©平舘平

若き俊英ソリストと弦楽四重奏が奏でる極上のピアノ協奏曲

 2021年1月から22年10月まで休館中だった横浜みなとみらいホール。その間に横浜市内の様々な文化施設を巡り、室内楽編成の協奏曲をお届けする〈横浜18区コンサート〉は、多くの瑞々しく感動的な新境地を拓いてきた。今回ご紹介するのは、そんな名演のひとつ。15年にロン・ティボー・クレスパン国際コンクールで第3位に入賞した俊才・實川風と、特定非営利活動法人〈ハマのJACK〉の弦楽五重奏によるショパンのピアノ協奏曲第2番だ。

實川風, ハマのJACKメンバー 『ショパン:ピアノ協奏曲第2番(弦楽五重奏版)』 BRAVO(2022)

 収録音源は、22年3月1日の港南区民文化センター・ひまわりの郷におけるライヴ。使用楽譜は、ピアニストのケヴィン・ケナーと、作曲家&チェリストのクシシュトフ・ドンベクの共作で、2015年に出版された注目の編曲版だ。今回が初演奏の實川にその魅力を尋ねると、

 「ショパンも自身のピアノコンチェルトを室内楽編成で演奏して楽しんでいたそうです。ただ、ショパン自身によるコンチェルト2番の編曲では、管楽器やコントラバスのパートが省略されているのです。今回の編曲では、それらのパートも忠実に音にしてあります。弦楽器だけでは足りないところ、例えば3楽章のある部分では、ピアニストがフルートのパートを弾いたりしているんですよ。また、大ホールでオーケストラと共演する演奏以上に、弱音や細部にこだわった、室内楽ならではの濃密な対話を録っていただけました」

 共演の〈ハマのJACK〉も、三又治彦&白井篤(ヴァイオリン)、村松龍(・ヴィオラ)、海野幹雄(チェロ)、松井理史(コントラバス)という錚々たる名手が並ぶ。

 「5人とも今回が初共演でしたが、和気藹々と接してくださり、リハーサル中にも率直な意見交換ができて、演奏の精度がどんどん増していきました。終演後にまた共演したいねとも言ってくださり、グリーグの協奏曲が候補に挙がったのですが、〈ティンパニのパートは誰がやるの?〉などと大盛り上がりでした(笑)」

 これが3枚目の録音となる實川だが、過去2枚でもショパンを取り上げており、その中で印象が少しずつ変わってきたという。

 「自分の気持ちをダイレクトに表現しない二面的とも言えるショパンの作風に昔はシンパシーを抱くことができず、どこか苦しさを感じながら弾いていたような気がします。でも、年齢を重ねる中で、その心の内に少しずつフィットできるようになってきていて、今後もショパンからは逃げずに一生弾いていきたいと思います」

 


LIVE INFORMATION
實川 風ピアノ・リサイタル
2022年11月23日(水・祝)熊本県立劇場 コンサートホール
開場/開演:12:45/13:30

■曲目
モーツァルト:きらきら星変奏曲ハ長調KV.265
ショパン:ボロネーズ第6番変イ長調Op.53「英雄ボロネーズ」
田中カレン:白鳥「星のどうぶつたち」より 他
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