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揺るぎない結束

 その『Tomorrow Never Comes』はアルバムのリリースに先駆け、4月18日にMVを公開したアルバム表題曲でスタートする。70年代のUKパンクをバックボーンに持つランシドらしい直球のパンク・ロックは、代わる代わるリード・ヴォーカルを取るティム・アームストロング(ヴォーカル/ギター)、ラーズ・フレデリクセン(ギター/ヴォーカル)、マット・フリーマン(ベース/ヴォーカル)が一斉に声を上げるサビのシンガロングも聴きどころだ。演奏の屋台骨を支えるのは、ランシドが持つ幅広いバックグラウンドの集大成を思わせた2009年の『Let The Dominoes Fall』から参加しているブランデン・スタインエッカート(ドラムス/ボーカル)。スクリーモ・バンドであるユーズドのドラマーだったという前歴を持つブランデンの加入は当時ちょっと意外にも思えたものだが、すでに4作目。そのタイトなプレイは、彼がバンドにすっかり馴染んでいることを思わせる。

 そんな“Tomorrow Never Comes”のサウンドはもちろん、生粋のパンク・ロッカーらしいニヒルで、シニカルな視点から、コロナ禍以降の社会の在りようをディストピアとして描いた歌詞の世界観も、アルバムの作風を象徴しているのだろう。

 続く“Mud, Blood, & Gold”は80年代のUKハードコアの影響を思わせる1分強のショート・チューン。ラーズが刻むメタリックなリフもかっこいい。そこからアメリカン・ルーツ・ミュージックもバックグラウンドに持つランシドらしい、フォーク・パンクの“Devil In Disguise”、カウパンクなんて言葉も思い浮かぶ“New American”と畳み掛ける。原点回帰のパンク・ロックを鳴らしても一本調子にならないところがランシドならではだ。

 フォーク・パンク調の5曲目“The Bloody & Violent History”には、リラックスした歌声に30余年の活動歴を持つヴェテランらしい円熟が滲む。そこから、わずか58秒のハードコア・ナンバー“Don’t Make Me Do It”、フォーク・パンクの“It’s A Road To Righteousness”、シンガロング・コーラスがOiパンクの影響を思わせる70sパンク調の“Live Forever”と繋げ、このアルバムが持つ振り幅を今一度アピールしたところでラーズがメロディアスなリード・ギターを閃かせる哀愁のメロディック・パンク・ナンバー“Drop Dead Inn”は、曲調のみならず歌詞でも泣かせにかかる。〈俺はきっと乗り越えられるから おまえら3人と一緒に 俺たちはみんな輝ける まあ見てろよ〉というパンチラインは、血腥い言葉が躍る今回のアルバムの中では異色にも思えるが、コロナ禍を経て、バンドの結束がさらに揺るぎないものになったことが窺えるようだ。