(C)清水信吾

 

《春の祭典》の新たな歴史を拓く、ダンスと2台ピアノによるライヴ・パフォーマンス

 ストラヴィンスキーの《春の祭典》でクラシックに目覚めたという人は意外と多い。ロックやクラブ・ミュージックのファンに薦めると〈これがクラシック?!〉と、まず気に入ってくれる。かくして〈ハルサイ〉は、初演から100年を経た今も色褪せることなく人々を惹きつけ、暴力的なまでに魅了する。

 1913年、ディアギレフ率いるバレエ・リュスによって《春の祭典》が初演された際、シャンゼリゼ劇場が怒号に包まれる大スキャンダルとなったのはご存じのとおり。ニジンスキーによる振付は、民族衣装に身を包んだダンサーたちが猫背で頭を傾け、足を内股にし、痙攣的な動きで飛び跳ねるという、19世紀のバレエの伝統から完全に逸脱したものだった。以降もベジャール、マクミラン、ピナ・バウシュ、グレアムなど名だたる振付家たちがこの作品を手がけてきた。

 そして2018年3月、渋谷でこの作品の上演史に新たな1ページを刻むライヴ・パフォーマンスが開催される。気鋭のコンテンポラリー・ダンサー、森山開次が振付・演出をゼロから創出し、ひとりで踊る《春の祭典》。演奏は日本のピアノ界を担うホープ、福間洸太朗と實川風による2台ピアノである。

左から、森山開次(C)清水信吾、福間洸太朗(C)Masaaki Hiraga、實川 風(C)アールアンフィニ

 ストラヴィンスキーは管弦楽版とともに4手ピアノ版も書いており、バレエが初演される前年にドビュッシーとの連弾で演奏している。早くも1913年には4手ピアノ版の楽譜が出版され、1947年に改訂版が出版された。福間と實川によるデュオは、この改訂版を2台ピアノで演奏する。重厚なオーケストラ・サウンドでなくとも、この作品が持つ先鋭性は少しも損なわれることなく、むしろ繊細な音色によって緊迫感が高まり、ストラヴィンスキーが潜ませた響きの〈仕掛け〉が浮き彫りになってくるような4手ピアノ版。光の中で戯れる水のきらめきから怒りを剥き出しにしたデモーニッシュな表現まで、多彩な感性で聴く者を虜にする福間と、端正かつ知的な演奏の内側に破格のエネルギーと強い感情を宿した實川のデュオがどんな化学反応を起こすのか、今から楽しみだ。

 そして、まだ誰も見た者のない森山版《春の祭典》。フライヤーの写真にある彼の横顔は、どこか孤高の舞神ニジンスキーの面影と重なる。これまで日本文化を題材にした数々の舞台で世界的に高い評価を得てきた森山。その極限まで研ぎ澄まされた身体と精神から生まれるダンスは、《春の祭典》にどんな世界を見出すのか。あなたもぜひ、歴史の証人としてご自身の目で確かめてほしい。

 


LIVE INFORMATION

Live Performance SHIBUYA 森山開次|春の祭典
○3/2(金) 19:00開演
会場:文化総合センター大和田 さくらホール(4F)
出演:森山開次(ダンス)、福間洸太朗(ピアノ)、實川風(ピアノ)