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名作『ペインテッド・フロム・メモリー』に未発表曲や新録曲3曲など収録の2枚組コラボアルバム!

 英国のスティッフ・レーベルに所属していたミュージシャンたちによるライヴ・アルバム『Stiffs Live Stiffs』(1978)には、エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズの“I Just Don’t Know What To Do With Myself”が収録されている。英国では、64年にダスティ・スプリングフィールドでヒットしたバート・バカラック(作曲)&ハル・デイヴィッド(作詞)の作品だ。このカヴァーは、コステロとバカラックのコラボレーション・アルバム『ペインテッド・フロム・メモリー』(1998)を予見するものだった。コステロはパンクの流れの中から登場したが、当初から60年代以前のブリル・ビルディング系ソングライター、つまりバカラックに通じる作曲センスの持ち主だったのだ。

ELVIS COSTELLO, BURT BACHARACH 『The Songs Of Bacharach & Costello』 UMe/ユニバーサル(2023)

 2枚組CD『ソングス・オブ・バカラック&コステロ』は、『ペインテッド・フロム・メモリー』のリマスター版と、『テイクン・フロム・ライフ』から成る。後者には、ビル・フリーゼルが『ペインテッド…』の収録曲をジャズ風に調理した『ザ・スウィーテスト・パンチ』(1999)から選ばれたカヴァーに加えて、3曲の新録と6曲の未発表曲が収録されている。新録のうちの2曲は、バカラック&コステロの共作曲“ユー・キャン・ハヴ・ハー”と“ルック・アップ・アゲイン”。ヴィンス・メンドーザによる壮麗な編曲が耳を引きつけるこの2曲は、バカラック指揮のもとに21年に録音された。もう1曲のエルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズによる“テイクン・フロム・ライフ”は、22年の録音だ。そして未発表曲は、『ペインテッド…』のミュージカル・スコアを想定して書かれたもの。ヴォーカルはジェニー・マルダーまたはオードラ・メイだが、最後はバカラック本人の歌唱によるバラードで締め括られる。現在94歳の巨匠は、ピアノを弾きながら声を絞り出すようにして歌っている。涙がこみ上げてきたのは、もちろんバカラックの年齢のせいだけではない。