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コラム

ヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)『Source』現行UKジャズの才能が表現した幅広いルーツとの深い繋がり

ヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)『Source』現行UKジャズの才能が表現した幅広いルーツとの深い繋がり

 何かしらの時代性を伴って音楽シーンが語られる際には、その時と場を象徴するキャッチーな名前も同時に言い交わされるものだが、かつてサンダーキャットやカマシ・ワシントンらの上昇に伴ってLAシーンに大きなスポットが当てられたように、ここ数年のUKジャズにおけるロンドンを中心としたうねりが耳目を集めるなかで注目されてきた名前のひとつがヌバイア・ガルシアだろう。〈英国版カマシ〉と称され、シャバカ・ハッチングスに継ぐ存在と目されてきたサックス/フルート奏者の彼女は、シャバカがディレクターを務めたブラウンズウッド発のコンピ『We Out Here』(2018年)でも9曲中5曲にフィーチャーされるなど、場の活況を外界にプレゼンする際の顔役的な位置付けをも自然に担ってきたと言える。そんな人気者が、このたびコンコードでの初作となるアルバム『Source』を発表した。

 物凄く大雑把に括ってしまえば、USのジャズ界隈で新世代と括られた面々がヒップホップやビート・ミュージックとの直接的なコネクションの幅広さを大きなユニークとしていたのに比べると、UKジャズでは外部との繋がりよりも演奏家のコアな主役感が前面に出ているように思える。また、大まかな印象としてはキーになるプレイヤーに女性が目立つのも特徴で、ネリヤやココロコ、シード・アンサンブルのような女性メインのバンドの人気もシーンの豊かさを物語るものだろう。ヌバイアもソロで活動する傍ら、ジェイク・ロング率いるマイシャでスピリチュアルな演奏を聴かせ、ドミノからアルバム『Blume』(2019年)を出したネリヤにも貢献してきた。

 一方、ソロでの彼女は、ジャズ・リフレッシュドから最初のリーダー作『Nubya's 5ive』(2017年)を発表し、2018年にはEP『When We Are』を自主リリース。それらがメディアや各賞で高い評価を獲得するなかで、今回の『Source』はまさに待望の一作だろう。演奏陣は『Nubya's 5ive』の頃から変わらぬジョー・アーモン・ジョーンズ(キーボード)とダニエル・カシミール(ベース)が固め、ドラムスはサム・ジョーンズが演奏。ヌバイアと共同プロデュースを担ったのは、先述のネリヤ作品やロイル・カーナー、ソランジュらを手掛けてきたクウェスだ。

 ロンドンからボゴタ、カウラ、ジョージタウンまで、故郷とする多くの場所にインスパイアされたという本作において、彼女は自分のルーツやコミュニティーとの繋がりを改めて捉え直し、その意識が各曲によりパーソナルな色合いを与えている。フライング・ロータスやカリプソ・ローズ、ダブステップのマーラ、コロンビアのニディア・ゴンゴラらに加え、ハービー・ハンコックやウェイン・ショーターといったジャズ巨匠からもインスピレーションを受けている彼女は、ブロークン・ビートやダブステップ、アフロ・ディアスポラ、レゲエやカリプソ、クンビアまでを自在に己のジャズとして展開することに成功した。

 アルバムは、彼女いわく〈人々を孤立させ、自分自身や他の人との関係を断ち切ってしまう〉現代生活を展開の緩急で表現したという“Pace”でスタート。続く“The Message Continues”は、過去の物語を語り継いでいくことの重要性というテーマを、躍動的なグルーヴと大らかなソロで描いていく。そんな道程の先に雄大な地平線が開けてきたかのようなタイトル曲“Source”は、レゲエとジャズを力強くブレンドしてダビーに響かせた12分もの大作だ。ここでフィーチャーされたココロコのミス・モーリスことシーラ・モーリス・グレイ、キャシー・キノシ、リッチー・シーヴライト(前2者はネリヤやシード・アンサンブルでも活動)の3名は、〈女性の集団主義を讃える曲〉だという“Stand With Each Other”でもトラディショナルなレゲエ風味のハーモニーを披露。ヌバイアいわく〈この3人の歌声が大好きで、いままで聴いたことのないブレンドになっている〉とのことで、こうしたコラボが明快なハイライトを演出しているのは間違いない。

 客演という意味では、コロンビアで過ごした際に出会ったというラ・ペルラを迎えたクンビア風味の“La Cumbia Me Esta Llamando”が印象的だし、ガイアナの民謡やカーニヴァル文化を題材に自身の家族のルーツを深く掘り下げた“Before Us In Demerara & Caura”にもモーリスがトランペットで登場。シカゴ出身のアケニャが濃密な歌唱を聴かせる“Boundless Beings”で締め括るまで、主役の描くヴィジョンがスピリチュアルに表現された傑作だと言えるのではないだろうか。

 ちなみにヌバイアは、ブルー・ノートの名曲を注目アクトが吹き込んだ9月の企画盤『Blue Note Re:imagined』にも参加。〈ロンドン最注目〉という形容を彼女が飛び越えていく日もそう遠くないはずだ。

 


ヌバイア・ガルシア
ロンドン出身、91年生まれのサックス/フルート奏者、作曲家。カムデン・ミュージックでピアニストのニッキー・ヨーに師事した後、10代後半にゲイリー・クロスビーのトゥモローズ・ウォリアーズに参加し、トリニティ・ラバン音楽院で学ぶ。2016年にネリヤとマイシャそれぞれで最初のEPをリリースし、2017年に初のソロ名義作となるEP『Nubya's 5ive』をジャズ・リフレッシュドから発表。2018年にセカンドEP『When We Are』を自主リリースする一方、マイシャとネリヤのアルバムや数々の客演でも高い評価を獲得する。今年に入ってコンコードとの契約を発表し、このたびファースト・フル・アルバム『Source』(Concord/ユニバーサル)をリリースしたばかり。

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