
ロックンロールが好きだけど、ロックンロールが何かはわかっていないんです
――続いて制作についてのお話も訊かせてください。SUNNY CAR WASHは生活に紐づいた歌詞が特徴的ですが、想像と現実のどちらかに寄せているのでしょうか。
「ちょうど想像と現実の間のような感じがします。現実の自分をもとにして〈こういう生活をしてる自分もいそうだな〉って想像するみたいな。たとえば“ワンルーム”(2017年)は、まだ10代だった高校生のときに作った曲で、〈君と別れてこの街へ来たけど〉って歌っているけど、本当の僕は誰とも別れてないし遠くへ引っ越したわけでもなかった。でも、猫は好き。歌詞のなかには本当のこともあるし、嘘もあります。“キルミー”では〈ねえキルミーベイベー殺してくれ〉って歌ってるけど、できれば殺されたくないです。生半可な覚悟で歌ったりしてます」
――殺されたくないのに〈キルミー〉って出てきたのはなぜですか。
「リバティーンズが“Death On The Stairs”(2002年)で〈So, baby, please kill me / Oh, baby, don’t kill me〉って言ってるんですよ。〈殺してよ、やっぱり殺さないでよ〉って。それを聴いたとき、心のなかで〈うわあああっ、なんかわかる!〉ってなるものがあったんですよね。
コンビニの駐車場に停めた車のなかでギターを弾いていたら、(“キルミー”の)歌詞がメロディーと一緒に出てきました」
――“ムーンスキップ”には〈いい加減そろそろ許して/ロックンロールに頼りすぎた僕らを〉といった歌詞もありますが、SUNNY CAR WASHはロックンロールに頼っていたバンドなのでしょうか。
「そういう部分もありますね。ロックンロールって、言うだけで様になるじゃないですか。正直なところ、自分はロックンロールが好きだけど、ロックンロールが何かはわかっていないんです。でも、ステージに立って音を出していると、根拠のないエネルギーが湧いてくる。〈なんなんだろう〉〈どういう現象なんだろう〉と思いつつも、そこに自信を見出してる自分がいるので、頼ってるような気がします」
――岩崎さんがSUNNY CAR WASHとして過ごした18歳から今日までの5年間というのは、成人や同級生の就職などもあり変化の多い年月だったかと思います。それにより、SUNNY CAR WASHの世界観とご自身が噛み合わなくなったということはないのでしょうか。
「前に作った曲をライブで久々にやると〈こんな歌詞を書いていたんだ〉とは、すごく感じます。今でも若いとは思うんですけど、〈10代の感じだな〉って蘇る。当たり前ですけど、この何年間で自分も周りの人間も変わりましたよね」
――以前のインタビューでは「19、20の時の気持ちを忘れた大人にはなりたくない」とお話されていましたが、それも変わってしまったと。
「僕が思っていたのは〈10代や若い人のこともわかってあげられる大人になりたい〉ということで、〈ずっと10代の気持ちでいたい〉というわけではないんですよね。自分が何歳になっても、10代の人に衝動的なものがあったり、グルグルする気持ちがあるってことを理解できる人間でいたいじゃないですか。“ティーンエイジブルース”は、そういう気持ちをこめて10代最後に書いた曲です」

最初で最後のアルバムは〈すごく優しい作品〉
――その“ティーンエイジブルース”も収録された最初で最後のフルアルバムが、いよいよリリースされるとのことで。『ハネダ!ハネダ!ハネダ!』というタイトルも、インパクト大ですよね。
「羽根田にリスペクトの意をこめて、このタイトルになりました。3文字を3回羅列することに僕がハマっていたのもあり、話し合ってるとき〈『ハネダ!ハネダ!ハネダ!』はどう?〉って言ったら、羽根田もにやにやしながら〈いいよ~〉って(笑)」
――今作のために作った曲もあるんですか。
「1曲目の“bbb”と11曲目の“ダーリン”は新曲。5曲目の“TOKKO”は友達(新分京佑)の曲のカバーで、新しく録りました。デモに入っていた“夢で逢えたら”も再録していれてます。
断片的なフレーズはちょくちょく作っていたんですけど、2018年11月に出した“ファンシー”以降リリースがなかったので、曲を作ったのは本当に久しぶり。時間は空きましたが、作詞・作曲への向き合い方は変わってないかもしれないです」
――ずばり『ハネダ!ハネダ!ハネダ!』は、どんなアルバムでしょうか。
「いろんな見方があると思うんですけど、僕は〈すごく優しい作品〉だと思います。優しくない言葉を歌っても、聴いてくれたり関わってくれたりした人がいたから作れた作品なので。それでいて、飽きないですね。1枚のなかでドラマーがふたり(畝狹怜汰、クボタカヒロ)叩いてるし、録った時期も環境もちょっとずつ違う。いろんな時期の僕たちの音が入っているので、聴きどころは全部です!」