© Paul Tsang

ベートーヴェンとリストの“完璧な旅路”

 若きピアニスト、ニュウニュウは「神童」と呼ばれた時期を経て、いまや実力派として着実な歩みを進めている。新譜はベートーヴェンの交響曲第5番「運命」のリスト編と、ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」、第14番「月光」という組み合わせ。最後に自作の即興曲第1番「Hope」(希望)が収録されている。

牛牛 『ベートーヴェン:フェイト&ホープ』 Decca/ユニバーサル(2021)

 「今回のアルバムはジャケット写真からいままでのスーツとは雰囲気を変え、リラックスしたものになっています。コロナ禍で世界中の人々が国難な状況に遭遇しているなか、少しでも希望を抱いてほしいと、ベートーヴェンにフォーカスしました。ベートーヴェンの《運命》は自身の過酷な運命に立ち向かい、最後に希望を見出す。リスト編はそこに華麗さと輝かしいピアニズムを加味し、すばらしい作品に仕上げています。僕はこれを“完璧な旅路”だと解釈しています。異次元の世界へと運ばれる旅路。ベートーヴェンとリストというふたりの天才の結びつきはピアノ1台でオーケストラに匹敵する効果を生み出し、ワクワクさせてくれます。バーンスタインがいっていますが、ベートーヴェンの交響曲は無駄な音がひとつもない。各音があるべき姿でそこに存在する。だからこそ自然にスーッと人の心に響いてくると。本当にそう思います」

 ソナタに関しても一家言を。

 「ベートーヴェンの2曲のソナタは、独自の感情と表現が内在しています。とても豊かな音楽性を保持し、ベートーヴェンの怒りや悲しみなどが描かれている。深い心を映し出す曲で、僕はいろんなピアニストの演奏を聴きました。ベートーヴェンの作品は、自分自身を磨かないとうまく弾けません。奏者の人間性が問われるのです。一方、《運命》もものすごく難しく、これを弾いた後はいろんな作品が楽に弾けてしまう(笑)」

 最後の自作に関しても熱弁を振るう。

 「僕はコンポーザーピアニストを目指したいと思っています。この作品はレコード会社の人が気に入って、収録が可能になりました。でも、作曲しているとき、ある人に助言を仰いだら“もっと削れ”といわれ、かなり悩みました。どこも削りたくなかったからです。作曲家が第1稿から改訂するときに悩む気持ちがよく理解できました。今後も作品を編み出し、自分の夢を実現させていきたい!!」

 ニュウニュウはジュリアード音楽院時代、作曲の基礎を学んだ。そこでの教えは「基本の上に自由さを持つこと」。それが現われている。

 


LIVE INFORMATION

東京ニューシティ管弦楽団 第148回定期演奏会 <音楽監督就任記念>
〇5/11(水)18:00開場/19:00開演
【会場】サントリーホール 大ホール (東京都)
【曲目】チャイコフスキー(ピアノ協奏曲第1番変ロ短調)/他
【出演】飯森範親(指揮)ニュウニュウ(p)藤原道山(尺八)高木凜々子(e-vn)
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2132357