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エルヴィス・コステロ × バート・バカラック、25周年のメモリー

 20世紀を代表する作曲家、バート・バカラックが去る2月8日に94歳で亡くなった。その訃報を受け、各方面で彼のキャリアや実績を改めて讃える記事などもすでに数多く出ているようですが、恐縮ながら偉大すぎる功績の振り返りについてはまたの機会に譲るとして……ここではあらかじめ予定されていたバカラックとエルヴィス・コステロの楽曲集『The Songs Of Bacharach & Costello』についての紹介記事とさせていただきます。

ELVIS COSTELLO, BURT BACHARACH 『The Songs Of Bacharach & Costello』 UMe/ユニバーサル(2023)

 

コステロのバカラック愛

 今回の『The Songs Of Bacharach & Costello』は、98年に登場した両者のコラボ作品『Painted From Memory』から25周年という節目でのリリースにあたる。近年に至るまでさまざまな音楽スタイルや自由なコラボで積極的にリリースを続け、いまでこそアルバムごとの振り幅の広さが認知されているエルヴィス・コステロだが、大袈裟に言ってしまえば、25年前のその『Painted From Memory』こそが大きな分岐点のひとつになったのかもしれない。

 90年代半ば頃までのコステロは基本的に歳を重ねながら自身のロックを成熟させていく存在と目されていたはずだが、同作を経た21世紀に入るとアンネ・ゾフィー・フォン・オッターとのクラシック作品『For The Stars』(2001年)やドイツ・グラモフォンでのヴォーカル作品『North』(2003年)、アラン・トゥーサンとニューオーリンズ作法で作った『The River In Reverse』(2006年)、Tボーン・バーネットとのアメリカーナ作『Secret, Profane & Sugarcane』(2009年)、ザ・ルーツとの『Wise Up Ghost』(2013年)など意外なコラボを通じてより焦点の絞れた作品を作っていくようになった。そうでなくても映画「ノッティングヒルの恋人」(99年)のサントラにおけるシャルル・アズナヴールのカヴァー“She”が現行コステロのイメージだという人も多いだろう。そういう流れで見れば、コステロにとっても、自身の幅広いルーツを表に出すことで成熟したアーティスト像を見せていくきっかけがバカラックとの共演にあったのは確かだ。

 とはいえ〈怒れるロッカー〉扱いだった頃から彼はバカラック好きの側面を垣間見せてきた(そもそも父のロス・マクマナスがミュージシャンだった関係で子どもの頃から膨大なポピュラー系レコードを聴いていたそうだ)。77年に録音されたスティッフ所属アーティストのライヴ盤『Live Stiffs Live』でコステロとアトラクションズはバカラックの“I Just Don’t Know What To Do with Myself”を演奏していたし、84年にはニック・ロウと“Baby It’s You”を発表。さらに95年のカヴァー・アルバム『Kojak Variety』でも“Please Stay”を取り上げていた。そして、50~60年代のブリル・ビルディングを舞台にした96年の映画「グレイス・オブ・マイ・ハート」のためにコステロは初めてバカラック本人と仕事する機会を得る。そこで共作されたのが“God Give Me Strength”だった(映画ではクリステン・ヴィガードが歌唱)。