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コラム

羊文学 塩塚モエカが綴るジュリアン・ベイカー(Julien Baker)への共感

「生きづらさや葛藤に寄り添って治癒し、解放してくれる音」

ジュリアン・ベイカー
Photo by Alysse Gafkjen

高く評価されたセカンド・アルバム『Turn Out The Lights』(2017年)から4年、フィービー・ブリジャーズ&ルーシー・ダッカスとのボーイジーニアスでの活動を経て、シンガー・ソングライターのジュリアン・ベイカーが待望のニュー・アルバム『Little Oblivions』をリリースした。よりポップかつロックになったサウンド、より赤裸々になった表現によって、本作は早くも2021年のベスト・アルバムのひとつと名高い。

そんなジュリアン・ベイカーと『Little Oblivions』について今回、塩塚モエカがコラムを特別に寄稿してくれた。新作『POWERS』(2020年)が話題のバンド、羊文学のフロントに立つ塩塚は、ジュリアンの音楽を大切に聴き、彼女へシンパシーに近いものを感じていると綴る。 *Mikiki編集部

JULIEN BAKER 『Little Oblivions』 Matador/BEAT(2021)

 

私が抱いた感情は彼女の音楽へのシンパシー

ジュリアン・ベイカーの音楽とどこで出会ったのか、実をいうと、ちゃんとした記憶がない。彼女のファースト・アルバムである『Sprained Ankle』(2015年)をどこかのレコード・ショップで試聴したか、誰かがSNSで言及していたか、という感じだったと思う。最近はそんなようにして、毎日たくさんの音楽がやってきては通り過ぎていくが、彼女の音楽は一聴した瞬間から自分にとって大切な存在になるとわかり、気づけばもう長い間いつも側にあった。

私は誰かを好きになると、その人のインタビューやSNSを徹底的に調べる癖がある。しかしジュリアンについては、こんなに彼女の音楽を日々大切に聴いているにもかかわらず、彼女が何歳で、普段何を考えているどんな人なのか、この依頼を受けるまで全く調べたことがなかった。彼女がどんな顔をしているのかさえ、ジャケットに描かれたイラストを通してしか知らなかった。おそらくそれは、私が彼女に対して抱いていた感情が、個人への熱狂的な羨望というよりも音楽へのシンパシーに近いものだったからだと思う。

初めて出会った『Sprained Ankle』というアルバムはギターの弾き語りとループ音がメインで構成されている、とても穏やかで、内省的な作品だった。特に、タイトル・トラックになっている“Sprained Ankle”という曲は、苦しむ自分を足を挫いたマラソン・ランナーに例えた曲で〈Wish I could write songs about anything other than death(死ぬこと以外について曲が書けたらいいのに)〉という歌詞で始まる。

2015年作『Sprained Ankle』収録曲“Sprained Ankle”

私自身、現実に対して緩やかに絶望しているとき、そのせいで少し離れた夢の世界にいるような心地よさを覚えることがあるけれど、このアルバムを聴いているとそれに似た感覚になる。あるいは、ものすごく軽やかで生暖かい風の毛布に包まれているような。時間が止まって、全ての物事から、一旦は目をそらすことが許されているような。そんな気がしてくる。だから彼女の音楽は私の心にとって、長い間ものすごく近く、親しい存在だった。

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