2024年4月12日にリリースされるやいなや、評判になっているMrs. GREEN APPLEのニューシングル“ライラック”。アニメ「忘却バッテリー」のオープニングテーマソングとしての話題性もあり、ミュージックビデオの再生回数は現時点で840万回を超え、チャートも上昇中。年始の“ナハトムジーク”に続き、2022年以降のバンドの〈フェーズ2〉の快調ぶりを印象づける一曲になった。そんな“ライラック”が注目されている理由の一つは、ギターを中心にした音楽的なおもしろさ。そこで本稿は、そのサウンドについて掘り下げた。 *Mikiki編集部

Mrs. GREEN APPLE 『ライラック』 EMI/ユニバーサル(2024)

 

メタルファンを驚かせたミセスの新たな到達点

Mrs. GREEN APPLE(以下ミセス)の新曲“ライラック”が思わぬところで話題を呼んでいる。主題歌として起用されたアニメ「忘却バッテリー」(「少年ジャンプ+」連載の原作漫画が最高の展開になっているところなのでぜひそちらも読んでほしい)との相性の良さなど、ポップソングとしての見事な仕上がりに鑑みれば人気を集めるのは当然なのだが、今回注目されている理由はそこではない。イントロの爽やかな高速リフがチョン(CHON)のようなバンドのテクニカルなギターを想起させる、ということがメタルファンの間で驚かれ、普段は邦楽ロックを聴かないような人も次々に惹き込まれているのだ。

実際、チョンの“Waterslide”やポリフィアの“Icronic”などと聴き比べてみると音楽的に共通する部分も多く、ポップなバンドという印象を持たれがちなミセスがそうした要素を自然に取り入れていることに感銘を受けている人が多い。しかも、“ライラック”ではテクニカルなパートが悪目立ちすることが一切なく、雰囲気表現の核として優れた必然性を持っている。これは、日本のポピュラー音楽においても、ミセスというバンド自身のキャリアにおいても、一つの象徴的な到達点を示しているように思われる。

 

邦ロック、現代テクニカルギター、エモを見事に接続

“ライラック”で特筆すべきは、こうしたギターフレーズが先述のようなバンドと邦楽ロックの系譜のいずれにも繋がっていることだろう。曲全体の雰囲気はメタルよりも既存の邦楽ロックに近く、BUMP OF CHICKENのようなギターロックに連なるエモ/ポストロックの成分が軸になっているのだが、イントロのリフは、チョンやポリフィア、アニマルズ・アズ・リーダーズのような、ジェント/プログレッシブメタルコアと近年のジャズを横断する現代テクニカルギターをそのまま想起させるものにもなっている。

ここで聴き比べてみてほしいのが、2000年代以降のエモの重要なルーツとなったアメリカン・フットボールだ。代表曲“Never Meant”冒頭のギターを早回ししたら、“ライラック”のイントロリフにも、チョンやポリフィアのようなバンドが多用するフレーズにも似た感じになる。“ライラック”が実際にこうしたことを意識して作られたかは定かでないが、メタル寄りのシャープなバッキング(Bメロではブレイクダウン気味にもなる)に鑑みれば、サウンド面では上記すべての系譜を見事に繋げてみせている。

そしてそれは、残響レコード系のバンドや、そこに所属していた照井順政(ハイスイノナサ)がサウンドトラックを担当するアニメ「呪術廻戦」の主題歌“青のすみか”(キタニタツヤ)が、“ライラック”に通ずる音楽要素を少なからず持っていることなど、日本の音楽シーンやアニメ主題歌のある側面に照応するものでもある。そうした点においても、“ライラック”は本当によくできた、記念碑的な楽曲なのだと思う。