なんと前作から4年ぶりとなるHALFBYの新作『innn HAWAII』は、一部のリスナーを驚かせるかもしれない。特にDJでの彼やハッピーでキャッチーなシングル曲のイメージを持っている人ほど〈これHALFBY?〉と戸惑うことになるだろう。groovisionsによる愉快なミュージック・ビデオも話題となったビッグ・ビート直系の“Rodeo Machine”やキュートな子供声ラップ“Half Beat”、度を越して陽気なボルチモア・ハウス“Mad Surfin”といったHALFBYの代表曲と言うべき、聴けば誰もが笑顔で踊り出すポップ・ボムは、今作には収録されていないのだから。

即効性抜群のキラーなシングルと引き換えに、HALFBYが『innn HAWAII』に詰めたのは、緩やかにに展開しつつも、隅々まで趣向が凝らされたカンファタブルでモダンなラウンジ・トラックだ。cero橋本翼VIDEOTAPEMUSICらがゲストで参加しているものの、ヴォーカルの入った楽曲はAlfred Beach Sandal北里彰久が歌う2曲――とてつもなくメロウなファンク“Slow Banana”とサンセット・ムードのユース賛歌“Kids”のみ。この両曲がアルバム後半に収められていることからも、HALFBYの今作での狙いはあきらかだろう。タイトルの通り、清涼なリゾート感や果実の甘い香りが全体を貫く『innn HAWAII』は、砂原良徳の『TAKE OFF & LANDING』やアヴァランチーズの『Since I Left You』と並ぶ、作品全体で味わうべき極上の脳内ジャーニー・アルバムである。

かくして『innn HAWAII』は、HAFLBYのディスコグラフィー史上もっともコンセプチュアルな作品であるが、各曲のサウンドへ目を向けると、思わず頬が緩むサンプリングや情緒に流されすぎず絶妙に愛らしいメロディー・ラインといった、彼特有の気の利いたユーモアと品の良いチャーミングさは一切変わっていない。なにより、ファットで生々しいブレイクビーツの立ち方はまぎれもなくHALFBY印だ。つまり今作は、これまでと変化することで、かえって彼が一貫して音楽へと込めてきたコアな部分をいっそう際立たせた、4年ぶりの作品として、理想的な着地点に到達したアルバムだ。そんな『innn HAWAII』について、HALFBYこと高橋孝博に久しぶりに話を訊いた。

HALFBY innn HAWAII felicity(2015)

――新しいアルバムを聴き込めば聴き込むほどHALFBYというアーティストの芯の部分はなにも変わってない気がしました。だから、4年ぶりに復活ということに焦点を当てるより、ちゃんと音楽の話をしたいと思っているんです。

「〈シーンにふたたび帰ってきた〉みたいな書き方されるけど、別にボーッとしてたわけではなくて(笑)。アーティストのプロモーション・ツールとしてSNSが手軽に使われるから、そこに露出してないと休んでると思われがちというか。まあ4年間リリースはなかったけど、縮小しながらもDJはやってたし、CM音楽の制作や楽曲提供、リミックスなどのクリエイティヴな仕事はしつつ、そのなかで考えることはすごくあったかな。その結果、模索しながら今作のトーンに落ち着いたわけだけど、最初のアルバム『Green Hours』(2005年)からチルアウトな曲も入っていたし、自分の引き出し自体は特に変わってない。ただこの4年間で、『Side Farmers』(2007年)の頃の余韻も完全に終わって、シーンや世代の移り変わり、京都の変わり方を見つつ、いろいろ探っていくなかで結果的に期間が空いた」

『GREEN HURS』収録曲“Bathrobe”

 

――HALFBYとしての次の着地点を見つけあぐねていたのでしょうか?

「うん、あったと思う。まず始めにエンジニアの上田(修平)くんにアルバム制作の相談をするんだけど〈とにかく満足いくまでやりたい〉と伝えて、上田くんの了承を得てから制作が始まった。基盤だけ上田くんと作って、その後はプログラミングから楽器演奏まで、淡々と一人で作業を進めていたから、自分の作業量も増えていった。それが3年前かな? いままでだと、アルバムが10曲入りなら10曲作って終わりだったけど、 今作はワンループのものも含めてデモを30~40曲くらい作った。そこから理想に近い曲をiPhoneに入れて何回も繰り返し聴いたし、ハワイにも持って行ってドライヴしながら景色と摺り合わせをした」

――時間をかけることで作品をどう磨き上げていこうとしたのでしょう?

「単純に長く聴かれるアルバムにしたかった」

――瞬間風速的なシングルでなく、長く聴けるアルバムを作るという動機には、最初におっしゃった周囲や京都の変化も関係していますか?

「うーん、そうだね。第一には(長年働いていた)JET SETを辞めて、新譜のレコードを毎週聴く習慣がなくなり、それまでそういったレコードに対して感じてたフレッシュさを、もっと身近なライヴなどで感じるようになったこと。VIDEOTAPEMUSICやbeipabaくんがやってるYetiを観て、音楽的にはノスタルジックだけど、自分にとってデジャヴのような感覚もあって、逆に新鮮に聴こえた。なんかHALFBY始めた頃に似てるなーと」

 VIDEOTAPEMUSICの2012年作『7泊8日』のトレイラー

 

beipanaの2015年作『Lost in Pacific』のトレイラー

 

――ふんふん。

「歳をとることで辛い経験も増えたし、最新のビート・ミュージックというよりはイージー・リスニングみたいなものを好んで聴いてたのもあると思う」

――プライヴェートな面でもいろいろ忙しそうには見えてました。

「ねえ。目まぐるしく環境は変わった。京都だと世代的にもフックアップされるような機会も少ないし、HALFBY名義でも裏方の仕事では目立たないということもある。このままアーティストを辞めて職業作家みたいになるのか、もう一度HALFBYで新作を出すのかという葛藤もすごくあったし。そこで満足いくものが出来なければば諦めもついただろうけど、周りの協力もあって自分でも納得できる作品が出来た」 

――DJ活動とオリジナル・トラックを作る作業もシンクロしなくなってたんですか?

「もうまったく。ほんとはシンクロしたほうがいいんだろうけど、いままで〈ビースティ(・ボーイズ)でオラー!〉という感じだったからそういうわけにもいかなくて(笑)。自分では丁寧にグルーヴを作り上げているつもりだけど、ぶち上げてたイメージのほうが強いだろうし。でもDJ自体は誘われなくなったらもう辞めればいいかなと思ってたから、モチヴェーションも下がってた。自分のDJ用に、キングス・オブ・コンビニエンスのリエディットとかBPM100前後のゆったりとしたムーンバートンに繋がるような4つ打ちを作って、SoundCloudに3、4曲あげてて、ああいう感覚でDJもやろうとしたけど、途中で飽きた(笑)」

 

『innn HAWAII』のトレイラー

 

単なるハワイのムード音楽だったら僕が作る必要ないから、できるだけ距離は遠ざけたいなと

――新作はこの4年のうちに高橋さんを魅了したハワイが大きなインスピレーションとなっているそうですね。高橋さんがVIDEOTAPEMUSICやbeipanaの音楽に感じたフレッシュさと、ハワイに感じたフレッシュさは通じているのでしょうか?

「そうだね、近いと思う。人気No.1の観光地としても最高だけど、色黒のタレントが好きな賑やかなところより、本国アメリカへのノスタルジーとオールド・ハワイアンが溶け合ってるところにいちばんグッときた。レンタカー借りていろいろ回ってたんだけど、ラジオのチャンネルからはジャック・ジョンソンとかいまのハワイアンやアコースティックな音楽とオールドタイミーなカントリーやフォークが一緒に流れてて、そういうのを聴きながら中古盤のレコード屋に行ったりアンティーク・ショップを回ったり。そうしたハワイでレイドバックしてる感覚とビデオくん(VIDEOTAPEMUSIC)やDorian、beipanaくんに感じているもの。その3つがハイ・ラマズの『Hawaii』で繋がった、みたいな」 

Dorianの2014年作『midori』収録曲“Silent Hill”

 

ハイ・ラマズの96年作『Hawaii』

 

――ハワイのバブリーな面じゃなくて、洗練されすぎてないローファイなところに魅かれたというのは、高橋さんのインディー・ポップ感にも通じる気がします。歴史に残らずとも、高橋さんのレコード棚には残るインディーの7インチって絶対あるし。

「ハハハ(笑)。音楽やおもちゃとか全部が同軸だね。アメリカの大学でやってるフリーマーケットとかで手に入る古着やガラクタも。すべて同じ感覚」

――それはHAMSTER TOYS(HALFBYが以前運営していたレコードやおもちゃのウェブショップ)を見ててもわかりました。

「ハワイの中に小振りのアメリカを感じたのが大きいと思う。アメリカ本土に行ったことはないんだけど(笑)、ハワイには自分のなかにある淡いアメリカへの憧れが詰まってた。タイトル考えてた時に、ジム・ジミニーの『Welcome To Hawaii』が最初に思い浮かんだから、そもそもインディー・ポップ感もあったんだと思う」

ジム・ジミニーの88年作『Welcome To Hawaii』収録曲“Town & Country Blues”

 

――高橋さんの理想のアメリカがハワイに凝縮されてた?

「そうそう」

――そもそもどうしてハワイに行こうと思ったんですか?

「海外行きたいなと思って偶然選んだだけ。それが、両親の写真が先なのかJxJxYOUR SONG IS GOOD)が先なのか(HALFBYブログ参照)、なんとなくハワイに気持ちが入った瞬間があった。でもノスタルジックさやエキゾチックなものを求めて行ったわけじゃなく、むしろドバイに行くみたいな感覚で(笑)。開けた観光地で気分を解放されたいって気持ちもだいぶあった」

――分かれ目ではあったんでしょうね。ドバイに行ってたらまた違うアルバムになってたんだろうなと。

「ハハハ(笑)。たぶんドバイだと500%EDMみたいなアルバムになってたはず。ハワイにもリゾートを求めて行ったけど、結局自分の趣味思考で楽しんだし。いわゆるハワイ好きの日本人ってハワイに来てわざわざ美味い和食ダイナーとか行くでしょ? ああいう感覚はほんとなくて、ローカルであればローカルであるほど良いと思ってたから〈曙みたいなロコがやってるハンバーガー・ショップ最高!〉とかそういう感覚。結果的にはそれが良かったんだと思う

――やっぱり高橋さんっぽいですね。どこの馬の骨ともわからないインディー・バンドの7インチに惹かれて買う感覚だと思います。

「レコードもめっちゃ買ったよ。ハワイじゃ有名なカントリー・バンドとか、おばあちゃんがハワイ語で歌ってるやつとか。高価なレコードより現地感の強いアイテムをアンティーク・ショップなんかで買って喜んでた」

 

HALFBYがハワイで買ったレコードの一部

 

――ハワイで買ったレコードの温度感みたいなものが『innn HAWAII』にも落とし込まれてるんですか?

「少しはね。でも、ハワイ、ハワイしてないというか、単なるハワイのムード音楽だったら僕が作る必要ないから、できるだけ距離は遠ざけたいなと。だからこそ『innn HAWAII』みたいな直球的なタイトルがいいかなとも思った。砂原(良徳)さんの『THE SOUND OF 70's』というアルバムが大好きなんだけど、パンナムのノヴェルティ・アルバムというコンセプトながら、ただのラウンジ的な機内音楽では収まらず、サウンドの核となるところは『CROSSOVER』(95年)やリミックス・ワークから時系列で繋がっているという〈砂原節〉みたいな部分に強く影響された」

※20世紀を代表するアメリカの航空会社。91年に消滅するも、優れたデザインが今なお人気を博している

砂原良徳の98年作『THE SOUND OF 70's』収録曲“Sun Song (Bossa Version)”

 

――ふむ。

「だから〈アルバム1枚すべてハワイにするぞ〉みたいな確信もなかった」

――自分も今回の作品を聴いて砂原さんの『TAKE OFF & LANDING』と『THE SOUND OF 70's』を思い浮かべました。最近だとエマーソン北村さんの『遠近に』にすごく近い気がしましたね。それらの系譜に並ぶ、上品で気が利いている、語弊があるかもしれないけど日本人ならではのラウンジ・ビーツ・アルバムだと思いました。

「それは嬉しいけど僕のは偽物だから恐縮するなー(笑)」

エマーソン北村の2014年作『遠近に』予告編


――そのうえで僕が感じた高橋さんらしいなという大きな要素として、やっぱりイギリスの音楽らしさもあるんですよね。バレアリックなムードというか。

「ああー」

――例えば3曲目の“Birdsong”はプライマル・スクリームのシングルに収録されてた“Screamadelica”に近いと思ったんです。

「なるほど。90年代のヒップホップの12インチの裏面に入ってそうなハウス・リミックスや、あの頃のマンチェ〜インディー・ダンス〜レイヴ前夜の雰囲気はいつも好みとしてある。バレアリックだったりエクスペリメンタルだったりというあの温度感……絶妙に盛り上がらないところが好きで、DJではオリジナルよりも使うことが多かった。意識はしてなかったけど“Birdsong”は似た雰囲気を狙ったのかも。曲順的にはリードっぽい3曲目だけど、期待感は膨らみつつ存在感は薄い、みたいな曲にしたかった」

プライマル・スクリームの92年作EP『Dixie-Narco EP』収録曲“Screamadelica”

 

――うんうん。

「リアルタイムで聴いてきた90年代のイギリス感は、『The Island of Curiosity』(2010年)でやりたくもやり切ってなかったところがあって。メジャー・アルバム(『Side Farmers』)の後でとにかく忙しかったから(笑)。今回そこを丁寧にフィードバックしたようなところもあるかな」

『The Island of Curiosity』のダイジェスト

――高橋さんがプールサイドをDJでよくかけてたのはその頃でしたっけ?

「そうそう。『The Island of Curiosity』の頃にタンラインズっていたでしょ? あのアルバムは、その頃彼らをリリースしていたヤング・タークスというレーベルにすごく影響を受けてた。ああいうインディーとダンス・ミュージックがクロスオーヴァーする90年代に似た感じは後にチルウェイヴとしても発展したと思うけど、あの頃はそういうのをしっかり聴くこともできずに、うろ覚えで影響を受けてた(笑)」

タンラインズの2010年作シングル“Real Life”

 

――ただタンラインズやプールサイドはディスコ~ハウスだと思うんですけど、今回はやっぱりブレイクビーツならではのいなたさがありますよね。“Pearl Harbor”あたりもテリー・ファーリーのリミックスのなにかみたいなだと思いました。

ファームの91年作“ Don't Let Me Down”のテリー・ファーリーによるリミックス

 

「ハハハ(笑)。そうかなー? ハワイでは実際にアリゾナ記念館にも行った。日本人は僕たちだけだったけどね。そこで沈没した戦艦アリゾナも見たんだけど、暗く濁った海の記憶がいつの間にか初期ラフ・トレードからリリースしてそうなニューウェイヴネオアコの冷んやりしたイメージになって(笑)。“Pearl Harbor”はそれを元にトラックを作って、後からエレピを足すとあんな感じになった」

ラフ・トレードからリリースされたブルー・オーキッズの82年作『The Greatest Hit(Money Mountain)』収録曲“A Year With No Head”

 

―――なるほど。そのあたりの音楽の低い温度感だったんですね。

「そう言えば“Birdsong”は作ってて〈森野(義貴Handsomeboy Technique)っぽいかな?〉と一瞬思った」

――へえ! その森野さんっぽさとは?

「あの人、60年代のブリティッシュ・プログレみたいなのをいっぱいサンプリングしてるでしょ? なんか〈貴族制とゴージャスな雰囲気とブレイクビーツ?〉という感じ。本人は真逆だけど」

Handsomeboy Techniqueの2015年作シングル“Melodies”


――セカンド・サマー・オブ・ラヴの頃のインディー・バンドのリミックス以外に、ナイトメアズ・オン・ワックスやプライマル・スクリームの『Echo Dek』あたりのUKダブと並べても気持ち良く聴けると感じました。

「それは嬉しいな。でもその感じはメジャーのファースト・シングル“Screw The Plan”(2006年)のセルフ・リミックスを作った時から狙いとしてあったな。リミックス名をシャーラタンズをリリースしてたレーベル(デッド・デッド・グッド)から取ってdEAD deAD HALF gOOD REMIXにしてたし」

ナイトメアズ・オン・ワックスの2002年作『Mind Elevation』収録曲“70s 80s”

 

シャーラタンズの91年作『Some Friendly』収録曲“The Only One I Knoew”

 

〈後世まで聴かれるようなアルバムにしたい〉と普通のことを考えて

――Alfred Beach Sandal北里(彰久)さんがヴォーカル参加した“Slow Banana”はceroの『Obscure Ride』の曲とも繋げられそうなムードやビート感がありますが、あのアルバムが一つモデルにしたような、コンテンポラリーなブラック・ミュージックに興味はありますか? 

「あー、興味はあるけど、自分がやっていこうというのはない。ceroは好きだけど、自分の作ってる音楽をceroに近付けていくという感覚はまったくなくて、ただのファン」

ceroの2015年作『Obscure Ride』収録曲“Summer Soul”

 

――ふんふん。

「“Slow Banana”はもともとインストだった。”Kids”は〈アルバムの最後を良い歌で締めたい〉というのがあったので制作初期からザットン(北里)に頼んでたけど、アルバムの全体像が見えてきて曲順を決めはじめた頃に、このあたりでもう1曲ヴォーカル曲があってもいいかなと。でも新たなヴォーカリストに頼んでビーサンが薄まるのは違うなと思って、ザットンにもう1曲頼んでみた。本人はザットンと呼ばれてると知らないだろうけど(笑)」

 

――そもそも北里さんに“Kids”でヴォーカルをお願いした理由は?

磯部(涼)くんがビーサンのYouTubeのリンクをツイートしてて、それで知ったんだけど、最初は単純に歌声に惹き付けられた。曲は忘れちゃったけど何だかトロピカリズモ的というかブラジルっぽいひねくれ方してるなーと。でもそれと同時に、エッジのないスマートな曲を歌ってもすごく良さそうだなーとも感じて。で、その後に間部(功夫)くん(VIDEOTAPEMUSIC)がMVを作った、北里くんがヴォーカル参加したZycosの”NEWS”を聴いて〈彼ならやれる! 竜王を倒してくれる!〉と思った。とにかく歌い回しというかリズム感が好みだなと。それから間部くんを介してコンタクトを取って、ソウルフルなループとリズムボックスで作った簡単なデモを送ってたどたどしくイメージを伝えたところ〈こーいうのわりと得意だと思います〉という自信のあるメールが返ってきた」

Alfred Beach Sandalの2011年作『One Day Calypso』収録曲“キャンピングカーイズ
デッド”

 

 Zycosの2013年作『Give it to me』収録曲“NEWS”

 

――今回はfelicityからの初リリースですが、felicityを選んだ理由は?

「僕はもともとトラットリアが大好きで、(トラットリアを運営したのちfelicityを立ち上げた)櫻木(景)さんは憧れであり、音楽的にも信頼できる理解者。いまレーベルで展開しているアーティストもすごく筋が通っているし、インディー・レーベルだからプロモーションにすごくお金をかけられるわけじゃないけど、しっかりとした土台の上で出したかったというのはあった」

――高橋さんがトラットリアからリリースされていたもので特に好きだった作品は?

「なんだろ? 高校時代の元カノがフリッパーズ・ギターを教えてくれたんだけど、そこから小山田(圭吾)くんを知ってトラットリアを追うようになった。いろいろカタログを集めましたよ。アーティストもそうだけど、時代の節々に重要なコンピをリリースしてて、特に『Llama Ranch Compilation』(99年)はすごかった。タヒチ80の“Heartbeat”のデモ・ヴァージョンやLuminous Orange、アメリカのミンティ・フレッシュというレーベルから出てたジム・ルイーズの嫁がやってるニニアン・ホーイックランド・オブ・ループスあたりが一緒に収録されてて。サンプリング、コラージュ、ヒップホップ、サイケ、ノイズシューゲイザービーチ・ボーイズ、みたいなものが網羅されてた『Fantasma』のネタばらしのような作品。流石だなと」

『Llama Ranch Compilation』に収録されたニニアン・ホーイック“Scottish Rite Temple Stomp”

 

――felicityからのリリースはスムースに決まったんですか?

「櫻木さんがアルバムを聴いて、〈これは出したほうがいい、僕らは有能なアーティストのCDをリリースするのが仕事〉みたいなことを言ってくれた。それが一番大きかった。なので、完成した時点でもう満足してるところもある」

――HALFBYとしてのリリースはないものの、音楽の作り手としてはちゃんと仕事して生計を立ててたことが、今作のリラクシンなムードに繋がっているのかもしれませんね。

「4年間アーティストとしての危機感はあったけど、もともと成り上がり精神のないほうだから、人に与えられた課題をこなしてた結果がいまなだけ。無理なくマイペース。八方美人で業界にしがみつくのは苦しいでしょ」

――ハハハ(笑)。でも時間をかけただけの素晴らしいアルバムになって良かったですよ。

「今作は音楽に対してもっとも実直だったのかなーと。これまでは自分がアーティストなんて自覚がなくて、ニーズがあるなら……くらいの無責任でライトな気持ちだったけど、今後HALFBYとして活動を続けるなら〈後世まで聴かれるようなアルバムにしたい〉と普通のことを考えた。キーボートを弾いたりストリングスのアレンジを考えたりコーラスを録ったり、今回初めてやったことはいっぱいあるよ。だから、ほぼほぼ童貞です。そういう意味でこれは処女作みたい」

――活動13年目の(笑)。さっきはDJと創作がシンクロしてないと言われましたけど、ラウンジ感はありつつも、どの曲もビートはしっかり立ってるし、DJでもかけられそうですけどね

「いまはDJというより、Dorianが(ローランドの)909でやってるようなライヴがいいなーとなんとなく思ってる。自分の曲をライヴ用にリエディットして、そのほうが自分の理想に近いしDJ的感覚も活かせるというか。ライヴするならエレピくらいは弾かないとね。まあデカい音さえ出せたら、あとはスターウォーズのフィギュアで遊ぶ俺を見てもらうというのでもいいかもね」