庵野秀明(企画/脚本/総監修)と樋口真嗣(監督)という、大ヒット作「シン・ゴジラ」(2016年)の製作陣が再結集して作り上げた映画「シン・ウルトラマン」。公開後8日間で観客動員数が100万人、興行収入が15億円を突破するなど、大きな旋風を巻き起こしている。ファンや批評家がすでに多角的な視点から語っている本作だが、ここでは米津玄師が書き下ろしたことで話題の主題歌“M八七”に注目したい。s.h.i.が、“M八七”が「シン・ウルトラマン」の見事な主題歌である意味や意義を論じる。 *Mikiki編集部

米津玄師 『M八七』 ソニー(2022)

 

米津玄師“M八七”は「シン・ウルトラマン」の最高の副読本

本稿の趣旨は、米津玄師“M八七”は映画「シン・ウルトラマン」の最高の副読本であり、ある意味では真エンディングでさえある、というものである。これを説明するにあたり、ストーリーについての具体的な話が少なからず出てくるので、観る前に一切の情報を入れたくない場合は読まない方がいいかもしれない。ただ、本作は話の筋を知ったからといって面白さが損なわれるタイプの映画ではない。ウルトラマンの銀色の肌やガボラのドリルなどにみられるラバー/ビニールの異常な官能美、ザラブ星人やメフィラス星人の新造形の格好良さ、役者陣の素晴らしい演技といった、〈どう形にするか〉の要素の方が妙味の多くを担っているため、繰り返し観ても味は落ちないし、幾重にも練られた作り込みを理解するほどに感動が増していく。本稿もそうしたことの一助となるため書かれたもの。お役に立てれば幸いである。

米津玄師“M八七”

 

物語を補完しテーマを体現する〈真エンディング〉

既に各所で言われているように、「シン・ウルトラマン」の主題歌として作られた“M八七”は、映画を観た人々から極めて高い評価を得ている。曰く、〈ウルトラマンへの解像度が高すぎてもはやネタバレに限りなく近い〉、〈イメージソングを作る天才〉、〈人生の大半をウルトラマンと過ごした俺よりもウルトラマンの事を解っている歌詞書きやがって〉など。それも当然の反応で、歌詞は言葉少なで言い回しも平易なのにもかかわらず、劇中の出来事とその解釈としても、視聴者各個人の思い入れの表現としても、ダブル〜トリプルミーニング的に通用するようになっているのである。

例えば、冒頭のAメロ〈遥か空の星が ひどく輝いて見えたから/僕は震えながら その光を追いかけた〉は、ウルトラマンシリーズに対する視聴者の思い入れとしても、本作におけるウルトラマン=リピアから神永(リピアと融合)への思いを表したものとしても読める。また、2番のAメロ〈いまに枯れる花が 最後に僕に語りかけた/「姿見えなくとも 遥か先で見守っている」と〉は、映画のラストで神永に命を与えたリピア(ヒメイワダレソウの別名、花言葉は絆や誠実)の姿を描いたものとしても、本作に限らないもっと普遍的な出会いと別れの話としても読むことができる。

それに続く2番サビの〈君が望むなら それは強く応えてくれるのだ〉は、人類からウルトラマンに向ける想いと、ウルトラマンから人類に向ける想い、そのいずれにも当てはまる。そして、アウトロの〈微かに笑え あの星のように〉は、オリジナルのデザイナーである成田亨がモチーフとした仏像のアルカイックスマイルや「本当に強い人間はね、戦う時かすかに笑うと思うんですよ」という成田の発言を踏まえたものと思われるし、星=遠さを示唆しつつ、その上でのコミュニケーション可能性をも示している。

以上のような歌詞は、リピアとゾーフィの会話の直後に地上で目覚めるシーンに変わっていきなりエンドロール、という映画本編の淡白な終わり方を補完するものでもあるだろう。リピアがゾーフィと別れてから地上に戻るまでの空白を埋め、作品テーマの核を明晰に伝えてみせるという意味で、実質的な真エンディングになっているとさえ言える。そう考えると、ラストシーンがそっけないのは、本編の中に主題歌を入れるわけにはいかないができる限り本編から離したくない、という判断によるものでもあるのかもしれない。樋口真嗣監督が言うところの「ウルトラマンが人間を受け入れ、人間もウルトラマンを受け入れるまでの物語」を見事に体現し、その上で、ウルトラマンを離れても成立する普遍的なソングにもなっている。本当に見事な仕上がりである。

米津玄師

米津玄師とウルトラマン、呼応する〈祝福の連鎖〉

“M八七”の以上のような在り方は、映画「シン・ウルトラマン」自体の在り方と絶妙に呼応するものでもある。パンフレットや「シン・ウルトラマン デザインワークス」掲載のインタビューでは、「特撮コアファン向けにではなく、より多くのお客様に満足していただける、間口の広い映画にする必要があった」という趣旨の発言が異口同音に語られているのだが、その一方で、例えば滝の机の後ろにあるフィギュア類は庵野秀明による脚本に細かく指定されていて、グッズの版元が多岐に渡りすぎていて権利処理が大変だったという話もある。徹底的に作り込むということと、一般に訴求するということを、共に疎かにせず両立した上で、「軸足をオリジナルに近づける方向ではなく、オリジナルが大好きであるがゆえに、そこから離れたいという意識が常にありました」(樋口真嗣)というように自分達ならではの味も加えていく。

これは、米津玄師がインタビュー※1で述べている〈祝福の連鎖〉にそのまま通じることだろう。“M八七”1番Bメロの〈長く短い旅をゆく/遠い日の面影〉は自身の幼少期にウルトラマンから受け取った祝福を、2番Bメロの〈物語の始まりは/微かな寂しさ〉は、エンドロールからシン・ウルトラマンシリーズ※2が始まることを示唆しつつ、この映画が観客に渡す祝福や、それを受け取り新たな祝福を他者にもたらしていく観客自身の姿を示してもいる。その点、歌詞最後の〈痛みを知る ただ一人であれ〉は米津玄師ならではの祝福で、これは2番サビの〈それは引き合う孤独の力なら〉※3で補強され、米津の既発曲“カムパネルラ”などでも描かれてきた自己犠牲のモチーフを通して、米津自身のディスコグラフィーとウルトラマンシリーズがこれまで培ってきたこと、その両方にしっかり繋がっている。映画の在り方を汲み取り、それだからこそ求められるオリジナルの表現までやってのけた、本当に見事な主題歌なのである。

 

映画館で鑑賞すれば得難い体験が

この曲については、ブルー・ナイルやGRASS VALLEYなどに通じる80年代シンセポップを現代的に昇華した音響・ビートの良さ、転調※4とニュアンス表現の兼ね合いの素晴らしさなど、語るべきことが多々あるし、それは映画本編についても言える※5。双方の理解を深めより楽しむためにも、ぜひ映画館のスクリーンおよび音響で鑑賞してみてほしい。とても得難い体験ができるはずである。

映画「シン・ウルトラマン」予告編

 

※1 インタビュー https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi20

※2 現時点では3部作を予定しているとのこと。

※3 谷川俊太郎「二十億光年の孤独」の〈万有引力とは/ひき合う孤独の力である〉が土台になっていると思われる。

※4 ラシドレミファソをABCDEFGと表記、その上で例えばA#マイナースケールをA#m、CメジャースケールをCと表記することにすると、本曲のキーは以下のように書き表せる。

Aメロ:A#m
Bメロ:Gm→A#m→C#m
サビ:C#m
ブリッジ(2番サビの後):C#→C→C#→CまたはAm→G#m→A#m
アウトロ:A#m

ブリッジでは調性が曖昧になり、長調とも短調とも判断できる(宇宙的浮遊感の表現になっている)。なお、曲調的に似通っている部分もあるホルスト“木星”とは調が異なるが、これは自身の声が特に魅力的に響く高さにサビの最高音(A〜B)が設定されていることも関係していると思われる。

※5 「ウルトラQ」〜初期「ウルトラマン」の怪奇テイストを引き継ぐ映画前半部に対し、メフィラス星人登場以降(BGMが鷺巣詩郎に交代)は「新世紀エヴァンゲリオン」など庵野秀明の過去作にそのまま通じる急展開になり、お化け屋敷に入っていたと思ったらジェットコースターがゆっくり動き始めたような感覚に陥る、という構成がどの程度うまくいっているのだろうか、ということや、いわゆる実相寺アングルや下から見上げる画角の多用の是非というか出来不出来とか、セクハラ的な描写が問題なのはそこにエロティシズムが込められておらず(自覚ある悪としての表現効果もなく単に鬱陶しいものになっていて)巨大生物から滲み出る強烈なフェティシズムと比べると必然性に乏しいからというのも大きいのではないか、などなど、良くも悪くも多くの切り口から語れる作品になっている。

なお、米津玄師が描いた“M八七”のジャケットを上下ひっくり返してみると、ゼットンに敗北して大気圏へ落下していくウルトラマンの横顔に一致するようにも思われる。単なる偶然だろうが、歌詞テーマ的にはしっくりくる部分もあって興味深い。

 


FILM INFORMATION
シン・ウルトラマン

出演:斎藤工 長澤まさみ 有岡大貴 早見あかり 田中哲司/西島秀俊 山本耕史 岩松 了 嶋田久作 益岡 徹 長塚圭史 山崎 一 和田聰宏
企画・脚本:庵野秀明
監督:樋口真嗣
音楽:宮内國郎 鷺巣詩郎
主題歌:“M八七” 米津玄師
製作:円谷プロダクション 東宝 カラー
制作プロダクション:TOHOスタジオ シネバザール
配給:東宝
全国公開中
Ⓒ2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 ©️円谷プロ

 

RELEASE INFORMATION

米津玄師 『M八七』 ソニー(2022)

リリース日:2022年5月18日
配信サイトリンク:https://smej.lnk.to/M87

■ウルトラ盤(初回限定)
品番:SECL-2758
フォーマット:CD+レーザーカプセル+リフレクターケース
価格:2,200円(税込)

■映像盤(初回限定)
品番:SECL-2760
フォーマット:CD+DVD+シルバーデジパック
価格:1,980円(税込)

■通常盤(初回限定)
品番:SECL-2762
フォーマット:CD+紙ジャケ
価格:1,210円(税込)

■初回特典
〈米津玄師 2022 TOUR / 変身〉チケット最速先行抽選応募シリアルナンバー封入
応募期間:2022年5月17日(火)10:00〜2022年5月22日(日)23:59

■特典
M八七 ミラーステッカー
※特典は各店舗共通で、先着となります。数に限りがありますので、お早めに予約をお願いいたします。ECの場合は〈特典あり〉の商品を選択ください

TRACKLIST
1. M八七 映画「シン・ウルトラマン」主題歌
2. POP SONG PlayStation® CM曲
3. ETA

DVD 収録内容 (映像盤のみ)
1. POP SONG Music Video
2. POP SONG Music Video (Sound Effect)
3. POP SONG 8bit Teaser
4. Pale Blue Music Video
5. 死神 Music Video

 

LIVE INFORMATION
米津玄師 2022 TOUR / 変身
2022年9月23日(金・祝)、24日(土)東京・千駄ヶ谷 東京体育館
開場/開演:15:30/17:00
2022年10月4日(火)、5日(水)大阪・大阪城公園 大阪城ホール
開場/開演:16:30/18:00
2022年10月8日(土)、9日(日)兵庫・神戸 ワールド記念ホール
開場/開演:15:30/17:00
2022年10月18日(火)、19日(水)愛知・名古屋 日本ガイシホール
開場/開演:16:30/18:00
2022年10月26日(水)、27日(木)埼玉 さいたまスーパーアリーナ
開場/開演:16:30/18:00

 


PROFILE: 米津玄師
ハチ名義でボカロシーンを席巻し、2012年、本名の米津玄師としての活動を開始。2018年、TBS金曜ドラマ「アンナチュラル」の主題歌として“Lemon”を書き下ろし、ミリオンセールスを記録。〈第96回ドラマアカデミー賞〉にて最優秀ドラマソング賞を受賞。日本レコード協会にて史上最速の300万ダウンロード認定など、数々の記録を樹立。同年、NHK2020応援ソングとして、Foorin“パプリカ”を発表。“Lemon”は年間を通して支持が拡大しつづけ、年間ランキングチャートを総なめにし、ミュージックビデオは6.9億回再生を突破、デジタル・フィジカル合算300万セールス突破と同年度を象徴する楽曲となった。年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場、初のテレビ歌唱が大きな話題を呼び、翌2019年の年間ランキングでも2年連続で年間ランキングを席巻。Billboard JAPANでは日米初となる2年連続での首位、オリコン週間カラオケランキングでは歴代1位となる〈連続1位獲得週数85週〉を記録するなど、音楽史に残る数々の快挙を成し遂げた。2019年、菅田将暉“まちがいさがし”をプロデュース。映画「海獣の子供」主題歌として“海の幽霊”をリリース。Foorin“パプリカ”のセルフカバーを発表。TBSドラマ「ノーサイド・ゲーム」の主題歌、シングル“馬と鹿”をリリースし、フィジカル・デジタル合算で120万セールスを記録、その後開催され社会現象となったラグビーワールドカップでも楽曲が使用されるなど大きな反響を呼んだ。そして12月には、〈NHK2020ソング〉として、嵐の“カイト”を制作。「NHK紅白歌合戦」にて嵐により初披露された。2020年、TBSドラマ「MIU404」主題歌として“感電”を書きおろし、5作目のアルバム『STRAY SHEEP』を発売。発売翌週にミリオンセールスを突破。その後、150万枚までセールスを伸ばし、オリコン合算アルバムランキングで200万ポイントを突破。2020年の年間ランキングは46冠を獲得した。また、ユーザー数3億5,000万人を誇るゲーム「フォートナイト」での革新的な全世界バーチャルライブの開催や、ユニクロとのコラボTシャツの全世界販売、ジバンシィの新作コレクションへ各国の著名人と共に参加するなど、意欲的な活動が国内外共に大きく評価された。グローバルチャートIFPIでは世界7位にランクイン、「フォーブス」が選ぶアジアのデジタルスター100に選出。日本国内では、芸術選奨文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)を受賞するなどの結果を残した。2021年、TBSドラマ「リコカツ」主題歌として“Pale Blue”、日本テレビ「news zero」テーマ曲として“ゆめうつつ”を発表。2022年1月には、シングル“POP SONG”と自身が出演した「PlayStation」のCMが大きな話題となった。映画「シン・ウルトラマン」主題歌として“M八七”を書き下ろし、シングルが5月18日にリリースされた。MVに関しては、“Lemon”が7.4億回再生突破と日本人アーティスト初の記録を更新し続けているだけでなく、1億回再生が15作品という圧倒的な記録を達成し(“Lemon”、“アイネクライネ”、“LOSER”、“ピースサイン”、“灰色と青(+菅田将暉)”、“orion”、“Flamingo”、“感電”、“打上花火”、“パプリカ”、“春雷”、“馬と鹿”、“海の幽霊”、Foorin“パプリカ”、菅田将暉“まちがいさがし”)、公式YouTubeチャンネルの登録者数は624万人を突破している。