいない〈君〉を追うことに疲れてしまっているとも話しています。今回上演する作品の中でも、それぞれの登場人物が持つ理想やその夢を追い求めている様子が度々描かれています。
また、コンセプトアルバムで架空の人物や物語を表現したり、その都度の仮面によって顔やスタイルを変え、本当の顔を覆うタイラー・ザ・クリエイターの表現自体に魅了されてしまう私自身もまた、夢の中のように遥か遠い場所、遠い存在に憧れていると感じるため、この曲とアーティストを選曲しました。
宇多田ヒカル “幸せになろう”
(2002年作『DEEP RIVER』収録曲)
上演前のBGMとして、夢にまつわる曲を流そうと選んでいたとき、もともと好きだった宇多田ヒカルさんの曲を入れたいと思い、始めは〈夢〉と入っている曲を選んでいましたが、今回は〈夢〉というワードを使わなくても、夢を連想できるような曲を多数持っている宇多田さんの曲の中で、“幸せになろう”を選曲しました。
ピアノの始まりが、日常のささやかな幸せをイメージさせて、キラキラした彼との時間を大切に思う様子が伝わってきます。そして、私たちで明日は今日よりも幸せになろう。と歌うのですが、これは〈オフィシャルな野望〉で〈あくまでも希望〉で〈当然の野望〉なのだと、伝えるというより口に出してみるような歌詞に、〈こう思っているのは私だけかな?〉という自信のなさを感じます。夢を抱いてしまい、理想を持ってしまったことの中で彷徨う彼女がとても魅力的です。
Jonas Blue feat. BE:FIRST “Don’t Wake Me Up”
(2024年作『トゥギャザー』収録曲)

今作を制作するとき、迷わずタイトルに選んだのはこの曲のタイトルでした。
今回、一つのキーワードとして〈アメリカンドリーム〉というのを意識していて、特に日本に住む私のイメージの中の、漠然としたアメリカ。そして、アメリカンドリームについてを考えながら制作しました。
この曲はまず、大好きです。曲を聴いたときにすぐに浮かんだのは、「ビーチ・バム まじめに不真面目」や、「スプリング・ブレイカーズ」などの映画のいくつかのシーンでした。犯罪や事件に巻き込まれる危険な作品ですが、そんな中での繊細さや静かなシーンはとても神秘的で、同時にその感覚なら私も少し知っているかもと思えました。
この曲も、〈君の夢の中に僕はいるの?〉という内容であり、そんな君へ向けた曲なのですが、少し具体性のある情景や場所がイメージできる気がします。この情景をより具体的に想像していった私なりの解釈が、今回の作品です。また、この曲の歌詞(BE:FIRSTのバージョンの和訳)の、〈何々なの?〉という語尾のか細さと、〈何々がいい〉などの言い切りの語尾の表現に、日本語版でしか表せない、こういう世界観自体への憧れという部分も切り取ることを意識しました。
The Pied Pipers “Dream”
(1945年)
まるで、〈夢の世界へようこそ〉と招かれているようなゆっくりとしたコーラスの短い曲が、物語の始まりを感じさせます。
この曲の和訳を探していたとき、和訳はあくまでも一つの解釈ではありますが、この短い曲・歌詞の中でも衝撃を受ける部分が多々あり、夢というものにはまだまだ探求の余地があるのかもしれないと思いました。まず衝撃を受けたのは、〈ブルーな気分になる時には夢を見よう それがやるべきことだから〉という部分の歌詞です。〈何々するべきである〉という言葉と、夢を見るという行為をセットにするのは不思議であり、この断言口調には、世間の価値観に左右されない心が必要だと思いました。〈寝たら忘れるよ〉ではなく、恐らく大切なのは夢を見ることなのです。また、夢は見たくてパッと見れる物ではないので、これもやはり寝ることではなく、その先でちゃんと夢を見るということが重要だと言われている気がします。
他にも、〈思い出のかけらが見つかる〉〈物事は見かけよりそう悪くはないものだから〉〈だから一日の終わりには夢を見よう〉という考え方が、なんとも不思議で気になっています。
INFORMATION
名称未設定の夢
「わたしをおこさないで」


あらすじ
精神科医になる夢を持ち、門前薬局で働く17歳の青年、ゆうすけ。恋人の桜、15歳。10代の二人の秘密のデートを通して、舞台であるおぐの町に存在する、または存在していた人々についてを覗き見ていく。それぞれに夢と理想を追い求める人々によるアメリカンドリームが交差するおぐの町へようこそ。人はときにスマホの電源を消し、そして盛り上がる準備が必要である。
上演に向けての言葉
今回、舞台にたくさんの夢を詰め込みました。まずはキャストですが、それぞれに、それぞれの理由で必要不可欠な人々に集まっていただくことができてとてもワクワクしています。一人一人のパートやスタイルを楽しんでいただけるフェスを開催したような気持ちです。そして、この公演はとても小さな規模にとても大きな夢を詰め込んだため、大きい会場でもなければ、決してささやかな内容でもない部分を是非体感して欲しいと思っています。前作に引き続き、すっかりその魅力に取り憑かれてしまった会場、おぐセンターという場所でしか見られない内容になっています。さらに見所は、上演までの全ての作業、上演中の全ての作業を、キャスト5名のみで行っており、そんな内容が物語の中を行き来し、意味を持つ状態が出来上がりました。是非、お足元にはくれぐれもお気をつけてお越しくださいませ。
■タイムテーブル
2025年10月9日(木)19:30
2025年10月10日(金)14:30/19:30
2025年10月11日(土)14:00/19:00
2025年10月12日(日)13:00/17:00
※受付開始・開場は開演30分前
■会場・Access
会場:おぐセンター 2F
東京都荒川区西尾久2-31-1 おぐセンター 2F
https://maps.app.goo.gl/ktUYDzxuxBVtoFRZ9?g_st=ipc
JR山手線 田端駅より徒歩15分
JR宇都宮線・高崎線 尾久駅より徒歩9分
都電荒川線 小台駅より徒歩5分
都営バス 西尾久二丁目より徒歩3分
■Ticket
こちらのURLからご予約いただけます
https://shibai-engine.net/prism/pc/webform.php?d=h0xfkl3t
予約:2,500円
当日:3,000円
当日清算/全席自由席
■お問い合わせ
meishomisetteinoyume@gmail.com
■出演者
小野カズマ 加藤美菜 川島信義 相根優貴 半田大介
■Staff
小野カズマ:音響操作 美術制作 演出管理 照明操作
加藤美菜:作・演出 美術 衣装 音楽制作 照明操作
川島信義:美術管理 美術制作 照明操作 音響操作
相根優貴:衣装管理 美術制作 宣伝管理 照明操作 美術操作
半田大介(つちともっぷ/劇団ヨーン):制作管理 美術制作 照明操作 音響操作
協力:おぐセンター 森下怜
宣伝美術:加藤美菜
印刷:タイヨー美術印刷(株)
〈名称未設定の夢〉とは
主にアルバイターであり、まれに俳優、ときどき現代川柳を制作する加藤美菜が、ナカゴーの劇団員である田畑菜々子さん、盛夏火の演出家さんである金内健樹さんをはじめ、主にはオカルトが好きな方々に声をかけ、定期的に何かを発表することにした企画の場です。
PROFILE: 加藤美菜
東京都、杉並区出身。2016年頃から、いくつかのコント・演劇作品などのスタッフを経験。2018年にENBUゼミナール映画監督コースに入学。その後、いくつかの演劇作品に出演。2022年頃から、現代川柳作品の制作を始める。
■主な出演作品
ナカゴー特別劇場「ひゅうちゃんほうろう(再演)」
東葛スポーツ「相続税¥102006200」