エルヴィス・コステロの8年ぶりとなる来日公演が、2024年4月8日の東京・すみだトリフォニーホールより幕を開けた。今回はアトラクションズのキーボーディストとして長年活動をともにする盟友スティーヴ・ナイーヴとの連名ツアーとあって、その絶対的信頼のもと意外性のあるナンバーが並ぶセットリストにも注目だ。

すでに全公演ソールドアウトとなっている来日ツアーより、初日のオフィシャルレポートがライブ写真とあわせて到着した。 *Mikiki編集部


 

聞き慣れたヒット曲も大幅にアレンジ

定刻を3分ほど過ぎたところでエルヴィス・コステロ、スティーヴ・ナイーヴが登場、「久しぶりだね、特別なショーにするよ」と挨拶したコステロがさっそく1曲目の“When I Was Cruel No. 2”をプレイし始め、すみだトリフォニーホールを埋め尽くした観客の心を解きほぐしていく。

ヘヴィに響きわたるリズムマシン、エレキギターを手にしたコステロがステージやや右手側、左手にはグランドピアノとエレクトリックキーボード、曲により鍵盤ハーモニカを操るスティーヴ・ナイーヴが位置して座る。2002年のアルバム『When I Was Cruel』のタイトルトラックだが、オリジナル以上にヘヴィなサウンドにアレンジされ、ズシンと迫ってくるし、ナイーヴは早速鍵盤ハーモニカを手に客席に降りてくる。

もう45年ほどありとあらゆるステージやレコーディングを共にしてきた二人だけに、何があっても、すべて対処できる自信がステージ上から溢れ出すし、伝説の78年初来日に始まり、20回以上も来日しているコステロだけに、日本にいかに熱心なファンがいるかもよくわかっているので余裕綽々だ。

続いて『Trust』(81年)からの“Watch Your Step”、『King Of America』(86年)からの“Jack Of All Parades”といった比較的地味な曲や未発表の“Like Licorice On Your Tongue”が続き反応もおとなしめだったが、初期の大ヒットアルバム『Armed Forces』(79年)からのおなじみ“Accidents Will Happen”で大きな拍手がわく。もともとは畳み込んでいくようなテンポの良い曲ながら、ここでは大胆なアレンジが施され、しかもピアノだけをバックに歌いこまれる。と書くといかにも重そうだが、そうじゃなく曲に新しい滋味を加えていくといった趣で、それがスリリングに響いてくるのだ。さすがコステロ!

そしてここからが前半のハイライトで『Trust』からの“Clubland”がプレイされ、それがスペシャルズのNo.1ヒット“Ghost Town”へとつながる流れにびっくり。登場してきたスペシャルズを気に入りファーストアルバムをプロデュース、2トーンブームを盛り上げたあの時代を振り返るようにキーボードがリーダー、ジェリー・ダマーズのフレーズを奏でる。と感傷に浸ってるとそれが、日本ではアニマルズで知られる“Don’t Let Me Be Misunderstood”(邦題:悲しき願い)へつながる。『King Of America』に入っているが、あまりステージにかけられることがないので日本での人気を知ってのピックアップだろう。ここらが嬉しい。

そしてMCで日本といえばと、アラン・トゥーサンと来たときの思い出を語り、彼と作った名盤『The River In Reverse』(2006年)からの“Ascension Day”をアコースティックギター1本で披露(これもあまり取り上げられることのないレア曲)、同じくギターだけで人気の“Beyond Belief”をプレイし、さらに『Hey Clockface』(2020年)からのタイトル曲や『Brutal Youth』(94年)からの“Still Too Soon To Know”などの珍しい曲が並び熱心なファンを喜ばせる。

驚かされたのは次の“Red Shoes”。初期コステロの代表曲の一つだが、最近ではあまり取り上げていなかったこの曲を大幅にアレンジし、テンポも変えて歌い込み、さんざん聞き慣れた曲がとても新鮮に響いてくる。やや重くなった空気を切り裂くようにデジタルビートとラップが絡む“Hetty O’Hara Confidential”(『Hey Clockface』)で、あっけに取られていると、次曲はもっとびっくり。なんと“Almost Blue”だ。昨年以前は20年近くやられていない曲で、名作『Imperial Bedroom』(82年)からの曲だが、その前作アルバム『Almost Blue』(81年)がナッシュビルでカントリーナンバーをカバーし、当時かなり批判されたのを思い出す。

 

来日ツアー初日で得られた幸福感と満足感

ここらから中盤(もう後半か)の私的ハイライトで、これまた珍しい『North』(2003年)の“Still”がじっくりと歌いこまれ、次の最初期のナンバー“Watching The Detectives”へと続く。会場全体をかなり暗いブルーのトーンが包み込み、ドラマチックな空間を鍵盤ハーモニカとエレキギター、リズムマシン、事前に入れておいた音とエフェクト処理なのかわからないがダブルボーカルにも聞こえる歌、それと対話するかのような自由度の高いギターが響きわたる。もう本当に何千回も歌い、プレイしてきている曲だろうに、こうして大胆にアレンジし、曲を活き活きとしたものにする彼のアーティスト魂には、本当に熱くさせられた。

その興奮が冷める間もなくバート・バカラックとの共作盤『Painted From Memory』(98年)からの難曲“I Still Have That Other Girl”が歌われる。正直なことをいえば“God Give Me Strength”が聴きたかったが、ナイーヴの素晴らしいピアノもたっぷりと味わえて、これでも大満足。そんな会場へのプレゼントのように続いて“She”がプレイされる。

日本ではコステロといえばコレというほど人気の高い曲は映画「ノッティングヒルの恋人」の主題歌として使われたシャルル・アズナヴールの名曲。ここでは、ロンドンの名門Royal College Of Music(王立音楽大学)に通った才人ナイーヴのみごとなピアノをバックに、50年代風のボーカルマイクで往年のポピュラーシンガーのように歌い上げ感動が会場を包み込む。大拍手に送られステージ袖に引っ込むが、一瞬で再登場。アンコールに応えたということか(笑)。

平和への祈りを込め『Kojak Variety』(95年)で取り上げていたモーズ・アリソンの“Everybody’s Crying Mercy”を渋くきめ、次が観客全員が大好きなニック・ロウのナンバー“(What’s So Funny ’Bout) Peace, Love And Understanding”が始まり、この日の充実したステージを観客が称えるように手拍子が広がっていくが、それに応えてなんとセカンドヴァースはナイーヴがボーカルを取って喜ばせてくれる。これ以上ないピースフルな空気のなか最後の必殺“Alison”が歌われ、全ファンが本当に来てよかったと幸福感に酔いしれた。

こんなアーティストと同時代を歩む満足感は本当に特別なものだ。すぐにでもジ・インポスターズとの来日を実現してほしい。

 


RELEASE INFORMATION

ELVIS COSTELLO & THE IMPOSTERS 『ザ・ボーイ・ネームド・イフ(アライヴ・アット・メンフィス・マグネティック)』 ユニバーサル(2024)

リリース日:2024年4月3日(水)
品番:UICY-16211
価格:2,750円(税込)
※日本のみCD発売

TRACKLIST
1. Magnificent Hurt (Memphis Magnetic Version)
2. Truth Drug (Memphis Magnetic Version)
3. Penelope Halfpenny (Memphis Magnetic Version)
4. So You Want To Be A Rock ’N’ Roll Star
5. What If I Can’t Give You Anything But Love? (Memphis Magnetic Version)
6. The Boy Named If (Memphis Magnetic Version)
7. Let Me Roll It
8. Everyday I Write The Book
9. Out Of Time
10. Here, There And Everywhere
11. Magnificent Hurt (chelmico Version)

 

LIVE INFORMATION
ELVIS COSTELLO & STEVE NIEVE ※終了分は割愛

2024年4月9日(火)東京・すみだトリフォニーホール ※SOLD OUT
2024年4月11日(木)大阪・ザ・シンフォニーホール ※SOLD OUT
2024年4月12日(金)浅草公会堂 ※SOLD OUT
公演ぺージ:https://smash-jpn.com/live/?id=4079

 

公式サイト(日本):https://www.universal-music.co.jp/elvis-costello/
公式サイト(海外):https://www.elviscostello.com/