Shabaka Hutchings

UKから名曲たちが甦る『Blue Note Re:imagined』とは?

 ジャズの歴史を作り上げることになったさまざまな名盤~名曲~名演を送り出し、2019年で創立80周年を迎えたブルーノート。21世紀に入ってこの数十年の動きについては必ずしもジャズの範疇に止まるものでなくなっているとはいえ、ドン・ウォズが社長に就任する前後からのリフレッシュされたジャズ観の広がりも相まって、その偉大なカタログがさまざまな角度から改めて脚光を浴びる機会は何度となくあった。そんなわけで、このたび81年目のブルーノートから届いたのが、ここで紹介する興味深いコンピレーション『Blue Note Re:imagined』だ。

VARIOUS ARTISTS 『Blue Note Re:imagined』 Blue Note/ユニバーサル(2020)

 タイトルを見て、レーベル設立65周年のタイミングで出た企画盤『Blue Note Revisited』(2004年)を思い出したという年季の入ったリスナーもいるかもしれないが、そちらが4ヒーローやジャザノヴァ、マッドリブ、J・ディラ、DJカム、DJメーディらクラブ目線の欧米クリエイター陣による名曲のリミックス集だったのに対し、英デッカとタッグを組む格好でコンパイルされた今回の『Blue Note Re:imagined』は、現行のUKジャズ・シーンを賑わせるミュージシャンたちが大挙参加した、実に豪華でフレッシュなカヴァー/リメイク集となっている。

Jorja Smith

Steam Down

 そんなわけで今回のラインナップには、シャバカ・ハッチングスを筆頭に、ジョー・アーモン・ジョーンズを擁するエズラ・コレクティヴ、ヌバイア・ガルシア、ブルー・ラブ・ビーツ、アルファ・ミスト、スキニー・ペレンベなど、近年のUKジャズを語るのに欠かせない『We Out Here』以降の人気ミュージシャンたちがズラリ。一方ではジョルジャ・スミスやジョーダン・ラカイ、ポピー・アジュダ、フィアといったソウル/R&B的なポピュラー性を備えた顔ぶれも作品世界のイメージをより大きなものへと膨らませている。

Yazmin Lacey

 そこに新進気鋭のエマ・ジーン・サックレイやヤスミン・レイシーといった名前も加わり、スチーム・ダウンやイシュマエル・アンサンブル、メルト・ユアセルフ・ダウンらがエレクトロニックやクラブ・ミュージック観点のエクレクティックなモダンさを保証する。少し前にソウル・ジャズから出ていたコンピ『Kaleidoscope(New Spirits Known & Unknown)』ともけっこうメンツがかぶっているのはおもしろいが、言うなれば、〈ブルーノート〉や〈ジャズ〉を媒介として集まった、広い意味での現行UK音楽の先鋭たちのショウケースにもなっているということだろう。

 今回は英国アクトを中心としたデッカ主導の作品ということでブルーノート所属アクトの参加がないものの、これもまた老舗レーベルの備えた懐の深さを物語るものかもしれない。いずれはブルーノートのアーティスト主導による同種の企画盤も聴いてみたいところだ。

 

ブルーノート自体の81年目はどうなってる?

 もちろん、81年目に入った2020年もブルーノート自体のリリースは活発だ。前年には当代きってのスターとなるケンドリック・スコット・オラクルの『A Wall Becomes A Bridge』や、マカヤ・マクレイヴンらと演奏してきた若きヴィブラフォン奏者ジョエル・ロスのデビュー作『Kingmaker』といった話題作も送り出していたものだが、周年的な話題という点で言えば、2019年10月で生誕100周年を迎えたアート・ブレイキーの未発表音源集『Just Coolin'』(59年の録音)が今年に入って発掘されるというトピックもあった。

 一方ではプスンブーツとノラ・ジョーンズの新作、キャンディス・スプリングスのカヴァー集といった安定のポピュラー作品もコンスタントに届き、シャバカ・ハッチングスのアンセスターズに参加するンドゥドゥゾ・マカティーニのスピリチュアルなリーダー作という新展開も(ブルーノートで初の南アフリカ人アーティストだそう)。さらにはオーセンティックなジェラルド・クレイトン、近年のレーベル・カラーをアップデートしてきた立役者となるデリック・ホッジやアンブローズ・アキンムシーレ、グレゴリー・ポーターもそれぞれ充実の作品をリリース。先述の『Kingmaker』に参加していた若手サックス奏者、イマニュエル・ウィルキンスのデビュー作『Omega』も届いていて……多種多様ながらも老舗の風格は健在なのである。 *香椎 恵

 

フレッシュで多彩な顔ぶれがひしめく『Blue Note Re:imagined』収録曲を駆け足で紹介!

01. Rose Rouge  by JORJA SMITH


〈Black Lives Matter〉運動のデモの模様を映したMVでも話題になった話題の一曲。原曲の詞をメッセージ性豊かな解釈でクールに歌うのは、その名も“Blue Lights”でデビューし、2018年の初作『Lost & Found』(FAMM)で名を馳せたウォルソール出身のジョルジャ・スミス。オリジナルは当時フレンチ・タッチとフューチャー・ジャズの融合で称賛を浴びたサン・ジェルマンの世界的なヒット作『Tourist』(2000年)で冒頭を飾ったハウス・トラックだ。

 

02. Footprints  by EZRA COLLECTIVE


名盤『Adam's Apple』(67年)に収録され、後にマイルス・デイヴィスも取り上げたウェイン・ショーターの代表曲のひとつを、ジョー・アーモン・ジョーンズ(キーボード)やフェミ・コレオソ(ドラムス)らの集った現行ロンドン・シーン最注目の5人組バンドがタイトにカヴァー。ジョルジャ・スミスやロイル・カーナー、ココロコも招いて昨年リリースした待望のフル・アルバム『You Can't Steal My Joy』(Enter The Jungle)と併せて楽しみたい。

 

03. Watermelon Man (Under The Sun)  by POPPY AJUDHA


原曲はハービー・ハンコックの62年作『Takin' Off』に収録され、歌入りカヴァーやハービー自身のヘッド・ハンターズ版も著名なスタンダード。ここで独自のオーガニック・ソウル解釈を見せるのは、南ロンドンで活動するポピー・アジュダ。最近だとモーゼス・ボイド『Dark Matter』(Exodus)収録の“Shades Of You”でも歌っていた彼女は、ブラウンズウッドでの“Love Falls Down”やトム・ミッシュの“Disco Yes”でも名を売った期待株だ。

 

04. Wind Parade  by JORDAN RAKEI


オリジナルはドナルド・バードの名作『Places And Spaces』(75年)に収録され、ヒップホップのサンプリング・ソースとしても名高いメロウ・チューン。ここでスムースなカヴァーに挑んだのは、豪州のブリスベン出身でロンドンを拠点に活動するマルチな人気者のジョーダン・ラカイだ。昨年の最新作『Origin』(Ninja Tune)も高い評価を獲得しているほか、最近の仕事ではトム・ミッシュ&ユセフ・デイズのリミックスも記憶されるところ。

 

05. Illusion (Silly Apparition)  by SKINNY PELEMBE


もともとアンドリュー・ヒルが66年に録音した『Change』(2007年にアルバムとして公式リリース)所収の1曲ながらも当時は世に出されず、サム・リヴァース名義の『Involution』(75年)が初出となったナンバー。それをネタ使いする格好でドープなダウンテンポに解釈したのは南アフリカはヨハネスブルグ生まれのマルチ奏者、スキニー・ペレンベ。昨年リリースのソロ作『Dreaming Is Dead Now』(Brownswood)にも通じるディープな味わいだ。

 

06. Galaxy  by ALFA MIST


アルファ・ミストは2019年の来日公演も好評を博した東ロンドン出身のプロデューサー/コンポーザーで、ジョーダン・ラカイやロッコ・パラディーノらもゲスト参加した現時点の最新作『Structuralism』(Sekito/インパートメント)ももちろん必聴の人気アーティスト。エディ・ヘンダーソンの75年作『Sunburst』に収録されたオリジナルはジョージ・デュークらのプレイが冴え渡る幻想的なナンバーで、そのメロウなムードもここで受け継がれている。

 

07. Search For Peace  by ISHMAEL ENSEMBLE


オリジナルはマッコイ・タイナー屈指の名盤となる『The Real McCoy』(67年)に収録され、ジョー・ヘンダーソンの穏やかなサックスも染み渡る一曲。ここで浮遊感のあるカヴァーを披露したイシュマエル・アンサンブルは、サックス奏者のピート・カニンガムが率いるブリストル産のジャズ・エレクトロニカ・グループで、昨年リリースしたファースト・アルバム『A State Of Flow』(Severn Songs/rings)もアンビエント要素を湛えた好盤に仕上がっていた。

 

08. A Shade Of Jade  by NUBYA GARCIA


オリジナルはサックス奏者のジョー・ヘンダーソンがブルーノートに残した最後のオリジナル作『Mode For Joe』(66年)に収録の軽快なナンバー。そのディープなカヴァーに臨んだヌバイア・ガルシアはロンドンを拠点に活動するサックス奏者で、〈Tomorrow's Warriors〉参加を経て頭角を表した現代UKジャズのキー・プレイヤーのひとりだ。今年に入ってコンコードからリリースしたメジャー・デビュー作『Source』(Concord)も当然のように必聴。

 

01. Etcetera  by STEAM DOWN feat. AFRONAUT ZU


ここからはDisc-2。ウェイン・ショーターの80年作『Et Cetera』(録音は65年)に収録されたオリジナルをモダンなビート・ミュージックに解釈するのは、ジャズやアフロビートのクロスオーヴァーするパーティー〈Buster Mantis〉をロンドンで主催するスティーム・ダウン。カマシ・ワシントンやヌバイア・ガルシア、サンパ・ザ・グレートらとのコラボを行っている。マイクを握るアフロノート・ズーはルディメンタルが今年発表した“Krazy”でもお馴染み。

 

02. Montara  by BLUE-LAB BEATS


ボビー・ハッチャーソンの『Montara』(75年)に収録された涼やかなオリジナルはサンプリング方面でも人気の曲で、日本ではスチャダラパー“サマージャム'95”の元ネタとしてお馴染みか。そんな原曲のグッド・ヴァイブを損なうことなく爽快なメロウ・ビーツに仕立てたのは、クワメ(D・インフルエンス)の息子としても知られるブルー・ラブ・ビーツ。2018年の『Xover』(Blue Adventure/Allpoints)以降もジャズ人脈との絆を深めつつ好曲を発表している。

 

03. I'll Never Stop Loving You  by YAZMIN LACEY


オリジナルは今回のコンピでもっとも過去の曲にあたる、ドド・グリーンの62年作『My Hour Of Need』に収録されていたオーセンティックなヴォーカル・ナンバー。それをソウルフルな歌唱で再生するのはノッティンガムを拠点に活動するネオ・ソウル系のシンガーで、ブラウンズウッドのコンピ企画でもたびたびピックされてきたヤズミン・レイシーだ。今年に入って自主リリースしたEP『Morning Matters』(Own Your Own)も聴きモノ!

 

04. Armageddon  by FIEH


昨年デッカから初のアルバム『Cold Water Burning Skin』(Decca)を発表したばかりのフィアは、ヴォーカルのソフィー・トレフスボルを中心にノルウェーのオスロで活動するバンド。地元ではミューチュアル・インテンションズとの繋がりもありつつ、近年のアトモスフェリックなネオ・ソウル志向によって国外へも進出することに成功した。オリジナルはまたまたウェイン・ショーターで、こちらは64年作『Night Dreamer』に収録されていた楽曲となる。

 

05. Maiden Voyage  by MR. JUKES


オリジナルはもちろんハービー・ハンコックの65年作『Maiden Voyage』に収録された超スタンダード。ここで雄大なスケールのカヴァーをドラマティックに披露するのはボンベイ・バイシクル・クラブのフロントマン=ジャック・ステッドマンによるソロ・プロジェクトのミスター・デュークス。日本のジャズ喫茶からも着想を得たという2017年のデビュー作『God First』(Island)は、レイラ・ハサウェイらも交えての快作だった。

 

06. Prints Tie  by SHABAKA HUTCHINGS


現代UKジャズの勢いを象徴するキーマンのひとりで、サンズ・オブ・ケメットやコメット・イズ・カミングでも活躍するサックス奏者のシャバカ・ハッチングス。今年はシャバカ&ジ・アンセスターズで『We Are Sent Here By History』(Impulse!)も発表している俊才が今回カヴァーに挑んだのはボビー・ハッチャーソンだ。グルーヴィーなオリジナルはボビーとハロルド・ランドが組んだクラブ目線での人気盤『San Francisco』(71年)に収録されている。

 

07. Caribbean Fire Dance  by MELT YOURSELF DOWN


またまたジョー・ヘンダーソンの66年作『Mode For Joe』収録の一曲。取り組んだメルト・ユアセルフ・ダウンは、ロンドンでアコースティック・レディランドを率いたピート・ウェアハムが結成したユニットで、当初はシャバカ・ハッチングスも参加していた。ジャズとファンクにロック要素も盛り込んでコンスタントに作品を発表し、今年に入って大御所ベン・ヒリアーのプロデュースによるデッカ移籍作『100% Yes』(Decca)もリリースしたばかりだ。

 

08. Speak No Evil (Night Dreamer)  by EMMA-JEAN THACKRAY


またまた人気のウェイン・ショーター。こちらのオリジナルは、66年作『Speak No Evil』と64年作『Night Dreamer』、それぞれの表題曲となる。ブロークン・ビーツも交えたハウシーな解釈で気持ち良く聴かせるのは、ヨークシャー地方で育ったマルチ奏者のエマ・ジーン・サックレイ。スキニー・ペレンベやエズラ・コレクティヴらとの共演も経験し、今年に入ってからは自身のレーベルからEP『Rain Dance』(Movementt)をリリースしたばかりの有望株だ。

 

09. Think Twice  by Kan Sano


こちらは日本盤のみのボーナス・トラック! オリジナルはドナルド・バードの75年作『Stepping Into Tomorrow』に収録されていた定番曲で、ATCQやメイン・ソース、J・ディラらのリサイクルで知られ、最近ではHAIIRO DE ROSSIのリメイクも記憶に新しい人気のナンバーだ。今回カヴァーを披露するのは昨年のアルバム『Ghost Notes』(origami)以降にさらにポピュラーな存在となったKan Sanoで、流石の心地良い仕上がりとなっている。