このRemayというシンガーソングライターのことは、実はこのインタビューをすることになるまで全く知らなかったのだが、こんな秘宝のようなアーティストが眠っていたとは!と驚きと感動を隠せない。室内楽アンサンブルとDTMをうまく使いこなしながらゴスペルやソウルミュージックに日本語でアプローチしているかのような……というべきか。あるいは、高野寛やKIRINJI、あるいは小田和正あたりを思い出す人もいるだろうか。筆者はルーファス・ウェインライトを真っ先に思い出したが、本人はサム・スミスに影響をされているようで……なんにせよ、先行曲“かかえてきた”“光る魚”を含むファーストアルバム『夕暮れ』(デジタルリリース)は新人離れしたスキルと感性に基づいて作られた1枚だ。でも、いくつものルーツ、指向、手法、アングル、過程がクロスしながらも、整然と〈ポップス〉としか言いようのない潔さもある。

プロデューサーの山本哲也(鈴木惣一朗によるワールドスタンダードの一員としてシンセサイザー/サウンドエフェクトを担当している他、aikoや西野カナらのマニュピレーターとしても活躍)としっかりタッグを組んで制作。いくつものアイデアを出し合い、山梨のログハウスで泊まり込んで完成させていったというクラフツマンシップの高さを実感できる作品でありながらも、圧倒的な歌の磁力に引っ張られていく。

Remayというのは本名の名の部分を音読みさせたものだそうだが、何も知らずに字面だけ見ると女性のようにも思えるし、一人なのかユニットなのかもわからないだろう。実際に、ファルセットと素の声をうまく組み合わせた曲からは、性差を超えた一人のパフォーマーとしての意志の強さを感じることができる。と同時に、歌唱力、表現力の豊かさ、力量に溺れない、そんな自分をもどこかで冷静にコントロールして動かすプロデューサー的目線も持ち合わせているところが面白い。

ちゃんとしたインタビュー自体これが初めてだそうだが、全くそうとは思えない、丁寧に自分を分析する落ち着いたムードの青年だった。

Remay 『夕暮れ』 フォーライフ(2023)

 

バンドを離れ室内楽的編成へ

──去年の〈FM802 MINAMI WHEEL〉の出演が初めてのライブだったそうですね。

「はい、そうなんです。高校の学園祭みたいなのに出たことはあるんですけど、ちゃんと活動し始めてから自分の曲でライブをやるっていうのは初めてでした」

──〈MINAMI WHEEL〉でのパフォーマンスは弾き語りだったんですか。

「いえ、バンドでした。ピアノとチェロと女性のコーラスの方に入っていただいた4人編成で。(今回のアルバムを手がけた)プロデューサーの山本哲也さんのアイデアで弦(楽器)を入れようと」

──変則的な編成ですよね。クラシックとゴスペルを合わせたような。少しルーファス・ウェインライトを思い出しました。

「そうですね、ルーファスもそうですし、サム・スミスがすごく好きで。サム・スミスって、ピアノ、ベースにチェロが入ったりとか、あとチェロとバイオリンだけの編成だったりとか、僕もそういう編成をいつかやってみたいなとは思っていたんです。ただ、壮大なオーケストラと一緒に……というのも興味あるんですけど、室内楽的な魅力もいいなあと。

あと、僕は楽譜が書けないというのもあって、もう少し少人数編成でやってみたいという気持ちになっていたんです。そしたら、山本さんも〈ドラムはいらないんじゃない?〉って話をしてくれて。そこから、〈音数もどんどん減らしていこう〉ってことになったんです。だから今回のアルバムもその流れの上にある編成、音作りなんですよ。実際、〈そんなに広くない部屋でやってる〉というイメージが出るといいかなと思いながら制作したんです」

──言い方を変えると、ロックバンドのベーシックなフォルムから離れたところでポップスをやろうとしているような。1曲目など、いきなり賛美歌のような曲ですよね。

「(少し考えて)……今、そう言われてなるほどそうかもしれないと思いました。元々、自分はバンド編成の日本の音楽から聴き始めたんです。だから、今も自分で曲を作って自分でアレンジしてる段階では、どうしてもバンド編成っぽくなっていっちゃう。そこから自由に離れていくということを今やっているのかもしれないです。

わざわざドラムを絶対に入れなきゃいけないこともないし、ギターもなくていい曲っていうのがある。実際、今回のアルバムを作り始めるちょっと前ぐらいにそれになんとなく気づいて、ピアノとストリングスの編成と歌だけでも面白くなるんじゃないかと思うようになって……うん、ちょうどその試行錯誤の中で、バンド編成から離れたタイミングだったのかもしれないです。

もちろん、今でも斉藤和義さんのようなロックンロールも好きですし、いつかそういう音楽をやってみたいなと思ってたりもします。でも、今はこういう室内楽的な音作りに魅力を感じているんです」