羊文学のファースト・アルバム『若者たちへ』がリリースされた。バンドの中心を担うヴォーカル/ギターの塩塚モエカ、ドラムスのフクダヒロアとベースのゆりかは、3人とも現在大学生。いわば本作はモラトリアムの只中にいる彼女らの揺らぐ内面を綴った、あまりにも赤裸々なデビュー作であり、まさにいまこのタイミングにしか作りえなかった一枚といえる。

思春期の葛藤と、不完全な青春。悔やみきれない失敗、眩しい夏の記憶。そして、漠然とした未来への不安。そんなごちゃ混ぜの感情を塩塚は歌に込め、ファズ・ギターの甘美な轟音とともに鳴らしてみせる。オルタナ/シューゲイザーを雛型とした、この極めて繊細なバンド・アンサンブルに、もしかするとあなたはしばらく忘れていた10代のほろ苦い記憶を呼び戻されるのかもしれない。

そして、いままさに思春期という病を引きずる者からすれば、これほど自分に寄り添ってくれる音楽はまず他にないはずだ。そんな眩いファースト・アルバム『若者たちへ』を完成させたばかりの塩塚モエカに、ここまでの歩みと本作に込めた思いを語ってもらった。

羊文学 若者たちへ felicity(2018)

 

 

自分でギターも弾きながら歌えるって、めっちゃいいじゃん!って

――2012年にこのバンドを結成した当時、塩塚さんは高校生だったそうですね。

「はい。その頃からバンド名を変えてないというだけで、メンバーもやってることも、当時といまとではぜんぜん違うんですけど(笑)」

――つまり、初めて組んだバンドが羊文学ということ?

「そうですね。でも、その前にもバンドをやろうと思ったことは2回くらいあったし、私は幼稚園の頃からずっと歌手になりたかったんです。昔から歌うのが大好きで、小学生の頃にはYUIさんと、『NANA』(2005年)という映画を観たのがきっかけで中島美嘉さんが好きになって。シンガー・ソングライターというものがあると知ってからは、私もそれになりたいなってずっと思ってました」

『若者たちへ』収録曲“ドラマ”

――例えば、そのYUIと中島美嘉から受けた影響で、現在の音楽活動に息づいているものは何かありますか?

「あると思います。ギターのコードなんかもYUIさんの曲を練習するところから覚えたし、いまこうしてギター主体の曲作りをしているのも、その影響かなって。まあ、自分で〈パソコンとか使えよ〉って思うこともあるんですけどね(笑)」

――PC上での制作にも関心があるんですか?

「あります。電子音が入ってるバンドはすごく好きだし、本当はエレクトロニカみたいなことをやりたいなって気持ちもずっとあって」

――へえ! それはどんなバンドの影響で?

「中2くらいのときにテレビで観たサカナクションとか。あとは高校生の頃にXXが好きになって、いまでもSEでは彼らの“VCR”という曲を流しているんです。結果的にはこうして3ピースという形に落ち着きましたけど、〈いつかは機材を揃えてああいうのもやろうかな〉って、特に高校生の頃はよく思ってました」

XXの2010年作『xx』収録曲“VCR”

――羊文学はメンバー・チェンジがありながらもずっと3人編成を保っていますよね。そこにも何かしらのこだわりがあるのでは?

「中学生のときに初めてライブハウスで観たバンドが3ピースだったんですよ。それがもうかっこよすぎて、私もバンドやるならこういう編成がいいなって。私、けっこう目立ちたがりで、演劇でも主役をやりたがるようなタイプだったんです。だから、〈自分でギターも弾きながら歌えるって、めっちゃいいじゃん!〉って(笑)」

――目立ちたがりだったというのはちょっと意外ですね(笑)。実際に高校でバンドを結成してから、音楽性としてはどんな変遷をたどっていったのでしょうか?

「最初は周りのみんなが聴いているような音楽を私も聴いてたし、私もそういうのが好きだったんです。でも、自分でバンドをやるならそれとは違うものがやりたいなと思って。というか、単に変なことがしたかったんですよね。そういうの、思春期にはよくあるじゃないですか」

――わかります(笑)。

「あと、高校の頃は洋楽を聴き始めた時期でもあって。〈こういう、いま日本で流行っているポップスとは違うことをやってる人たちがいるんだな〉って。だったら、みんなが好きじゃなくても自分がいいと思えるものをやろうと思って。それでプログレが好きになったり」

――プログレですか!

「お父さんがキング・クリムゾンとかイエスのCDを私の部屋にかけにきてたので(笑)。もちろん最初は〈長いし、ぜんぜん意味わかんないな〉と思ってたんですけど、聴いていくうちに、一曲のなかでいろんなことが起きるところが、ちょっといいなと思って。そういうのもあって、高校の頃につくってた曲は途中で拍子が変わったり、ゆっくりした曲のBPMがいきなり上がったりするのがけっこう多いんです」

――それはまた意外なルーツですね。

「大学に入ったばかりの頃までは、けっこうそんな感じだったかな。それが軽音サークルでみんなからいろんな音楽を教わっていくなかで、〈別に奇を衒う必要はないんだな。というか、逆にそういうのダサいから、もうちょっと大人になろう〉と思って(笑)。もちろんプログレは好きですよ。でも、表面的なところにこだわるのは違うかなって」

――奇抜なことをやるのが目的化するのも、ちょっと違うなと。

「そうですね。でも、大学に入ってからも〈音は大きいほうがいいな〉とは思ってて」

――なぜそう考えるようになったんですか?

「高校生の頃にきのこ帝国に衝撃を受けたのと、イギリスのヤックというバンドがずっと好きだったんです。あとは高3の頃に受験でしんどいときにスマパン(スマッシング・パンプキンズ)をよく聴いてたりとか。『トンネルを抜けたら』(2017年)という最初のEPを出す頃までは、特にそういう影響が大きかったかな」

ヤックの2010年作『Yuck』収録曲“Get Away”