
国内外のインディー・ロックを巧みに咀嚼したサウンドで人気を博すHelsinki Lambda Club(以下、ヘルシンキ)が、新たな一歩を踏み出した。去る1月28日に東京・渋谷WWWで開催した、彼らの初作『ME to ME』のリリース・パーティーにて、自主レーベル〈Hamsterdam Records〉の発足をアナウンス。合わせて、彼らと同世代のガレージ・パンク・バンド、tetoとのスプリット・シングル『split』のリリースを発表した。
なぜヘルシンキはHamsterdamという新たな枠組みを必要としたのか? そして、その記念すべき第一弾リリースにスプリットというフォーマットを選択した理由とは? 今回、Mikikiでは7月15日(土)に大阪・心斎橋PANGEAでリリース・パーティーの開催を控える2組から両フロントマン――ヘルシンキの橋本薫とtetoの小池貞利との対談を実施。『split』の背景を話してもらうとともに、各人の互いのバンドを聴いて思い浮かんだアーティスト/楽曲をチョイスしてもらい、それらを聴きながら、両者の個性や可能性を炙り出した。
アンダーグラウンドやメジャーの隔てなく活動できる2組
――まず、Helsinki Lambda Clubが自主レーベル、Hamsterdam Recordsを立ち上げた理由から教えてください。
橋本薫(Helsinki Lambda Club)「そうですね……僕らってあんまり確固たる決意で何かを決めるとかがあんまりなくて、なんとなく楽しそうだからとか興味が沸くほうにフラフラと行ってしまうんです。レーベル立ち上げに関しては、単純にUKプロジェクトという括りのなかでやるよりも……UKのなかでも僕らは異端なバンドなので(笑)。だから、〈自分たちのレーベルですよ〉という枠を作って、好きなようにやるほうがわかりやすくなるかなと。そういう軽いノリもありました」
――アーティスト主導のレーベルもいろいろなやり方があると思います。自分たちの運営に特化したケースもあれば、周囲のバンドを積極的にリリースしていく方法もある。Hamsterdamとしては、どんな将来像を描いていますか?
橋本「いまはまだ、すべてをやりたいようにはできていないんですけど、将来的には自分たちだけじゃなくて、ちゃんとマインドとかで共鳴したバンドの単独作品もリリースしていけたらいいな、と僕は勝手に思っています。自分たちだけのレーベルというよりは」

――では、記念すべき第一弾リリースをスプリット・シングルにした理由は?
橋本「これもそんなに決意があってというわけではないんですけど、話の発端としては、それまで僕らはずっと〈ファースト〉縛りでリリースをしてきたんですよ。アルバムやミニ・アルバムだけじゃなく、短冊形のシングルとかも出して、常にやってこなかったフォーマットでのリリースを続けてきた。なので、今回もそれに従って……実は〈もういいかな〉とも思ってたんですけど(笑)――何かないかを探していたときにスプリット案が出てきて。そこで、誰とのスプリットが良いかと考えたときに、tetoしか出てこなかったんです。別に音楽性が似ているバンドと一緒にやりたいわけではなくて、極論を言うならマインド的に共鳴するならヒップホップやトラックメイカーの人でもいい。tetoが良いバンドだからというのは最低条件としてあるけど、カラーが固まりきってないというか、アンダーグラウンドやメジャーの隔てなく、いろいろな層を取り込んでいけるバンドだと思った」
――それは、ヘルシンキの活動スタンスとも通じていますね。
橋本「〈自分たちはこうです〉と言い切ったほうが伝わると思うんだけど、僕自身としてはあんまりそこに固まりたくないんです。いろんな見え方で捉えてほしいし、いろんな人と関わりたいというのがずっとあって、そう考えたときにtetoがいちばん僕らと分かち合える気がしたんですよ」
お洒落なパンクかなと思ったらガチモンのパンクだった
――橋本さんがtetoを知ったきっかけは?
橋本「名前を意識したのは、ちょうど去年の今頃でしたね。オススメのインディー・バンドを教えてくれる友達からtetoのSoundCloudが送られてきて、それを聴いてみたら久々に……特に去年あたりは音楽にピンとくることが少ない時期ではあったんですけど、tetoには久々にガツンときて、〈これはカッコイイ〉となった。最初に聴いた音源は、たぶん自主制作のデモ音源だったと思うんですけど」
小池貞利(teto)「俺がGarageBandで作ったやつ(笑)」
橋本「そのデモもノイジーなサウンドだったんですけど、宅録で作っている感じがウェーヴスみたいな雰囲気もあって、むしろ今っぽいなと。そして、お洒落なパンクかなと思ってライヴを観に行ってみたら、実はガチモンのパンクだった(笑)」
小池「ハハハ(笑)」
橋本「そこで良い意味で裏切られた。これを今やっている人はいないよなと思い、さらにハマった」
――2016年的なパンクと思いきや……。
小池「普通のパンクだったという(笑)」
――tetoは2016年に結成と、活動期間自体はそこまで長くないんですよね。それまで、小池さんは他のバンドをやっていたんですか?
小池「高校の頃にやっていたバンドを辞めて以降は、何もしていない期間が続いていたんですけど、去年の3月に弾き語りをはじめたんです。バンドでやれないなら、とりあえず弾き語りをやったという感じで。でも、そこで山崎(陸/ギター)とも出会ったんですよ。あいつはパワーコードで弾き語りをしていて良い意味で〈アホやなー〉と(笑)」
――しばらく音楽から離れていた期間があったということですか?
小池「そうですね。20歳くらいのときにすごく冷めちゃったというか、バンドをやっていてもワクワクドキドキできなくなっちゃって。音楽を聴いて〈ウワー!〉となるような興奮もなくなって、離れてしまったんです」
橋本「そういう時期、あるよね」
――そこから、小池さんが〈また音楽をやろう、ギターを持とう〉と思った経緯は?
小池「実は俺、それまでギター弾いたことなかったんですよ。もともとはベース/ヴォーカルをやっていたんです。理由は何だろう……特に何かのライヴを観てとか、そういうきっかけがあったわけではないんですよね。ただ、ヘルシンキのライヴは観たことがあって、〈良いな〉と思ったことは覚えています。自分にはできないこと、自分とは違うやり方なんだけど、魅力を感じた」
――その〈違い〉というのは?
小池「俺は基本的にデカい音でギターがガチャガチャ鳴っていたら、音の渦の中に埋もれることができたらもう満足みたいなところがあるんですよ。でも、ヘルシンキはバンドのアンサンブルがしっかりしているし、〈いまの自分にはできないだろうな〉というのはあったんです」
――小池さんのルーツはヘルシンキのような音楽ではなかった?
小池「ルーツというより、自分でやるとしたらあまり出てこないサウンドですね。それこそ、俺はローファイやガレージ・パンクが好きで。でも、ヘルシンキはUKロックやUSインディーとかの匂いが強い印象」
――パンクはリアルタイムのものを聴いてきたんですか?
小池「うーん、それよりも90年代のものをよく聴いていました。フガジやマイナー・スレットとか80年代のバンドも大好きでしたけどね」
――今日もブラック・フラッグのTシャツですもんね。でも、いまのtetoの音源を聴いても、パンクがルーツだったという話を聞いても、小池さんの弾き語りがどんなふうだったのか想像がつかないですね。ビリー・ブラッグ※みたいな雰囲気だったんですか?
※80年代前半から活動する英国のシンガー・ソングライター。主にギターの弾き語りで社会問題や政治腐敗を告発する表現スタイルで〈1人クラッシュ〉とも称される
小池「あー(笑)、でも弾き語りは結構メロウな感じでしたね。自分のなかでハードコアやパンクはすごく大好きなものではあるんですけど、歌としては良いメロディーと歌詞がマッチしているものがベストだと思っています。それをパンクやハードコアにうまく昇華させていきたいなというのがtetoですね。1人でやっていたときは、歌詞とメロディーだけ伝わればいいやと思っていました」

――tetoには、ヘルシンキが昨年のツアーで共演してきたHomecomingsやThe Wisely Brothersといった〈ニュー・オルタナティヴ〉なバンドとは違った雰囲気がありますね。
橋本「音楽的な意味での〈オルタナティヴ〉と捉えると外れてしまうと思うんですけど、字義通りの〈もうひとつの〉という意味では、tetoもその雰囲気を醸しているバンドだと思うんです」
――パンクというジャンルはメジャーであれアンダーグラウンドであれ、連綿と続いているカルチャーを持っていますが、そのうえでtetoは、まだどこにも属していない立ち位置にいるように思います。NOT WONKやCAR10あたりの、いわゆるKiliKiliVillaに代表される流れともまた違っていますし。
橋本「そうですね。僕もKiliKiliVillaとかはアティテュード的なものも含めて大好きなんですけど、確固たる自分たちのスタイルを持っているがゆえに敷居が高く見えるときもあるんです。僕らやtetoはスタイルを貫きつつ来る者は拒まないバンド。そこがちょっと違うのかな」

teto小池がHeksinki Lambda Clubに透けて見た3曲
――では、お待ちかねの選曲コーナーです。まずは、小池さんがヘルシンキの音楽を聴いて思い浮かんだバンド/橋本さんに紹介したいと思った楽曲から聴いていきましょう。
小池「俺はね、今回ヘルシンキがスプリットに収録した3曲に呼応するように選びました。まず1曲目の“King Of The White Chip”はこれ」
橋本「正解ですね(笑)」
小池「“King Of The White Chip”が、ちょっとダウナーでサーフ・ポップかつニューウェイヴな雰囲気の曲だったから、まあドラムスだろうなと」
橋本「ご名答」
小池「“King Of The White Chip”の最後の歌詞〈一緒に歩いてきたわ/一向に思い出せないわ〉というラインがすごく好きで。いつもの薫センスでありつつ、曲の雰囲気とも合わさっていて、最後にオチがつくのがロックっぽいなと」
橋本「ドラムスは僕も大好きで、“King Of The White Chip”は実際に意識していましたね」
――“King Of The White Chip”もドラムスのこの曲も、〈実際に海には行ってないサーフ感〉というので共通しているように思いますね。
小池「あー、そうですね! 家で考えている感じ」
――“King Of The White Chip”は、ヘルシンキが受けてきた海外インディーからのインスピレーションが凝縮された曲だと思いました。〈私たち〉と〈かまいたい〉で踏む韻はちょっとヴァンパイア・ウィークエンドっぽいし。
橋本「あー、そうですね。この曲は特に意味より、言葉のハマり方やリズムを意識しました。これを作ったことで、次にやれることがいろいろと拡がってきた感じがありますね」
――では、小池さんチョイスの2曲目にいきましょう。
橋本「あー、いかにもルックアウト※なポップ・パンク」
※グリーン・デイらを輩出したことで知られるUSカリフォルニアの名門パンク・レーベル。2012年に閉鎖
小池「ヘルシンキの“Boys Will Be Boys”を聴いて、思い浮かんだのがこのバンドとピーチ・ケリー・ポップだったんですよ。でも、“Boys Will Be Boys”の吹っ切れた状態で前に向かっていく感じが、“Get Off My Back”というタイトル※にも重なるし、今回はこっちを選びました」
※ほっといてくれ!という意味
橋本「確かにね。“Boys Will Be Boys”は90年代雑魚パンクへの僕の愛情が詰まっている曲だと思う」
――そして、小池さんがヘルシンキの3曲目“宵山ミラーボール”から思い浮かんだ曲はこちら。
小池 「“宵山ミラーボール”は、サビがすげえチープじゃん? 聴いていて、アニメの主題歌とかに使われていてもおかしくないなと思ったんだよね。80年代に放送されたアニメの古臭い感じと被っている気がした」
橋本「実は、この曲はヘルシンキ結成以前からあった曲なんですよ。僕が大学生のときに作った曲で、その頃ちょうど森見登美彦原作のアニメ『四畳半神話大系』とかを観ていた。だからアニメっぽいと言われたら、まさにそうなんだよね。すごいな」
小池「“宵山ミラーボール”自体はここまでチープじゃないんですけどね。でも、サビで合唱する感じとかが昔のアニメっぽいなって」
Helsinki Lambda Club橋本がこれからのtetoに期待する3曲
――では、続いて橋本さんの選曲にいきましょう。
橋本「僕はこれからのtetoに期待している要素が入った曲を選びました。まずはこれ」
橋本「90年代から活動しているスカ・パンク・バンドですが、スカってのは一度置いといて、勢いやサビでまくし立てるところとかがtetoに近いなと思うし、メロがしっかりしているところも通じていると思うんです。でも、この曲はtetoよりも軽やかじゃないですか? こういう軽いtetoも聴いてみたいなと思って選びました」
小池「オペレーション・アイヴィーをはじめとした、90年代前後のパンクってスカの流れが強いイメージがあるよね? このバンドはがっつり聴きこんでいたわけではなかかったけど、バンド・サウンドの疾走感と駆け足なヴォーカルは非常に好みですね」
――では、橋本さんの2曲目。この選曲はちょっと意外に思いました
小池「へー、意外ですね」
橋本「これは曲が云々というよりは、伝えたいことの熱量が結構近いのかなと思って。僕はこの曲がめちゃくちゃ好きなんですけど」
小池「良い曲だよね」
橋本「ダウナーと言ったらダウナーな曲なんだけど、そのなかでも自分のなかで1つ答えを見つけたというか、そういう吹っ切れ感みたいなものを感じる。轟音のなかに痛みや切なさがありつつ、気持ちがちょっとフワっとしていくような前向きさもあって、そういうtetoも聴いてみたいなと思った。いまのtetoはストレートにぶつけていく感じだと思うけど、それだけじゃなく浮遊感みたいなものも出してくれたら、僕はすごく嬉しいと思う。感動しちゃうな(笑)」
一同「ハハハ(笑)」
橋本「いまとは違うヴェクトルの熱量を観てみたいという気持ちを込めて、この曲を選びました」
――このスプリットに収録された“新しい風”の最後に出てくる弾き語りっぽい箇所はちょっとその雰囲気がありますよね。
小池「あー、あそこに入っているのは、実は“朝焼け”というシークレット・トラックなんですよ」
――そうだったんですね! 切れ目なくはじまるから気付かなかったです。
橋本「tetoはJ-Popの枠にも行けると思うんだよね」
小池「イヤだよー。世の中の人に共感されたくないし、世の中では俺らみたいな音楽じゃなくて、もっと軽やかな曲が聴かれていてほしい(笑)」
――ハハハ(笑)。いよいよ最後は橋本さんの3曲目。
橋本「これはサビのシャウト感がもうtetoだなって。ここここ(動画では50秒頃)」
小池「ハハハ(笑)。この感じを伝えたかった?」
橋本「メロディーも抜群なんだけど、綺麗に歌ったら普通に綺麗な曲になりそうなところで、この歌い方なのが痺れるなーと。そこでtetoに近い気がした。美メロのなかで突発的にシャウトに行くというのもやってみてほしい」
小池「優しくて透き通っているメロディーを歌っていくなかで感情のメーターを振り切った結果、シャウトになるのは理想ですね」
――マフスは90年代オルタナのガールズ・アイコンにあたる1組だと思うんですけど、ホールでもスリーター・キニーでもなくマフスを選ぶあたりが橋本さんらしさだなと。
橋本「あー、そうですねー(笑)。コートニー・ラヴも好きですけど、僕が近いのはマフスですね」
――ポップ・スターでもなくインディーのカリスマでもないという絶妙なラインがヘルシンキっぽい(笑)。さて、7月15日(土)にはスプリットを記念したリリース・パーティーの大阪編が開催されます。特にヘルシンキのお客さんのなかにはこの日がteto初体験という人も多いかもしれないですし、衝撃的な出会いになるんじゃないでしょうか。
橋本「最初はギョッとするかもね」
――今作のリリパ東京編として開催された高円寺UFO CLUBでのツーマンでも、お客さんから〈こんなバンドだと思ってなかった〉みたいなどよめきが起きるのを感じましたよ。
橋本「予定外の衝撃がありますよね。自分が最初にライヴを観たときもそうでしたし」
――最後に、このスプリットを経て、今後どういう活動をしていきたいか、それぞれ目標みたいなものはありますか?
小池「うーん、いまのところはないんですよね。いろんな人に聴いてもらいたいというのはもちろんあるんですけど、さっきも言ったように俺らみたいな音楽がメインストリームに行っちゃうとすれば〈日本、大丈夫か〉と思うし(笑)。ライヴの一瞬一瞬の美しさみたいなものも見逃してほしくないんですけど、いまはそれをちゃんと形にしたいですね」
――橋本さんは?
橋本「デビューして3年くらいの間には、いままでの成功例に寄っていこうとしちゃっていた時期もあったと思うんですけど、そういうところからはもう吹っ切れていますね。今回のスプリットも、やりたいことをやっただけなのに反応も良かったし。僕らの活動スタンスは悪く言えば中途半端で、いろいろなところに行けるんだけれど、〈結局なんなのか〉というのはわかりにくい。そこにはジレンマもあるんですけど、それをやり続けていきたい。僕らにはクールな面もありつつダサイ面もある――そういう立ち位置の人が結果を出せてもいいんじゃないかなと思い続けながら、これからも活動していきたいです」
Live Information
〈Hamsterdam Records 設立記念ライブ “Get Hamstoned…”追加公演〉
2017年7月15日(土)大阪・心斎橋PANGEA
出演:Helsinki Lambda Club、teto
開場/開演:17:45 /18:00
料金:前売り2,500円 (1D別)
e+
ローソンチケット(Lコード:55295)
チケットぴあ(Pコード:333-318)
湯仲間温泉直売所
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