鋭利な高速ラップと透き通った歌声を武器にした最上級のラッパーにしてヴォーカリスト――デビュー10年のタイミングに届いた渾身のアルバム『東京女神』は自分のスタイルを貫く強い信念と深い優しさに溢れている!

最高のアルバムにするために

 So’Fly~NERDHEADでの活動や、西野カナ“会いたくて 会いたくて”などのヒットで知られるプロデューサーのGIORGIO 13 CANCEMIに見い出され、彼の手掛けた『TOKYO GIRL』(2013年)によって15歳でデビューしてからちょうど10年。ラップと歌、ダンスを武器にポップで刺激的な表現を繰り広げる〈トーキョーガール〉ことTANAKA ALICEが、フル・アルバムとしては『TOKYO CANDY』(2015年)以来となる新作『東京女神』を引っ提げて帰ってきた。完成までには構想からおよそ5年もの歳月を費やしたそうで、その間にはドラマ主題歌に起用された“Waiting For U”(2019年)のスマッシュ・ヒットや同曲を含むEPシリーズの3作連続配信があり、さらにはYunar Watta、Dorisと共に結成したガールズ・ユニット=Don’t Think! Sing!での音源リリースもあった。ただ、今回のアルバム制作はそれらの動きと並行しながら進めてきたものだという。

 「以前から次のアルバムではヒップホップの部分をより押し出したいと思っていたので、そういう楽曲はアルバム用に温存していました。最高のアルバムにするために、一曲一曲の制作はもちろん、収録する曲のセレクトにも時間をかけて、収録曲の並び順にもこだわりましたね。前半はよりハードで攻撃的なALICE、対して後半ではメロディアスでより音楽的なALICEを聴いていただける流れにしました。歌とラップ、それぞれでしか表現できないものがありますし、私がずっとやってきたことをどちらもしっかりと打ち出したかった思いから本作が完成しました。その間にグループでの活動を経験したことも、自分の持ち味を改めて見直すという意味で学びがありました」。

TANAKA ALICE 『東京女神』 ATLASMUSIC/Village Again(2023)

 もともと日本語と英語をブレンドした歯切れの良い高速ラップは彼女にとってデビュー時からの持ち味のひとつだったが、『東京女神』におけるマイク捌きはフロウとリリックの両面でさらに鋭さを増している。アルバムのトータル・プロデュースは引き続きGIORGIOが担当。彼ならではのカラフルなトラックを自由自在に乗りこなすヴァーサタイルなスタイルには、自身の聴き親しんできた先達や同時代のトレンドからの影響も色濃くあるようだ。

 「最初にヒップホップを意識するようになったきっかけはファーギーでした。小学2~3年生の頃にCDショップでよく知らないままアルバム(『The Dutchess』)を試聴したら、その楽曲と歌声に心を打たれてしまって。歌もラップも完璧だし、セクシーだけを売りにしないかっこよさやカリスマ性にも魅了されて、私もこういう人になりたいと思ったんです。それとニッキー・ミナージュも中学生のときに聴いて衝撃を受けて以来、ずっとファンですね。最近では、セントラル・シーの独特なフロウとクセになるラップにドハマりしてしまって。“Doja”という曲が1分30秒くらいで短いんですけど、パンチがすごくて、繰り返し聴いています(笑)」。