〈タッピングの女王〉として知られるギタリストのイヴェット・ヤング率いる3ピース、コヴェットがニューアルバム『catharsis』を完成させた。新たなリズム隊とともに制作された本作は、これまで以上に多彩になったイヴェットのギターワークを軸としつつ、ピアノ、バイオリン、サックスもフィーチャーされ、よりエモーショナルかつシネマティックな作風を展開。先行で配信された“firebird”をはじめ、80年代フュージョン風味も新鮮だし、過去最高にポップな作品だと言ってもいいだろう。プライベートでの問題を乗り越えて、もう一度音楽にのめり込み、文字通り強烈なカタルシスを感じさせる作品を作り上げてみせた。

そんなイヴェットとかねてより交流があり、ライブでの共演や動画でのコラボ経験もあるのがギタリストのIchika Nito。YouTubeチャンネルの登録者は235万人で、その大半が英語圏のファンという世界的なアーティストであり、昨年はグラミー賞にもノミネートされたマシン・ガン・ケリー『mainstream sellout』の収録曲“more than life”にプロデュースで参加。その一方、国内ではDiosのメンバーとしてJ-Popのシーンにもアプローチをし、さらには東南アジアのアーティストとのコラボレーションも積極的に行うなど、その動向に大きな注目が集まっている。

今回のインタビューではIchika Nitoにイヴェットのプレイやコヴェットの新作について訊くとともに、〈ギターミュージックの未来〉についても語ってもらった。

COVET 『catharsis』 Triple Crown/Pヴァイン(2023)

 

イヴェット・ヤングやポリフィアとの友情

――Ichikaさんは2018年にポリフィアとコヴェットが来日したとき、東京公演にオープニングアクトとして出演していますね。

「SNSでの親交はその2年前くらいからありました。イヴェットがインスタに演奏動画を上げ始めてすぐくらいに仲良くなって、最初はアコギだけ弾いてたけど、気づけばバンドをやっていて。お互い何となくやってることが近いなと思って、相互フォローになってからはときどきコメントをし合ったりしてて、実際には2018年のライブで初めて会った感じです」

――イヴェットとともにポリフィアのアルバム『New Levels New Devils』に参加したタイミングでしたよね。

「ポリフィアも僕が活動を始めた最初期に繋がった海外アーティストで、ティム(・ヘンソン)と〈一緒に何か作ろうよ〉という話になって、デモのやり取りをしているうちに、それが“Death Note (feat. Ichika)”になったんです。

僕がイントロのリフを作って、〈こんな感じの曲はどう?〉って送ったら、そのデータがそのまま使われてて、あの雰囲気のまま行くのかなと思ったら、急に曲の展開が変わるのが面白いなって」

ポリフィアの2018年作『New Levels New Devils』収録曲“Death Note (feat. Ichika)” 

Ichika Nitoの2019年のパフォーマンス動画。演奏しているのはポリフィア“Death Note (feat. Ichika)”

――イヴェットともティムとも2010年代半ばから交流があったわけですね。

「当時は〈Pickup Jazzというインスタのアカウントの存在が大きくて、そのアカウントが取り上げたアーティストはみんなバズって人気になる、という流れがあったんです。〈ネオソウルギター〉をミーム的に流行らせたのもそのアカウントで、そこで取り上げられることで仲間内で認識し合って、みんなで何かを作る動きが生まれたりしていました」

※編集部注 オンラインギターレッスンを提供するサービス〈Pickup Music〉の一部門

――2020年にはティムとイヴェット、それぞれとコラボした動画もアップされていますね。

「ああいうのは全部インスタのDMからで……(スマホでDMの履歴を見ながら)イヴェットの方は〈コラボしようぜ〉という話になって、僕がアイデアをふたつ送ったら、そのうちのひとつを彼女が気に入ってくれたんです。その前にティムとコラボした〈Tim Henson VS Ichika Nito〉という動画を公開してたので、最初は〈あの感じでやりたい〉という話だったんですけど、イヴェットとはバトルじゃなくて、コラボ曲みたいになったから、〈仲良くやろうか〉って(笑)」

トム・ヘンソン(ポリフィア)& Ichika Nitoの2020年のパフォーマンス動画

Ichika Nito & イヴェット・ヤングの2020年のパフォーマンス動画