自然にモデル・チェンジ
サウンドの面では、従来のエレクトロ寄りのアプローチは抑え目で、EDM仕様のトランシーなタッチが比較的強めに打ち出されている。露骨な新機軸を持ち込まず、ごく自然な形でモデル・チェンジを果たしており、そのことが作品に心地良いフレッシュネスを与えている。
「詞とメロディーはわかりやすさを念頭に置いた反面、アレンジは結構好き勝手にやってますね。リリースを重ねるなかで〈八王子Pサウンド〉みたいなものができたかもしれないけど、そこを超えないと飽きられてしまう。難しいことですけど、自分らしさは残しつつ、新しいサウンドを確立したかったんです。EDMに関しては、音として気持ち良いというのもあるんですけど、自分がめざす方向性と近いものなのかなと。〈Tomorrowland〉みたいな巨大なダンス・ミュージック・フェスを観ても、お客さんが大合唱している。ポピュラーなものとして受け止められてますよね」。
これまで以上に自由な筆致で洗練されたポップ・ミュージックを成立させた本作は、一方でボカロ作品に対する最新の回答としても受け止めることができるし、ダンス・ミュージックとしての進化を刻み込んだ一枚とも言えるだろう。ここを新たな起点として、今後どのような歩みを見せるのか――八王子Pのさまざまなネクスト・フェイズが窺えるという意味でも興味深い、多面的な魅力を湛えたアルバムだ。
「初音ミクがこれだけ有名になったとはいえ、ボカロPは一般的には全然知られてないし、そもそも何をやっているのかがわかりにくいと思うんです。〈八王子Pってこういう人〉ってことをわかりやすく、広く伝えるにはどうしたらいいのか……まだ答えは出てないけど、そのことを常に考えています。今回の変化が、これまでのファンに新鮮に響けばいいし、新しい聴き手の方には〈こういうのも作るんだ〉って思ってもらえると嬉しいですね。これも通過点だし、次に繋げられればなと」。
▼八王子Pの作品
2012年作『electric love』(ソニー)
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▼八王子Pの近年の外仕事を一部紹介
左から、平野綾の2014年作『vivid』(ユニバーサル)、椎名ぴかりんの2014年作『漆黒の闇に染まりし歌声が貴様にも聞こえるか…』(avex trax)、秋赤音の2014年作『SQUARE』(トイズファクトリー)
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