尾崎裕哉の〈僕がつなぐ未来〉、その豊穣ぶりを享受する

 メジャーデビュー記念ライブ(2016年9月)を、いきなりの弦楽共演という鮮烈さで飾った尾崎裕哉。今回のStrings Ensemble Premium Concert 2023の企画について、凡そひと月前の取材で本人はこう口にしていた。「そのスタイル自体は7年ぶりとなるので、ある意味、懐かしさを感じてもらえる部分もあるかとは思いますが……この間、自分もだいぶミュージシャンとして進化できたと思っているので、そういう面がより多く出せればと考えていますね」。

 期待と答えを求めて4月9日の昼下がり、日本橋三井ホールへとメトロに揺られた。16時開演、まずベーシストのパット・グリンが舞台袖から登場し、当日のピアノ&音楽監督である宮本貴奈も鍵盤の前に座る。そして尾崎が現われ、アコギを持つとトリオ編成での“僕がつなぐ未来”が新鮮な驚きのなかで爪弾かれ始めた。(こう来るか……これが7年目の、一つの解答か!)と嬉しくなり、独特のグルーヴ感に素直に身をまかせた。

 2曲目“サムデイスマイル”、3曲目“OH MY LITTLE GIRL”と、インタープレイの呼吸で自作と豊作品を淀みなく繋いでゆく3人。裕哉・貴奈は初対面時から「洋楽カヴァ―も1~2曲入れようか!」と当意即妙したが、前者が少年期/後者がバークリー音大生の時期に、同じボストンの空の下に居た。「そう、偶然なんだけど……同じロブスターを食べ、同じ川を」と宮本が語れば、尾崎が「……を眺め! 同じリスを追い!」とユニゾンで笑話した相性だ。

 両者の初コラボを拙稿で〈その化学反応も大注目のライブだ〉と締めたが、期待を大きく上回る結晶が5曲目の“I Can’t Make You Love Me”で放たれた。ボニー・レイットがブルース・ホーンスビーのピアノを招聘し、感動的に歌い上げたバラードの秀作だ。そう来るか……再び呟くじぶんがいた。それをサム・リヴァースや渡辺貞夫らとの共演でも知られるパットの低音が支える。物語を可視化させる演奏とアレンジで引く手数多である宮本の手腕も輝きを増し、贅沢気分が高まる。しかも〈&弦楽アンサンブル〉の鳴り物パートはまだ、これからという豪華さだ。

 6曲目の“ロケット”で弦楽5人組が登壇した際、「次の曲は皆さんがNASAの役目を担い、僕らが飛び立つ為のカウントダウンをお願いしたい」と前置きした裕哉。新旧混在の観衆勢を難なく巻き込んでの歌唱ぶりに歳月の収穫度が十分伝わってきた。

 そして1部のラストは“卒業”。4日前に“I LOVE YOU/OH MY LITTLE GIRL”を自作と並べて4曲入りEPで発売した彼。スタジオ録音では初音源化となる豊作品に関しては「今ならばオリジナリティーを持ったカヴァーが披露できると考えて」の英断だった。デジタル感満載の同盤と比して、当日のライブ版(貴奈:編曲)ではより独自性が響いた。MCでも「人間っていいなって(笑)……楽屋にいても演奏してても改めて想いました」と、〈人力の歓喜〉に笑みを零していた。

 II部では「高校の先輩の曲を歌います」と宇多田ヒカルの“First Love”という飛び道具まで披露。「今日を踏み台に(笑)、芦屋、名古屋、そして東京に戻るまで頑張ります!」、原点回帰の構成は凄まじい深化を遂げていた。