©MARK SELIGER

ロックンロール・サウンドが鮮やかに描き出した13の物語——3年ぶりとなったジ・インポスターズとのアルバムは、気心の知れた仲間とならではの煌めきに溢れている!

 2020年の秋に発表したソロ名義の『Hey Clockface』から約1年という短めのスパンで、盟友ジ・インポスターズを伴ったエルヴィス・コステロのニュー・アルバム『The Boy Named If』がリリースされた。2019年から2020年初頭にかけて録音された『Hey Clockface』はヘルシンキでの録音やパリで行われた対面セッションに、マイケル・レオンハートを介したNY組(ビル・フリゼールらとのコラボも実現)とのリモート作業も交えたコロナ禍ならではの力作であったが、今回の『The Boy Named If』は気心の知れたインポスターズの仲間たち――ピート・トーマス(ドラムス)、スティーヴ・ニーヴ(キーボード/ピアノ)、デイヴィ・ファラガー(ベース)と共に、明るいメロディーと勢いに溢れた快作に仕上がっている。

ELVIS COSTELLO & THE IMPOSTERS 『The Boy Named If』 EMI/ユニバーサル(2022)

 この鉄壁のトリオはそもそも2002年の『When I Was Cruel』で揃ってバックを務めた顔ぶれで(エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ名義を掲げた最初のアルバムは2004年の『The Delivery Man』)、ファラガー以外は70年代からコステロを支えてきたアトラクションズの盟友たちだ。21世紀に入ってからはジャズ・ヴォーカル寄りの作品を出したり、アラン・トゥーサンやザ・ルーツとのコラボ作にも挑んで音楽性の幅を自由に広げてきたコステロだが、インポスターズとの連名では以降も『Momofuku』(2008年)や『Look Now』(2018年)をリリース。後者は2020年のグラミー賞で〈最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバム〉部門を受賞してもいる。

 2020年3月にハマースミス・アポロ公演で成功した後、英国ツアーの中止を余儀なくされていたコステロではあったが、先述の『Hey Clockface』を出して以降は、その収録曲をイギー・ポップとイザベル・アジャーニも招いてフランス語で取り上げたEP『La Face de Pendule à Coucou』や、初期の名作『This Year's Model』(78年)を全編スペイン語でリメイクしたトリビュート作『Spanish Model』(アトラクションズのオリジナル演奏を用いて、ルイス・フォンシやフアネス、セバスチャン・ヤトラらの歌唱をフィーチャー)など、意欲的な試みを残してきた。その傍らで進行していたと思しき制作と録音のプロセスについて、コステロはこう説明する。

 「『The Boy Named If』の制作は、1本のエレクトリック・ギターだけで始めた。シャープやフラットを使ってみたり、ローダウンしたり、逆を試したりしながら、明るいメジャー・キーの5曲を作った。徐々に、インポスターズが演奏できるようにまったく新しいレコードを書いていったんだ。アルバムのリズム・セクションは、初めは僕のギターとピート・トーマスのグレッチ・ドラムで、ボナパルト・ルームズ・ウェストでレコーディングしたんだ。フランスからの連絡を待っている間、20年の付き合いになるデイヴィ・ファラガーが、フェンダーのベースを入れてくれた。アルバムがトリオとして一流に聞こえたら、スティーヴ・ニーヴのオルガンはケーキの上のアイシングで、チェリーで、かつあの小さな銀の玉だね」。

 先行カットの“Magnificent Hurt”をはじめとする、インポスターたちの一体感が織り成した何とも言えない鮮やかさは、本作のテーマとなった普遍的な少年期のストーリーとも関係あるのかもしれない。

 「このアルバムのフル・タイトルは、『The Boy Named If(And Other Children's Stories)』。〈If〉とは架空の友達のニックネームで、実は隠された自分自身のこと。自分で否定していることも全部わかっている存在で、食器を割ってしまったことや、失恋したことに対して僕たちが責任を負わせる相手のことだよ」。

 セバスチャン・クリスとの共同プロデュースで生まれた全13曲は、コステロいわく〈13枚のスナップ写真のコレクション〉。ノスタルジーではなく古今の少年(や少女)が親しみを抱くであろうタイムレスなアルバムは、いまも変わらぬロックンロールのときめきに満ちている。

 

エルヴィス・コステロの近作を紹介。
左から、2020年作『Hey Clockface』、スティーヴ・ニーヴとの連名による2021年のEP『La Face de Pendule à Coucou』(共にConcord)、2021年のトリビュート作『Spanish Model』(UMe)

 

エルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズの作品を紹介。
左から、2004年作『The Delivery Man』、2008年作『Momofuku』(共にLost Highway)、2018年作『Look Now』(Concord)