たなか(ボーカル)、Ichika Nito(ギター)、ササノマリイ(キーボード)によるDiosがセカンドアルバム『&疾走』を完成させた。3人それぞれの特性や武器を確認し、自らの城を築き上げたファーストアルバム『CASTLE』(2022年)、Kan SanoやTomgggといった国内外のプロデューサーを迎え、コラボレーションの可能性を提示したリミックスアルバム『Re:CASTLE』(2023年)を経て、『&疾走』にはTAKU INOUE、川口大輔、永山ひろなおの3人が作・編曲で参加。より自由度を増したアレンジやサウンドメイクによって、Diosとしての記名性を明確に強めている。さらには3人のアバターのキャラクターデザインを、「おそ松さん」や「映像研には手を出すな!」などに関わってきた浅野直之が担当。アニメやゲームといったカルチャーを背景に持ち、ボカロやVTuberとも接点のある3人の2.5次元的な立ち位置がより強調されてもいる。
初めてのツアーからのフィードバックもあってか、躍動感のある楽曲が増えていることも大きな特徴で、それに伴いダークな印象が強かった歌詞の色合いにも変化があり、たなかの人生哲学がはっきりと表れた言葉の数々は〈今をどう生きるのか?〉というテーマを聴き手に問いかけ、未来を描こうとする。『CASTLE』から抜け出して、本格的なロールプレイングゲームをスタートさせた3人のパーティーに、新作の背景を語ってもらった。

城の外に出なきゃいけなかった
――『&疾走』はDIosが新たなチャプターに入ったことを明確に感じさせる作品だと思いました。前作にあったダークな部分も持ち味として残りつつ、〈疾走〉という言葉に象徴されるように、音も言葉ももっと外側に開かれていて、非常に風通しのいい作品になったなと。
たなか「ありがとうございます。ファーストはタイトルが『CASTLE』だけあって、城を作って、境界線を世界に設けて、自分の内側をどう満たしていくか、みたいな話だったんですよね。
でもやっぱりそれだとどんどん狭くなって、濁っていくだけだから、結局城の外には出なきゃいけなくて、じゃあどういう方向で城の外に出ていくのがいいんだろうかっていうのが今回自分の中でテーマとしてありました。〈どう生きていくか〉みたいな話とすごくリンクするんですけど、それを音にも落とし込んだし、歌詞でもそれを表現した部分が多いですね」
Ichika Nito「ファーストを経て、セカンドの曲ではより3人の個性を殺さずに生かし切って、混ぜることができたと思います。前は親和性があり過ぎたというか、3人ともわりと人がいいのもあって、そんなに衝突することもなかったので、その分引っかかりのない曲ができてしまったんですよ。
でもこれだけ3人それぞれに特性があって、ポテンシャルがあるんだから、もっとできるだろうと。なので多少はみ出てもいいから、歪でもいいから、そのまま曲を作ってできたのがこのアルバムなんです」
ササノマリイ「僕にとってはいい意味で無責任にやれるようになったのが大きくて。前までは作業の流れ的にどうしても僕が一番最後になって、最終的にエンジニアさんに渡す前のまとめをする意識があったんですね。それでさっきIchikaも言ってた通り、大人しいものになりがちだったなって。
でも今回は外部の人にも入ってもらったので、まず自分たちが作って、〈ここから磨き上げて欲しいです〉っていう感じの投げ方ができるようになって」
Ichika「だんだん人にお願いがするのが上手くなったよね。一番初めにできた曲が“ラブレス”なんですけど、この曲は3人である程度作った状態で、川口さんにちょっとアレンジしてもらって、さらにTAKUさんにアレンジしてもらう流れでやってて、だからそのときはまだ制作フローとして前作とあんまり変わってないんです。
でもその後の曲は制作の初めの方から他の人に入ってもらったり、3人でラフを作って、そこから仕上げてもらって、それを最後にもう一回自分たちでいじったり、だんだん手伝ってもらうことが上手になったなって」
ササノ「そのおかげというか、トリートメントの部分ではなく、よりクリエイティブな部分に頭を使えるようになったんです。“Struggle”が一番最後に作った曲で、その曲は外部にお願いはしてないんですけど、だいぶ奔放に作れたというか」
Ichika「それまでは補助輪つけてチャリこいでたけど、馴れてきて補助輪外せた、みたいな」
――そしたらIchikaくんのギターがこれまで以上にすごいことになっちゃったと(笑)。
Ichika「一番はっちゃけてますね」
ササノ「城から出て、ちゃんとレベルを上げていってる感じがあるなって、アルバムが完成してすごく思いました」

〈絶対大丈夫〉と思える外部アレンジャーの貢献
――外部のアレンジャーさんに入ってもらうというアイデア自体はいつごろ出てきたのでしょうか?
Ichika「『CASTLE』の頃からそういう人が欲しいとは思ってたんです」
ササノ「3人の中で自分が一応アレンジャーみたいな立ち位置だから、最初は〈自分でどうにかしたい〉っていう感じもあったことはあったんですけどね」
Ichika「そんな話してたわ。〈アレンジャー入れよう〉って言ったら、ササマリが〈俺の役割がなくなるから〉みたいな」
ササノ「そうだったんですけど……いやあ、よかったですね、アレンジャーさん呼んで(笑)。めっちゃ楽しかった。
一番最初にお世話になったのが川口さんとTAKU INOUEさんだったのが個人的にはでかかったと思ってて。っていうのも、僕が本当に大好きな方たちだったので、〈このお2人なら絶対大丈夫じゃん〉っていう。これがあんまりよく知らない人だったりすると、同業者のライバルみたいな感じがしちゃうけど、尊敬してる人なら大丈夫だなって。
実際出来上がってきたアレンジが本当に素晴らしかったので、こんなにありがたいことはないなって」
――たなかくんも外部の人と組むというアイデアは最初から頭にあった?
たなか「僕はなんなら〈歌詞もメロもくじらくんとかに作ってもらった方がよくね?〉みたいなことをずっと言ってたんで。結局今回も歌詞は全部自分でやることになりましたけど……自分が本当に秀でてるところはどこなんだろう、みたいなことを考えることって大事だなと思ってて。
僕は〈メロディーを作る人〉という意識がそもそもあんまりなくて、ラップしてたらいつの間にかメロの比率が大きくなって、気づいたら歌の人になっていた、みたいな意識が強いんです。だからあんまりメロディーへの……こだわりがないわけでもないんですけど、〈自分が作らなきゃ〉みたいな気持ちはそんなになくて。
曲の届きやすさ、広がり方みたいなことで言うと、歌の表現とか声そのものの方が自分のストロングポイントだと思うんですよね。歌詞は難解になりがちだし、テーマ選びもいわゆるポップスの範疇から外れがちなので、〈他の人にお願いしちゃった方が楽じゃない?〉ぐらいのことをずっと言ってたんですけど、今回は自分が言いたいことをいかにポップスのフォーマットで表現しきるか、みたいな方向に挑戦の種類をずらすことで、楽しく書くことができました」

トレンドはガン無視、アートコア経由のドラムンベース
――最初に作ったのが“ラブレス”ということで、“Virtual Castle”にも通じるジプシージャズ感はササノくんのテイストだと思うんですけど。
ササノ「そう言っていただけると大変嬉しくありつつ、僕の中に本来このテイストはなかったんですよ。ただジャンルとして好きだし、ネット系でも流行ってて、そういう曲を作れて人気な人たちが羨ましかったから、自分も作れるぞっていうのを出してみたくなって。それで挑戦してみたのが“Virtual Castle”で、もうちょい上手くできるなっていうので“ラブレス”になった感じです」
Ichika「ササマリの自己顕示欲から生まれた曲です(笑)」
ササノ「でも“ラブレス”に関してはIchikaも〈この音はもうちょっとこうした方がいいかな〉っていうのを返してくれて、2人のやり取りでまとまったものを投げて、川口さんがブラスセクションを考えて、TAKU INOUEさんがキックとベースのトリートメントをしてくれたことで、洗練された上でちゃんと尖ってる、みたいな形になったと思います」
――アレンジそのものはササノくんとIchikaくんの作ったものが基になってるけど、川口さんとTAKUさんが入ったことでよりブラッシュアップされたと。
ササノ「人にお願いすることのありがたさを教えてもらうというか、レッスン1みたいな感じ」
たなか「で、その後にレッスン2で“アンダーグラウンド”を作ったんですけど、この曲もまだトータルアレンジをやってもらう段階じゃないよね。これも“ラブレス”と似たような感じで、ブラッシュアップしてもらうっていう」
――“アンダーグラウンド”はIchikaくんのギターから作った曲ですか?
Ichika「いや、これは(ササノと)2人で遊びでドラムン(ベース)みたいなのを作りたいっていう話から作った曲で、最初Diosのアルバムに入れようとも考えてなかったもんね。でも1コーラス作ったらそれが楽しくなって、フル尺ができて、たなかに〈歌ってみてよ〉って送ったら、意外といいなって。楽しくなれるジャンルでやるのがいいよね」
――近年はピンクパンサレスやNewJeansをはじめ、ドラムンベースなどのクラブミュージックをベースとするポップスがトレンドになってたりもするけど、そこへの関心もあったわけですか?
Ichika「いや、トレンドはガン無視です。僕らは古の音ゲー界隈のドラムンのオタクで、だからアートコアをやりたかったんだよね。音ゲーの界隈にアートコアっていうジャンルがあるんですよ。Feryquitousっていう方がいて、この曲のサビはかなりまんまなんですけど」
ササノ「Feryquitousだったり、昔で言うとonokenさん」
Ichika「そう、onokenさんがアートコアの元祖の人で。構成は様式美にのっとって、“アンダーグラウンド”もサビの後半でキメを入れてて」
ササノ「この曲が一番趣味性が強いよね」
――アートコアとハイパーポップって文脈的に近いのかな?
ササノ「アートコアはもっと昔の、本当にオタクのカルチャー、音ゲーのカルチャーから出てきたもので」
Ichika「具体的に言うと、サビがこの曲みたいなリズムで、きれいなピアノが入ってて、コード進行は絶対に456(IV→V→VI)か436(IV→III→VI)、サビの真ん中で1回落ちて、マイナーに行って」
ササノ「一瞬転調したり」
Ichika「そういうのが様式美としてあって、みんなそれをこねくり回していく、みたいな。でもたなかの歌が入ってガラッと変わりましたね」
たなか「僕はその……アートコア? それも今〈そんなのがあるんだ〉って知ったぐらいなので」
ササノ「文脈を知らないから、そのメロディーにのっとることがないので、それが良かった」
Ichika「オタク3人集まってたらマジでそのまんまになってた(笑)」
たなか「“アンダーグラウンド”は自分のことを愛せない人が、世界の美しさを憎んでしまうことをテーマに書いていて。これって現在の自分とはまた違うんですけど……。
今は日々が満たされているので、もう自分のために音楽を作って表現をする必要がなくなったんです。自分の満たされなさを掬い上げて、消化するために音楽を作るっていうのが最初の……」
――ぼくりり(ぼくのりりっくのぼうよみ)時代はそうだった?
たなか「ぼくりりにもなる前ぐらい、一番最初に曲を作ったときはそういうところから始まってたんですけど、もう完全にそれがなくなったんで、じゃあ自分が何のために音楽をするのかなと思ったときに、本当の意味でやっとリスナーのために音楽をやろうという気持ちが出てきたんです。
今までは〈それってフェイクだよね〉みたいに思ってるところがかなりあったんですけど、それが自分の中で腑に落ちて。なので、“アンダーグラウンド”は思春期のひねくれた子供たちに向けて歌詞を書きました」

Diosのキャラソン
――“ラブレス”、“アンダーグラウンド”を経て、アルバムの1曲目を飾っている“自由”は文字通り自由度の高いアレンジが印象的で、アルバムを象徴する一曲になっていますね。
たなか「これがレッスン3です。まず僕がど頭のサビの歌詞とメロをバーッと作って。コードもついてない、ドラムもCubaseでループを検索して一番上に出てきたやつを貼っただけの曲で、僕としては〈こういう雰囲気のことをやりたいんだよね〉っていうイメージとしてそれを送ったから、小節数もちゃんと16になってなくて、めちゃくちゃだったんですよ。でも2人は律儀に〈これを生かすにはどうすれば〉みたいな感じになって、大混乱して……」
ササノ「特に俺は〈忠実にやんなきゃ〉と思って、小節数もめっちゃ数えて、〈これ以外正しくないと思う〉みたいな」
Ichika「絶対にたなかの歌を崩さずに再現しようとしてね」
たなか「そのサビの部分は最終的にTAKUさんがまとめてくれて、その後は〈メンバーがそれぞれリレーしてったらいいよね〉みたいな」
Ichika「僕はトラックも自分で作って、急にBPMも変えて、ファンクカッティングみたいなギターを入れて、ベースも入れて、そこが終わったらもう一回違うパターンのサビが来て、そこからはササマリのターン。
結果的にDiosのキャラソンみたいな感じになったと思うんです。ササマリのとこはササマリが全部作ってて、一切ギターも入れてないし」
――ササノマリイパートのこだわりは?
ササノ「いやもう、ただの癖です。自分が思うまま、本当に何も考えなかった。だって後で誰かが何かを加えると思ってたから。ただただ好きな音を入れて、〈こんな感じなんですけど、TAKUさんどうですかね?〉ぐらいの気持ちで送ったら、整えられて終わりだった。
最初のピッポポポみたいなやつは『MOTHER2』のカーソルの音をイメージしてて、音楽に合わせてカチカチやるのが好きだったから、それをまんまやりました」

今必要なのは自由じゃなくむしろ鎖
――歌詞のテーマも最初からイメージがあったわけですか?
たなか「最初からありました。この曲はど頭のブロックが全てで、後はそれを補っていってるだけ、みたいな感じなので」
――〈自由だ!なんて言わなくていい、/そんなものみんな持て余してる/縛って 縛って 縛ってくれよ〉。
たなか「自由っていうのが概念としてそもそも老朽化してるよね、みんな自由に夢を抱きすぎだよね、みたいなことはずっと思ってるし、普段から2人ともそういう話をしていて。
もちろん奴隷になるのは良くないことだけど、だからといって、自由がいいかと言われると、よくよく考えるとそうでもなくない?みたいなことはすごく思うんですよ。憲法上の自由が保証されてることはすごく大事なことだけど、僕らが自由をどれだけ行使できるのかというと、あんまりできないことがわかってきたじゃないですか。Twitterによってできるようになったことは無限にあるけど、結局新しいアカウントを作って、誰かにクソリプを送るだけだったりするわけで、その自由の使い方って非常にもったいない。
人は草原に急に放り出されても何もできないから、今必要なのは自由じゃなくてむしろ鎖なんじゃないかなっていうのはすごく思ってて。〈縛られる〉っていうのは、自分が今まで思ってたのと違う価値観の世界に入って、その世界に違和感を感じながらも全力で向き合っていく、みたいなこと。それって単純に勉強することとかに近いと思うんですけど、そういうことをやった方がいいよねって思ってて。
ただこのテーマで歌詞をかっちり書きすぎると単なる説教になっちゃうから、曲の構成とか音のフリーダムさを掛け合わせることで、中和されるっていうか」
――“自由”では〈新たな鎖で縛って上書きしちゃいな〉〈大人になること 鎖を持つこと/それぞれの鎖とともに歩く〉と歌われてるし、“渦”でも〈重く絡んだ 鎖を愛せよ〉〈回る社会 錆びた鎖/もう僕のかけがえのない一部〉と歌われていて、〈鎖〉は間違いなくキーワードになっていますよね。これまでのポップスでは〈鎖を断ち切れ〉みたいなことが歌われてたと思うけど、生きてる以上誰だって鎖に縛られているし、それを断ち切るのは簡単ではないことがわかってきた。それを認識した上でどう生きていくかを考えるというのは、すごくリアリティのある未来志向だと思います。
たなか「〈自由になろう〉みたいな曲ってマジ無責任じゃないですか。〈仕事やめてみました。どうすればいいですか?〉って言われても、みたいな(笑)。
誰かの人生を前に進められたらいいなっていう思いはすごくあるんですよ。実際進めるのはその人たちなので、僕らができるのは進めるのを促すことに過ぎないんですけど、そういうものとしてあれたらすごくいいなっていうのは強く思ってて。
エンタメとしてやるんだったら、僕より上手くやれる人がたくさんいると思うんです。でも僕が歌詞を書き続けるのであれば、ある種のエデュケーション的側面というか……エデュケーションって言うと偉そうで嫌なんですけど、思想を作っていく上での一つの補助線みたいな感じでそれを成立させられたらいいなっていう感じですね」

〈疾走〉だけじゃない〈&疾走〉
――アルバムタイトルでもある“&疾走”も本作のメッセージを象徴する一曲ですね。
たなか「このタイトルはササノが考えたんですけど、もともとアルバムタイトルはめちゃくちゃ悩んでて、最初はIchikaが〈大脱走〉って言ったんですよ。言葉としてはパワーが強くていいよねと思いつつ、言いたいことのラインとはちょっとずれるなと思って、そこから〈大疾走〉が出て、最終的にササノが〈&疾走〉を出して。これは秀逸だった」
ササノ「僕、昔からキャッチコピーを考えるのが大好きで、ジャケットにバンッて載るものとして、何が目を引くか考えたときに、〈&疾走〉がいいなって。意味はわからないけど、口ざわりがいいというか、ぼんやりと出したアイデアではあるんですけど」
――でも〈大脱走〉でもなく、ただの〈疾走〉でもなくっていうのはすごいよくわかる。Diosのデビュー曲は〈震えたままで走れよ〉と歌う“逃避行”だから、もともと〈どこかに駆け出して行く〉みたいなイメージはあったと思うんですよ。でも“逃避行”にはややネガティブな側面があったし、〈大脱走〉だとその延長な感じがする。それが〈疾走〉になるともっと能動的なニュアンスになって、さらに〈&〉がつくことで意味合いがより重層的になるという。
ササノ「そうだ、思い出しました。アルバムタイトルとして考えたときに、このトラックリストをまとめるものだとしたら、〈疾走〉だけだとちょっと合わないと思ったんです。
そうじゃなくて、各曲に〈疾走〉っていうテーマが合わさっていくのがいいなって。ただの〈疾走〉だとがむしゃらに走るイメージだと思うんですけど、〈&〉をつけたら何かの指標があって、その目的にまっすぐ走っていく形になる。そういう意味づけができて綺麗だなっていうので考えたのを今思い出しました(笑)」
――じゃあこのタイトルがあった上で、この歌詞を書いたと。
たなか「そうですね。〈&疾走〉いいじゃんと思って、そこから〈ただしいフォーム&疾走〉(“&疾走”の歌詞)でしかねえと思って」

ミクロな一歩が最終的に人生を大きく変えていく
――この〈ただしいフォーム〉という言葉も非常に印象的ですが、どのような意味合いが込められているのでしょうか?
たなか「今回のアー写のキャラクターにも表れてるIchikaのギャル性って、世界を建設的に捉えて、変に悲観しないで、でも数字とかドライに見るべきところは見て、その上で〈でもできるでしょ〉っていう仮説を立てて、検証しながら努力し続ける、みたいなことで。それって要するに、ただしいフォームをちゃんと見つけて、それに沿うように練習するっていうフローだなと思ってて、それはいいなって。

僕の趣味の……もう趣味の域を超えてるんですけど、ボルダリングをめちゃくちゃやってて、最近それが課題だったんですよ。今まではがむしゃらにやってきて、それこそ単なる疾走で、それでもやってたらある程度のところまでは伸びたんですけど、頭打ちになってたんですよね。で、パーソナルトレーナーの先生を入れて、筋肉を構造から分解して、今まで漠然と〈こうやったらできそう〉みたいな感じだったのを、解像度を上げてやるようになって、そうすると如実に成果が出るんですよ」
――なるほど。
たなか「ただしいフォームというものの強さをたまたま自分でも実感したし、横にIchikaっていうただしいフォーマーがいるし、みたいな。
で、これは何がいいかっていうと、誰でもできるっていうこと。Ichika Nitoになることは誰にもできないじゃないですか。でもその人の体が要求するただしいフォームってそれぞれにあるんですよ。骨盤がこういう形で、筋肉がこうだから、あなたにとってのただしいフォームはこの状態です、みたいなことが誰しもにあるから、それを探り当てて、ただただそれを練習する。
そういうミクロな一歩が最終的にその人の人生を大きく変えていくファクターとしてあるなっていうのが……優しいことだと思ったんです」
――誰も排除しない、誰にとっても可能性がある。
たなか「もしかしたら疾走することができない人だっているかもしれないけど、ただ歩くことでもいいし、ただ座ることでも何でもいいんですよ。とにかくその瞬間にただしいフォームでいるかどうかが、最終的に大きな差分になっていくっていうのはすごくあるなって。
“&疾走”の歌詞にも書いたんですけど、ただしいフォームで練習を続けてると、ある瞬間に謎の決定打みたいなやつが出ることがあるなと思ってて」
――〈飽きにすら飽きてくその後に/やっと来る一撃は宇宙まで/君を連れてく 黄金比/その日まで走るだけ シンプルでしょ?〉。
たなか「それは単なるラッキーパンチとは違うんですよね。積み重ねて積み重ねた上で120%が出るみたいな話で。基本は90%とか100%が出たらいいよねって話なんですけど、たまに120%が出て、そのたまに出る120%が自分をまだ行ったことのない領域に連れてってくれる、みたいなことってあるなと思ってて。
だから〈ただしいフォーム&疾走〉って、もうちょっとメタファーとして解釈してもらえたら嬉しいです。空手の練習とかそういう話ではなくて(笑)」
――マインドの部分での〈ただしいフォーム〉もあるだろうし。
たなか「仕事への向き合い方でもいいし、何でもいいんですけど。それが僕ないしは僕らが提示できる、一番嘘がなくて、一番取り入れやすくて、一番世界を変えうる言葉だなって、今思ってて。そういう意味で、この曲ができたのはすごく嬉しいですね」

今僕らは胸を張ってこのメッセージを発信できる
――この曲では〈魔法なんてない〉とも歌われてるけど、魔法みたいに何かを一瞬でガラッと変えるものはないんだけど、でもただしいフォームを積み重ねていった先で、魔法のように何かが変わるかもしれない、そういう希望も歌ってるというか。
たなか「おっしゃる通りでございます。Ichikaってホントそうじゃない? 一番最初にギターをただしいフォームで弾き始めたときにさ、こんなことになるとは思ってないでしょ?」
Ichika「それはそうだね」
――Ichikaくんは動画でもいつもただしいフォームで、Ichikaフォームでギター弾いてるもんね。
たなか「多分一般的なただしいフォームとは違うよね。もちろん、Ichikaは稀有な例だから、多くの人にとってはそれこそちゃんと鎖に縛られることが大事で、さっきは〈空手の練習とかじゃなくて〉って言ったけど、でも空手教室で教えてもらうような、ちゃんとした型をしっかり練習することの重要性って、ここ最近軽視されてると思うんです。
今って〈ゆるく生きたらいいじゃん〉みたいに言う人もいるけど、それには絶対飽きるんですよ。みんな何かしらのただしいフォーム、練習すべきものを持って練習するっていうことが、より美しくあるための、シンプルなコツなんじゃないかなと思いますね」
――言ってみたら今のDios自体にも当てはまるというか、3人それぞれなんでもできる人たちだからこそ、いざ〈自由にやってください〉と言われると、その自由をどう行使したらいいのか若干迷ったのがファーストだったのかもしれない。でも今回はアレンジャーさんを迎えて、別の人のルールや型が介在することによって、Diosとしてのただしいフォームを見つけられたというか。
たなか「ありがたい。嬉しいです。あと単純に〈ただしいフォーム&疾走〉という言葉を1曲の中で10回ぐらい言ってるので、この曲を3回聴いたら〈ただしいフォーム&疾走〉っていうキャッチフレーズを30回聴くことになるんですよ。そうなると必然的に、走るときにちょっとフォームを意識しちゃうようになると思うんです。
ポップスの持つすごみってそういうことだなと最近思ったんですよね。歌詞の意味とか一度も考えたことないのに、無意識レベルで魂の中に浸透していく。それが音楽の優れていて、かつ危険なところでもあるなって。プロパガンダ的というか」
――刷り込まれちゃうこともあるからね。
たなか「でもこの言葉をインストールして、損は絶対ないはずなんですよ。ただしいフォームを意識して損をすることって99.9%ないから、今僕らとしては胸を張って、このメッセージを発信できると思ってます」
スタイリング:Yuki Tsuchida
■たなか
Damage knit ¥23,100(blank|blank営業部 blank.info193@gmail.com)
Polo shirt ¥7,920(SOERTE)
Shoes ¥69,300(Fax Copy Express*|MATT. INFO - MATT.COM)
Other stylist’s own
■Ichika Nito
Western shirt ¥11,000(SOERTE|Auntie Rosa Co. Ltd.)
Other stylist’s own
■ササノマリイ
Print shirt ¥35,200(meagratia|TENNT RANCH 03-6812-9341)
Shoes ¥23,100(ROCKPORT|(株)丸紅フットウェアロックポート事業部 https://shop.rockport.jp/)
Glasses ¥41,800(金子眼鏡|オプティシャンロイド)
Other stylist’s own
RELEASE INFORMATION
リリース日:2023年9月6日(水)
フォーマット:CD/デジタル
配信リンク:https://dios.lnk.to/SPRINT
■通常盤
品番:DDDR-1004
価格:3,300円(税込)
2CD(Instrumental Ver.付き)

■完全限定生産BOX盤
品番:DDDR-1005
価格:6,600円(税込)
BOX仕様/2CD(Instrumental Ver.付き)/オリジナルTシャツ(Lサイズ相当)/ステッカー(ホログラム仕様)
TRACKLIST
1. 自由(※新曲)
2. アンダーグラウンド
3. &疾走(※新曲)
4. 渦(※新曲)
5. また来世(※新曲)
6. 花束(※新曲)
7. Struggle(※新曲)
8. ラブレス
9. 裏切りについて
10. 王(※新曲)
LIVE INFORMATION
Dios Tour 2023 &疾走

2023年10月7日(土)宮城・仙台 Rensa
2023年10月8日(日)北海道・札幌 PENNY LANE24
2023年10月11日(水)福岡 DRUM LOGOS
2023年10月12日(木)広島 LIVE VANQUISH
2023年10月19日(木)大阪 BIG CAT
2023年10月20日(金)愛知・名古屋 BOTTOM LINE
2023年10月23日(月)東京・台場 Zepp Divercity (TOKYO)
■チケット
一般発売:2023年7月15日(土)12:00〜販売中
https://linktr.ee/dios_tour2023
PROFILE: Dios
たなか(前職・ぼくのりりっくのぼうよみ)、YouTube登録者数240万人越えの今最も注目すべき世界的ギタリスト・Ichika Nito、ボカロやオンラインゲーム界隈ともリンクし、ぼくりりの過去作も手掛けたトラックメイカー/シンガーソングライター・ササノマリイが新たに結成したバンド。2022年6月にファーストアルバム『CASTLE』をリリースして以降、全国5大都市を巡るファーストツアーを各地ソールドアウトで終え、2023年3月にはベースとパーカッションを加えた編成でBillboard Liveツアーを完遂。バンド名は、たなかの好きな漫画「ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン」の登場人物・Dioと、ギリシャ神話における陶酔や酩酊を司る神・ディオニュソスを掛けて名付けられている。
PROFILE: たなか
98年生まれ。前職はぼくのりりっくのぼうよみ。ぼくりりを辞職した現在は〈たなか〉として歌手活動のほか、楽曲制作・提供やフィーチャリングで他アーティストの楽曲への参加をおこなっている。音楽以外にも文筆業やボルダリングなど様々なジャンルに取り組み活動中。また、やきいも屋を営み、わずか2か月でやきいもを1.5トン売るなどの成果を残し、やきいも界でも注目を集める。
PROFILE: Ichika Nito
イギリスのギター雑誌「Total Guitar」の読者が選ぶ〈史上最高のギタリスト100選〉で〈現在最高のギタリスト〉として8位にランクイン。2018年からはゲスの極み乙女。の川谷絵音らとインストバンド〈ichikoro〉でも活動している。ドリーム・シアターのジョン・ペトルーシやザ・フーのピート・タウンゼントといった著名なギタリストはもちろん、ゼッドやマーティン・ギャリックス、ホールジーやXXXテンタシオンなどの楽曲をプロデュースしているジョン・カニンガムのような別ジャンルの世界的アーティストたちからも厚い支持を受けている。Ichikaの研ぎ澄まされた感性とその唯一無二のギタースタイルとトーン、テクニックには海外からも楽曲提供や楽曲参加のラブコールが絶えない。またInstagramのフォロワー数はギタリストというカテゴリーにも関わらず80万人以上、そして2019年から始めたYouTubeは現在登録者数240万人越えとワールドワイドな注目の高さが伺える、今日本で際立っている、知っておくべきギタリスト。
PROFILE: ササノマリイ
エレクトロニカやクラブミュージックから深い影響を受けつつ、ボカロやオンラインゲーム界隈ともリンクするビートメイカー/コンポーザー/シンガー。耳に残るメロディラインと融合された深度のあるサウンドデザインが特徴的で、自作のみならず他アーティストへの楽曲提供や楽曲制作、プロデュースでも活動している。また過去の映像作品が動画サイト〈Vimeo〉のスタッフピックス、アヌシー国際アニメーション 映画祭の委託作品部門(フランス)、Anifilm(チェコ)、International Animation Film Festival Golden Kuker - Sofia(ブルガリア)など数々の映像、アニメーションフェスティバルで入賞するなど、音楽のみならずアート方面での注目度も高い。


