©Janette Beckman

ヒューマニティを追い求めて完成させた悲喜こもごもの放浪記

 コロナ禍を経てターリが4年ぶりに放つ新作『Taali』は、パンデミック中に夫のホセ・ジェイムズと各国を放浪した旅の記録だという。道中の様子や心境がほぼ時系列で綴られ、以前発表した“Los Angels”との連続性も感じさせる。

 「ロックダウンされた2020年のNYから始まって、LAですべてを振り返って終わる。“Convoluted City”は生まれ故郷のマンハッタンを離れる戸惑い、“Anywhere”はアムステルダムで真実を見出した喜びの歌。“Sfinari”は2021年の夏に住んでいたギリシャで書き、ヨーロッパを旅して放浪癖がつくと状況が好転した喜びを“Made To Fly”で歌っています」

TAALI 『Taali』 Rainbow Blonde/コアポート(2023)

 アルバムは、弦楽四重奏による“Did We Die?”で始まり、“Did We Survive?”で締め括られる。

 「私とホセはCOVID-19で凄く体調が悪くなり、お互いに相手が死ぬかもしれないと思った日が何日かあった。それを振り返ったのが“Did We Die?”。“Did We Survive?”では唯一COVID-19に直接言及していますが、歌詞を書きながら、ユダヤ教の伝統である議論の推奨に基づいて、〈質問〉ではなく〈回答〉をしたくなった。つまり、私たちは生き延びたのだと」

 今回の共同制作者も、ホセの右腕で「マッド・サイエンティストのような存在」というブライアン・ベンダー。ただし、自身のシンセを中心にした独演感の強い前作とは違い、今作ではブライアン(ギター)のほか、ベン・ウィリアムス(ベース)、ダスティン・カウフマン(ドラムス)らとバンド編成で録音され、隙間や残響を活かしたオーガニックなサウンドを奏でている。

 「気概や深み、生命力を求めていたのです。完璧ではない人間味のあるサウンドをキープすることに力を注ぎました。私が渇望していたのはヒューマニティなのです」

 演奏や歌唱においては、スフィアン・スティーヴンス『Carrie & Lowell』、フィオナ・アップル『Fetch The Bolt Cutters』、ベック『Morning Phase』からの影響が大きいという。

 「それらの作品にある親密さ、音楽的な深さや誠実さを表現したかった。ポール・サイモン、ジョニ・ミッチェル、レナード・コーエンも私の芸術性における拠り所です。音楽を通して人間の経験を探し求める姿勢に共鳴しています」

 「最も女性らしい作品になった」という新作は、国際女性月間(3月)に発表される。設立5周年を迎えたホセ主宰のレインボウ・ブロンドの社長にもなったターリの前進が感じられる一枚だ。