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常にZESTで売れるような作品をめざしていた

――ここでもやはりネオアコがキーワードになったと。今回は本当にHALFBYを始める以前の高橋孝博に立ち返ったような作品なんですね。

「確かにそんな感じはあります。言葉にするとダサいけど、そういう意味では原点回帰……というよりデビューアルバムという感じが近いかもしれません。もともとHALFBYは、時代的な参照点も含めてある程度キャラクターを設定したうえで、DJありきのダンスミュージックをネイティブ・タン的な感覚を通しながら作っていく、というのが一つのテーマだったんです。だから、常に一枚フィルターを通すような感覚で作ってきた。

それが20年過ぎたことで、いまだサポートを受けながらも、好きなようにポップミュージックへと取り組めるスキルがついた。高橋孝博のベストテンにいつの時代でも入っているような音楽から生まれてきたアイデアを、ようやくHALFBYの作品として形にできるようになったんじゃないかな」

――HALFBY20周年記念の作品であることに加えて、高橋孝博の音楽人生を包括したアルバムでもあると。

「気付いたらそんな感じになっていました。より個人的な趣味の追求に近づいたともいえます。こないだ、京都のMETROで開催されたカジ(ヒデキ)くんのクリスマスライブでDJをしたんですが、バンドメンバーの堀江(博久)くんやマネージャーの竹田(憲司)さん、元ZESTの丹羽(宏彰)くんたちと話していて、自分の音楽的な高揚感がピークになるのは、彼らみたいな人たちと一緒にいるときだということに気付いたんです。

高校生のときから大好きなトラットリアのリリースに『bend it!』(92年)というサッカーの応援歌を集めたコンピレーションがあるんですが、それを聴いたときの自分と、いまの自分を比べても何も変わってないなって。結局、自分はトラットリアやelが大好きで、そこへの憧れだけでいままでやってこれたんです。自分でもはっきりわかっていなかったんですが、トラットリアからリリースされるようなアーティストになりたかったんだなって。振り返ってみると、常にZESTで売れるような作品をめざしていたんですよね。

※マイク・オールウェイと小山田圭吾が選曲/監修を務めた
 

その部分がこの『Loco』では強く出た、というのが正確だと思います。このアルバムは、渋谷系というムーブメントを京都で感じながら、〈米国音楽〉や〈モンド・ミュージック〉〈relax〉なんかに感化されて音楽を聴き進めた一人の人間のけじめなのかも。正直、なんかふっきれましたね。ヒットチャートに並ぶ音楽と決別できたような気がするし、この作品を元トラットリアの櫻木(景)さんが始めたレーベル、felicityからリリースできて清々しい気持ちです」

 

生まれ育った八幡で、いよいよ一生を過ごしそう

――ひとつピリオドを打たれた感じですが、次の高橋さんの動きも楽しみにしています。では、最後にアルバムタイトルについて教えてください。〈Loco〉とはハワイで生まれ育った人を意味する言葉だそうですね。

「〈Loco〉という言葉は、ZESTの梶本(聡)先輩がハワイ盤のレコードレビューで使っていたことで知ったんです。ロコAORとかロコグルーヴとか。最初はカタカナのイメージで、いわば〈ハワイの〜〉みたいなニュアンスとして捉えていました。まず単語として響きが良いし、ハワイの音楽の良さを凝縮した雰囲気があるなって。

ハワイでは単に〈地元の人〉という意味で使われているみたいですけど、深く調べてみると日本の旅行会社が現地の人を呼ぶのに使いはじめたという説もあるみたいです。なので、和製英語の可能性もあるんですよね。さらに米国だと〈危ないやつ〉とか〈狂ったやつ〉という〈Crazy〉と同じような感覚で使われることもあって。そういう〈Loco〉のいろんな側面を知ることで、〈完結編のタイトルとしていいかもな〉と意識しだしたんですよね。

単純に、〈Loco〉を〈ローカル〉として捉えても、コロナ禍で行動範囲が地元中心になったという意味でも繋がるし、そもそもハワイに行けない状態で作る〈ハワイがコンセプトのアルバム〉という着地点も日本人らしいのかなと。初めてハワイに行けないまま、ハワイへの記憶を辿り、あらためて想いを馳せながら作品を作るという作業でありつつ、コロナ禍で地元の八幡に目を向けて生活を再度作り上げていくことも同時進行だったんです。

あと遂に八幡で家を買ったりして、これまで一度も東京に移住せず、京都市内にさえ引っ越さず、〈生まれ育った田舎町でいよいよ一生を過ごしそうだな〉という感じなんですよ。たぶん46歳になっても地元から発信しているということを、ハワイのなまった言葉に託したんでしょうね」

――高橋さんのアーティストアイデンティティーに八幡住まいというのは強く影響を及ぼしているんだろうなとは、ずっと思っていました。

「トレイシー・ソーンの自伝『安アパートのディスコ・クイーン』を読んで、彼女がハートフォードシャーって田舎町からロンドンに通う姿に、八幡から東京や京都市内に出て音楽的カルチャーへと触れていた田舎者の自分を重ねてシンパシーを感じました。そして、僕はまだここ(田舎)にいるなって(笑)。八幡しか知らないから、音楽もそのフィルターを通らざるえないんでしょうね。いまは〈ローカル・フォーエバー〉という気持ちさえあります」

 


RELEASE INFORAMATION

HALFBY 『Loco』 felicity /Pヴァイン (2021)

リリース日:2021年10月6日
品番:cap-350/PCD-27055
価格:2,970円(税込)
配信リンク:https://p-vine.lnk.to/nJ9sjy

TRACKLIST
1. Loco
2. Everything Needs Love feat. Jun Saito
3. Calm As Day feat. Ruru
4. Beach Baby Be Mine feat. Richard Natto
5. A Lei, A Kiss, And Aloha
6. Quiet Rain
7. Fushigi feat. mei ehara
8. Hawaii Calls 2021
9. Let's Stay Out feat. Ginger Root
10. Fish And Poi
11. Sleepy Lagoon
12. Sunset Cruise Club
13. I'll Remember you feat. Ruru
14. Love Aloha