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覚悟が決まっちゃってる

――さっき私が言った〈振り切れた人のかっこよさ〉って、言葉を変えると〈どうせ死ぬから好きにふざけて生きようぜ〉と本気で思えている人の強さ、とも言えると思っているんですね。

「〈最後に音楽をやってみよう〉って、覚悟を決めてやってるというよりは、覚悟が決まっちゃってる状態でずっとやっているんですよね。だから別に、何を言われても大丈夫だし、自分たちが好きなものや納得したものをやって失敗したとしても、〈それはそれだし〉と思えるところがある。自分たちがやりたいことをやろう、ということはすごく思います」

――資本主義社会における人生の〈成功〉〈失敗〉の基準にとらわれなくたっていいじゃん、どうせ死ぬんだから何でもやってやるよ、みたいなマインドをカメレオン・ライム・ウーピーパイからは感じるんですよね。

「そうなんですよね。その考え方をするとめちゃめちゃ楽になる。今ギリギリの状態にいる人は最悪、その考えで生きてほしいなと思っちゃいます。本当に最悪の状態になったときって、どうにでも転んじゃうじゃないですか。私も以前はギリギリな感じだったので。

〈(他人を)救いたい〉みたいなことをそこまで思ってはいないんですけど、自分が自分の曲を聴いて〈あ、このときにこう思っていたからもうちょっとやってみるか〉と思うように、自分の曲が誰かを救えていたら、それはそれでいいなと思います」

――ギリギリのところからそのエネルギーを持って生き返して輝いているChi-さんを見て、救われる人は絶対にいるだろうなと思います。

 

みんなで踊りたい

――2曲目“Stand Out Chameleon”は、環境に応じて色を変える〈カメレオン〉と〈Stand Out=目立つ〉という相反する言葉をつなげているのがカメレオン・ライム・ウーピーパイらしい表現だなと思いつつ、それぞれの環境でカメレオンのように生きている人たちに呼びかけてくれるような楽曲だなとも思いました。

「これはライブで踊れる曲を作りたいという話から作り始めました。みんなにこの曲で見つけてもらって、みんなで踊りたいなと思って。〈もーいーよー いーよー〉というのはネガティブな意味じゃなくて、みんなに〈集まれ!〉と呼びかけているような曲ですね」

『Orange』収録曲“Stand Out Chameleon”

――最新曲“Burn Out”は、どういう曲を作ろうと思って作り始めたものですか。

「全曲通して言っていることは同じなんですけど、“Burn Out”は特に、自暴自棄みたいなところから〈どーでもいーからやろう/どーなってもいーここからいこう〉となるのを、ちょっと明るい感じに表現できたというか。ネガティブとポジティブのバランスでいえば、ポジティブがちょっと多めの割合になった曲ですね」

――今年に入ってリリースしている楽曲はポジティブ成分が多くなっていることを感じたりもしたんですけど、それは意識的にそういった曲作りをしているのか、それともChi-さんの変化が自然と出ているのか、どちらだと思いますか。

「どうなんだろうなあ。何にも変わってないんですけど、今は踊れる曲や明るい曲が自分たちの中でちょっとキテるというか。コロナが落ち着いてライブをする機会が増えてきたので、みんなで踊りたいなという気持ちがすごくあって、だから曲調も踊れるものが増えてきたのかな」

 

幸せになるのが怖い

――アルバムでいうと5曲目“Burn Out”のあとは、ファーストシングル“Dear Idiot”、サードシングル“Dislike”と続く中で、初期の頃は選ぶ言葉がもうちょっとネガティブというか、ダークさが滲み出ているというふうに思ったんですけど。

「ああ、そうですね。それはあるかもしれないですね。言っていることは同じなんですけど、初期の頃は剥き出しな感じがある。〈誰も私たちの曲なんて聴いてないし〉みたいなマインドがあったので、それがツンツンした感じになって出ちゃっていたなと思いますね。すごいキレてるなあとか思うし。最初の頃は心もトゲトゲしていた感じがして、今より、なんというか……偏屈野郎だったんだろうなと思います(笑)。

“Dear Idiot”とか、すごく暗いんですけど、でもちょっと希望を持ってやってるみたいな感じ。でも大体同じような想いがずっとあるので、あんまり変わらないなとも思います」

『Orange』収録曲“Dear Idiot”

――絶望や怒りの矛先も、ずっと変わらないものですか。

「ムカついてる矛先はどんどん変わっているんですけど、一生どこかにムカついて生きているなと思っていて。それがなかったら音楽はできないですね。それをエネルギーに曲を書いて生きています。本当に、ずっとモヤモヤしてる感じはあって、多分一生そうなんだろうなと思う。

でもモヤモヤしてる感じが自分の中で心地いいから、ずっとモヤモヤの中にいるんじゃないかなっていうことを最近思い始めました」

――それは、Chi-さんにとってどういう心地よさなんでしょうね。

「今カメレオン・ライム・ウーピーパイの周りが前よりいい環境になってきていて、海外の大きいフェスを主催してる方から声がかかったり。

でも結構……幸せになるのが怖いというか。〈そのあと絶対によくないことが起きるな〉という気持ちもあるんです。だから〈受け入れてもらったな〉と思ったときにビビってる感じを、〈いや、でもどうせあれだしな〉とあえてネガティブな方へ持っていって自分を安心させる、みたいな。そこが自分にとって心地いいんだろうなと思って。嫌なこととかがあって〈なんだよ〉って言ってるときの方が自分っぽいというか、居心地はいいのかなって最近思います」

――絶望、怒りとか、世間で〈ネガティブ〉と呼ばれるような感情を、Chi-さんの場合はバネにして生命力や音楽そのものを生み出しているから、〈よし、またここにもバネがあったぞ!〉みたいな感覚になれるのかな。

「そうですね(笑)。嫌なことがなくなるのも怖いなってちょっと思って。でもなんやかんや嫌なことはいっぱいあるので、一生そんな感じかなって思います」