尾崎裕哉

弦楽の調べが「7年めの輝き」を照射する夕べ

 一昨年発表の1stフルアルバム『Golden Hour』を聴く度、じぶんが永く暗誦してきた言葉たちが唇を衝いて出てくる。太宰治が「葉」のエピグラフに置いたヴェルレーヌの〈撰ばれてあることの/恍惚と不安と/二つわれにあり〉や、岡井隆の歌集「天河庭園集」に収められた〈父よ父よ世界が見えぬさ庭なる花くきやかに見ゆという午(ひる)を〉の一首、等々。そんな連鎖を脳内に咲かせる音盤は稀だ。尾崎裕哉が自らの少年期から今なお抱える問題意識を述懐し、反芻し、止揚⇔回帰を往還しつつ紡いだ作品集。2016年上梓の自著「二世」の一行めに、受容と自立の宣言を込めて〈誰もが誰かの二世である〉と記した彼が、4年の歳月を費やした音楽の足跡集。全11作品をオリジナル(KREVAの提供曲、SUNNY BOYとの共作を含む)で編み、亡父のカヴァー作が華を添えるという演出を敢えて排した構成に自信と確信が読み取れた。

 そんな裕哉が4月5日、尾崎豊の名曲“I LOVE YOU”と“OH MY LITTLE GIRL”の2曲をスタジオ録音で初音源化し、自身書き下ろしの新作2曲との4曲入りEPとして発売する。「オリジナルもそれ程出していない中で〈尾崎豊のカヴァーをするだけの人間〉として取り上げられてしまう事は避けたかった。出方が出方だったので……では何故今なのかといえば、今後は出せるタイミングがほぼないだろうと思えたからですね」と、本人は明かす。豊の没後30周年に当たる昨年、彼は昭和回顧系の歌番組に数回招かれた。「〈昭和世代が今一番聴きたい曲〉的なTV局の調査ランキングでは、どの番組でも“I LOVE YOU”が1位だった。もう30年経つのに一番愛されているバラードとしてまだ求められているのか……節目でのそんな想いが大きかったのが一つ。さらに自分の声もある程度成長してきて、今ならば〈オリジナリティーを持ったカヴァー〉が披露できる。自分の声は今後も変わり続けるから〈今なら出してもいい〉〈今の鮮度で早目に遺しておきたいな〉とも思ったから」。『Golden Hour』誕生の相乗効果、待望の副産物だろう。

宮本貴奈

 そして4月・5月は全国主要都市のクラシック専用ホールを舞台に、尾崎裕哉&京都フィルハーモニー室内合奏団のライブが開催される。2016年秋のメジャーデビュー記念ライブ(@よみうり大手町ホール)以来、本格的な弦楽アンサンブルとの共演は7年ぶり。今回はピアノ&音楽監督に〈一人オーケストラ〉と呼ばれ、ニーナ・フリーロン(グラミー賞候補歌手)や八神純子らとの共演でも知られるジャズピアニストの宮本貴奈を迎えての豪華さも話題だ。尾崎豊は震災もコロナもウクライナ戦争も知らない。一方、デジタルネイティブ世代でバイリンガルな表現者である裕哉に、自身のテーマを訊くと「根本にあるのは、生と死と家族」と間髪入れずに即答した。バークリー音大の映画音楽科&ジャズ作曲科を卒業し、〈物語が見えるような演奏とアレンジ〉で引張りだこの宮本貴奈。裕哉の少年期に「偶然、同じボストンの空気を吸っていた」二人の初コラボ、その化学反応も大注目のライブだ。

 


LIVE INFORMATIOAN
尾崎裕哉 Strings Ensemble Premium Concert 2023

2023年4月9日(日)東京・日本橋 三井ホール
開場/開演:15:00/16:00

2023年4月15日(土)兵庫・芦屋 ルネサンスクラシックス芦屋ルナ・ホール
開場/開演:15:00/16:00

2023年5月6日(土)愛知・名古屋市昭和文化小劇場
開場/開演:13:30/14:00

2023年5月20日(土)東京・築地 浜離宮朝日ホール
開場/開演:13:30/14:00

出演:尾崎裕哉(ヴォーカル&ギター)
宮本貴奈(ピアノ・4月9日、5月6日、5月20日)/中島徹(ピアノ・4月15日)
京都フィルハーモニー室内合奏団(弦楽アンサンブル)
https://rcdaf.page.link/HIROYA-OZAKI-2023

 

RELEASE INFORMATION

尾崎裕哉 『I LOVE YOU』 SME(2023)

リリース日:2023年4月5日(水)

■初回生産限定盤(CD+Blu-ray Disc)
品番:SECL-2850

■初回生産限定盤(CD+DVD)
品番:SECL-2850

■通常盤
品番:SECL-2854

 

尾崎裕哉 『二世』 新潮社(2016)

ISBN:9784103502616

 


PROFILE: 尾崎裕哉
混迷の時代に希望と光を探し、歌を届けることを使命として、独自の存在感で輝き続けるシンガーソングライター。1989年、東京生まれ。2歳の時、父・尾崎豊が死去。母と共にアメリカに渡り、15歳までの10年間を米国ボストンで過ごす。慶應義塾大学大学院卒。2016年にDigital 1st Single“始まりの街”をリリース。2020年10月に1stフルアルバム『Golden Hour』をSMEレコーズより発表。2021年9月22日には約1年ぶりとなる3rd EP『BEHIND EVERY SMILE』リリース。フルオーケストラとの競演によるビルボードクラッシックスコンサート、弾き語りワンマンツアー〈ONE MAN STAND〉、バンドツアー〈INTO THE NIGHT〉と多様なスタイルでのライブ活動を行っている。

PROFILE: 宮本貴奈
国際的に活躍するピアニスト・ボーカリスト・作編曲家。茨城県結城市出身、米英に20年在住。物語が見えるような演奏とアレンジ、演者が輝くサウンド作りで、ジャズ、ポップスから、弾き語り、オーケストラ編曲、劇版音楽作曲まで、ジャンルを超えて幅広く活躍中。5歳からエレクトーンを始め、小学生の時に観た映画の音楽に心打たれ、作曲家を志す。中学からピアノとジャズ理論を学び、米バークリー音楽大学の映画音楽科&ジャズ作曲科卒。在学中にボストンでジャズピアニスト活動を開始、1998年、NYへ拠点を移し、エドマンジャズピアノ大会で全米優勝。グラミー賞候補歌手のニーナ・フリーロンのワールドツアーに5年間参加、参加作『Soulcall』は、2001年米グラミー賞2部門でノミネート。1997年、アトランタに移り、ジョージア州立大ジャズ教育学部修士課程卒。〈アトランタベストジャズ(2年連続)〉〈ジョージア州で最も影響力のある女性〉他受賞多数。グラミー受賞サックス奏者カーク・ウェイラムとの共作『Promises Made』は、全米ビルボードジャズ5位。約30カ国で演奏活動を展開後、英国を経て2013年に帰国、『On My Way』で日本デビュー。実力派シンガーからの信頼も厚く、八神純子、佐藤竹善、サラ・オレイン、May J.、絢香、大黒摩季、TOKU、伊藤君子他のサポート・アレンジ・プロデュースの他、SUGIZO、Drum Tao等とのジャンルを超えた共演やレコーディング、岩崎宏美、タケカワユキヒデ、今井美樹、新妻聖子他のオーケストラアレンジも手がける。Snoopy 70周年オーケストラコンサートでは、城田優をゲストに迎え、ピアノ・編曲・音楽監修を担当。小沼ようすけとの〈ダブル・レインボー〉、中西圭三、狩野泰一との〈WA_OTO〉、〈G.G.〉等コラボ他、作曲家としてはNHK「日本の話芸」、映画「種まく旅人」「マーチング〜明日へ」他、TV・映画の音楽も担当。国立音大ジャズ専修講師、地元茨城県結城市の紬大使。各地のコンサートやフェスティバル・イベントのプログラムプロデュース・監修も担当。2020年、国内二作目となる『Woderful World』発表。佐藤竹善ほか様々なゲストとコラボし、弾き語りも初収録した意欲作で、第33回ミュージックペンクラブ音楽賞の全ポピュラー部門にて〈最優秀作品賞〉を受賞。今年6月、ブルーノート東京にて、アルバム参加ゲスト達を迎えた受賞記念ライブを成功裡におさめた。

PROFILE: 京都フィルハーモニー室内合奏団
1972年に結成。2022年度に創立50周年を迎える。一人一人がソリストの個性派揃いのプロの合奏団。定期公演、特別公演、室内楽コンサート、子供のためのクラシック入門コンサート等を主催すると同時に、各地ホール・教育委員会・鑑賞団体・テレビ・ラジオ・芸術祭等に多数出演している。〈クオリティは高く、ステージは楽しく〉というポリシーを持った京フィルは、クラシック音楽の他に様々なジャンルの音楽もセンスある編曲を施して演奏し、多くの聴衆を魅了している。国内外の演奏家や指揮者と共演する一方、狂言、文楽人形、津軽三味線、尺八等の日本の伝統芸能とのコラボレーションや、俳優、タレント、落語家、漫才師等の異分野との共演も積極的におこない、〈挑戦する室内オーケストラ〉と大好評を博している。また創立以来、活動の柱としている学校音楽観賞会では延べ3,000校、190万人以上の子どもたちに楽しい音楽を届け続けている。京都市のパートナーシップ事業とタイアップするなど、積極的に聴衆の育成拡大に力を注いでいる。
平成2年度藤堂音楽賞受賞
平成14年度京都新聞大賞文化学術賞受賞
平成27年度第3回ウィーン・フィル&サントリー音楽復興祈念賞受賞
平成28年度佐川吉男音楽賞奨励賞受賞/社団法人日本オーケストラ連盟準会員