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ワールドスタンダード山本哲也との山梨のログハウスでの録音

──それは時としてデモ音源に近い手触りということなのかなとも思います。例えば今回のアルバムの中だと“深呼吸”から“2023/02/09”への流れ、これは明らかにデモに近いんじゃないかと感じました。“深呼吸”の最後の方はノイズが残ってるじゃないですか。まるで雨が屋根に打ちつけているようなノイズ。そのノイズが音響的にすごく重要で、デモのようなラフな音質であることが、逆にしっかりと音の響きを抽出しているということなのかなと思ったんです。

「なるほど、確かに。“深呼吸”は最初、ギターの弾き語りで作ったんです。東京に引っ越したばかりで、夜は音が出せない家だったので、すごいちっちゃい声で弾きながらしか音を出せなくて。

レコーディングはログハウスみたいなところでやったんですけど、そこには暖炉があって薪を焚べてたんです。あの曲の最後の方のノイズ……パチパチと音がしているのはその暖炉の音なんですね」

『夕暮れ』収録曲“深呼吸”

──ログハウスみたいなスタジオというのはどこなんですか。

「山梨です。プロデューサーの山本さんと2人で行って。なるべく自然のある、天井の高い家を探して。スタジオというより一軒家ですね。そこに泊まり込みで行って、朝日が昇るぐらいのタイミングで外に出て携帯で、音がよく録れるマイクをつけてフィールドレコーディングして。鳥の声とか、朝っぽい音が取れたんです。

だから……そうですね、実は“深呼吸”と“2023/02/09”は同じ場所で録ってるので、そこの連続性もかなり意識しました。つまり、“2023/02/09”はまさに今年の2月9日の朝に録音して、“深呼吸”はその前の日なんです。だから当然繋がりますよね。

山本さんがマイクの立て方とかを全部一緒にやってくださったので面白い録音になったと思っています」

『夕暮れ』収録曲“2023/02/09”

──山本哲也さんがこれまでやってこられたお仕事についてはご存じでしたか。

「そこまで詳しく知っていたわけではないので、あとから調べました。でも、山本さんが手がけられたワールドスタンダードは知っていました。ただ、山本さんはマニピュレーターでもあるので、シンセの使い方を教えてもらったりして、すごく勉強にもなりました。

あと、山本さんは僕の音楽について、〈声が特徴的でいい〉とおっしゃってくださったので、どうやってそれを生かして響かせようか、楽器の音を減らして、声をちゃんと出そうっていうところで意見が一致したんです。なので、音決めの段階からしっかりと一緒にやっていってくださいましたし、メロトロンやプロフェット5などは山本さんが実際に演奏してくださっています。

あと、今回のレコーディングに参加してくださった神谷洵平さん(ドラムス)、須長和広さん(ベース)、白佐武史さん(チェロ)は山本さんの推薦で今回参加してくださって。トランペットとフリューゲルホルンはまたそれぞれあとから、三浦千明さんなどが演奏してくださいました」

 

分析癖もいいけど、直感的に作品を作りたい

──東京に出てきて1年以上だそうですが、今回のアルバムの曲は東京での生活が始まってから作ったものですか。

「そうなんですけど、1曲目のゴスペルみたいな曲(“陽、沈みゆく”)だけは少し違って。あの曲を作っていたときは迷っていた時期でもあって。最初は島根で作り始めて、東京に来てからメロディーとアレンジをつけたんです」

『夕暮れ』収録曲“陽、沈みゆく”

──東京に住み始めてから作る曲、作る歌詞に変化はありましたか。モチベーションが変わってきたりもしていますか。

「そうですね……ちょっと外向きにはなった気がします。元々内省的ではあったんですけど、そういう自分のことも少し客観的に見られるようになってきたというか。外向きな感じにもなれるようになってきたこと自体はもちろんいいことですし、作品単体で見たら、その時期によって評価が変わることもあるんだろうなと。

僕、あまりよくない癖だとは思うんですけども、どうも分析癖があるんですよ(笑)。そういう遺伝子なんだろうな。というのも家族や親戚をさかのぼって見ていくと、3割ぐらいが医者で4割ぐらいが学者なんですよ。つい分析、解析するのが血筋としてあるみたいで。だから、歌詞についても〈この言葉を使うのはちょっとダサいな〉とか、〈重みがないな〉とか、そういうことをつい考えてしまうところがある。

今は、そういう感覚もいいけど、もっと直感的に歌詞や言葉を使っていきたいと思ってもいるんです。生活環境が変わると俯瞰して見る癖より、もっと没入して作品を作ることができるようになるかもしれないですし。

正直、島根にいて音楽を続けていく方が幸せだったかもしれないなとは思うんです。でも、プロの人たちと一緒に演奏したり、アドバイスをいただいて一緒に作業をしたりすることは今の環境だからこそできることだし、今後は誰かに曲を提供したり、誰かと一緒に作業をしたりすることもやっていきたいと思ってて。そういうところから音楽に対する感じ方ややり方も変わっていくかもしれないなと感じています」

 


RELEASE INFORMATION

Remay 『夕暮れ』 フォーライフ(2023)

リリース日:2023年4月19日配信
配信リンク:https://lnk.to/EcxQQblF
作詞・作曲:Remay

TRACKLIST
1. 陽、沈みゆく
2. 光る魚
3. 空気
4. 深呼吸
5. 2023/02/09
6. かかえてきた
7. 幻を越えて

■クレジット
1. 陽、沈みゆく
Words and Music by Remay
Produced by 山本哲也
Arrangement / Remay

Vocal, Voice / Remay

Recording, Mixing / Remay
Mastering / 原真人
Recorded at Studio Red Feather

2. 光る魚
Words and Music by Remay
Produced by 山本哲也
Arrangement, Programming / Remay, 山本哲也

Vocal, E. Guitar, Chorus / Remay
A. Piano, Prophet-5, Mellotron / 山本哲也
Cello / 白佐武史
E.Bass / 須長和広
Drums, Percussion / 神谷洵平

Recording, Mixing, Mastering / 原真人
Recorded at PARADISE STUDIO, スタジオ目黒倉庫

3. 空気
Words and Music by Remay
Produced by 山本哲也
Arrangement, Programming / Remay, 山本哲也

A. Guitar, Chorus / Remay
A. Piano, Prophet-5, Mini Moog, Organ/ 山本哲也
E. Guitar / 円山天使
Flugelhorn / 三浦千明
E. Bass / 須長和広
Drums / 神谷洵平

Recording, Mixing, Mastering / 原真人
Recorded at スタジオ目黒倉庫, PARADISE STUDIO

4. 深呼吸
Words and Music by Remay
Produced by 山本哲也

Vocal, A. Guitar / Remay
Recording / 山本哲也
Mixing, Mastering / 原真人
Recorded at ログハウスkizuki

6. かかえてきた
Words and Music by Remay
Produced by 山本哲也
Arrangement, Programming / Remay, 山本哲也

Vocal, A. Guitar, E. Guitar, Chorus / Remay
A. Piano / 山本哲也
Cello / 白佐武史
Chorus / 藤本弥奈美

Recording, Mixing, Mastering / 原真人
Recorded at スタジオ目黒倉庫 

7. 幻を越えて
Words and Music by Remay
Produced by 山本哲也
Arrangement, Programming / Remay, 山本哲也

Vocal, A. Guitar / Remay
A. Piano, Organ/ 山本哲也
Cello / 白佐武史
Trumpet / 三浦千明
Chorus / 藤本弥奈美
E. Bass / 須長和広
Drums, Percussion / 神谷洵平

Recording, Mixing, Mastering / 原真人
Recorded at スタジオ目黒倉庫, PARADISE STUDIO

Designed by堀内伸弥 (T.O.Mommoth)
Photograph by 有賀幹夫

 


PROFILE: Remay
99年2月18日生まれ。島根県松江市出身のシンガーソングライター。甘い響きとどこか儚い印象を与える独特な声が魅力。その声で歌われるバラードは幸福と悲哀の両面を映し出す。生楽器を主体としたスタンダードな楽曲や、隙間を作り、聴き手によって受け取り方の変わる歌詞も特徴。新鮮さと古き良き感覚を併せ持つ作家性である。2022年11月に配信シングル“かかえてきた”でデビュー。2023年2月にセカンドシングル“光る魚”、4月19日にファーストアルバム『夕暮れ』を配信リリース。今後の活躍に注目のアーティストである。