ブルー・ラブ・ビーツ。ビートメイカーのNK-OKことナマリ・クワテンと、ギターを中心にマルチに楽器を操るMr DMことデヴィッド・ムラクポルからなるノース・ロンドンのプロデューサー/インストゥルメンタルデュオが初めての公式作品をリリースしたのは、今から6年近く前のことだ。初EP『Blue Skies』(2016年)を聴いた時の第一印象は、90年代に〈ヒップホップ世代によるジャズの再解釈〉を謳ったグールーのジャズマタズのような音楽を、ネオソウルやグライムなどを直に浴びた世代の若者が新しい感性で解釈し直した、といったものだった。
その後、ローラ・マヴーラ“Ready Or Not”のリミックス(2017年)を皮切りに、デュア・リパなどのリミックスを手掛けつつ、ヌバイア・ガルシアやモーゼス・ボイドのようなジャズ奏者、ルビー・フランシスやジャズ・カリスといったR&Bシンガーなど気鋭のUKアーティストと共演しながら、作品を出すたびに音楽表現の幅を広げてきた。日本では、Nao Yoshiokaやさかいゆうの曲をリミックスしていたことを知る人もいるだろう。古くからアシッドジャズやUKソウルを聴いてきたリスナーなら、NK-OKの父親がD・インフルエンスのクワメ・クワテンであることに感慨を抱く人もいるかもしれない。
フルアルバムとしては2018年に『Xover』、2019年に『Voyage』をリリース。ジャズをベースにエレクトロニカな感覚も持つ彼らの音楽はジャズトロニカとも言われている。だが、尖鋭的なだけでなく、ポップで人懐っこくもある。そんな彼らが2021年にブルーノートと契約し、3作目となるアルバム『Motherland Journey』を発表した。〈祖国への旅〉を謳い、アフロビートのルーツを遡りながら未来に向かうブルー・ラブ・ビーツのふたりにZoomで話を訊いた。
※このインタビューは2022年2月25日発行の「bounce vol.459」に掲載された記事の拡大版です
BLUE LAB BEATS 『Motherland Journey』 Blue Note/Blue Adventure /Decca France/ユニバーサル(2018)
10代で出会ったふたりが始めた〈青い実験室〉
――結成は2013年頃と聞いています。当時はふたりとも10代でしたが、どうやって出会ったのでしょうか。
NK-OK「出会ったのはワック・アーツ・カレッジという、低所得の若者がアートを学ぶユースセンターみたいなところだった。演奏やプロデューシング、歌、ダンス、演劇、いろんなアートが学べる場所で、40〜60ポンドくらいする1〜2時間のレッスンを、たった2ポンドで受講できたんだ。
そこの食堂で僕がビートメイキングをやっていたら、デヴィッド(Mr DM)がやってきた。彼はいろんな楽器ができて、〈これは凄い! 早く形にしないと〉と思って、すぐにふたりで始めたんだ」
――NK-OKさんは、お父様のクワメ・クワテンがマネージメントするヒップホップユニット、エイジ・オブ・ルナ(The Age Of L.U.N.A.)でも活動していましたよね。グライムにハマってJ・ディラにも刺激を受けたそうですが、D・インフルエンスで活動したお父様の影響はやはり大きいですか?
NK-OK「確かに父はD・インフルエンスのキーボーディストでプロデュースもしていて、ジェイ・Zやミック・ジャガーとも仕事をしてきた。だから自分が音楽の世界に入っていくのは自然の成り行きだった。
ただ、聴いてきた音楽という意味では母の影響が大きい。母は今もDJとして活動していて、毎週金曜日に〈Fresh And Funky〉っていうクラブイベントでウォームアップセットを任されていて、700人から1,000人くらいのお客さんを沸かせている。あと、祖母からブルーノートなどのジャズを教わって、セロニアス・モンク、ジョン・コルトレーン、ハービー・ハンコックなんかを知ったんだ」
――Mr DMさんはミドル・エセックス大学でジャズを学んで、ハービー・ハンコック、オスカー・ピーターソン、ミルト・ジャクソンの技法を学んだと聞いています。オクターブ奏法を含めたギターの音色も味わい深いですが、誰に影響を受けました?
Mr DM「ギターに関して言えば、ジミ・ヘンドリックスからの影響が大きい。ベスト盤の『The Ultimate Experience』をよく聴いていたよ。あとは、ウェス・モンゴメリー、グラント・グリーン、ポール・ジャクソンJr.、リー・リトナーだね」
――ブルー・ラブ・ビーツのラブ(Lab)は実験室/工房を意味するラボのことですよね? ユニット名の由来を教えてください。
NK-OK「もともとはNK-OK & Mr DMという名前で活動していたんだ。その時に使っていたスタジオの内装がブルーで、父が来るたびに〈ブルーのラボ(青色の実験室)〉って呼んでいた。そして、自分たちはインストゥルメンタルの音楽をやっていたから、最後に〈ビーツ〉という言葉をつけてブルー・ラブ・ビーツにしたんだ」
――サウス・ロンドンのアーティストとの絡みも多いあなたたちですが、活動拠点はノース・ロンドンのゴルダーズ・グリーンなのですよね?
NK-OK「ゴルダーズ・グリーンはさっき言った〈ブルーのラボ〉があった場所で、今も同じノース・ロンドンにいるけど、もうちょっと北の方。ロンドンでは、トゥモローズ・ウォリアーズのような教育機関もだけど、今はサウス、あとイーストの音楽シーンがしっかりしていると思う。ただ、サウスには、車で交通渋滞に巻き込まれると1時間半から2時間かかることもあって、滅多に行かない。自分たちはノースでやってきたけど、いつもトラブルを起こしていて(笑)、これからは中央より西のセントラル・ウェスト地区でジャムセッションをやろうかと思っている」