鈴木慶一、松尾清憲による〈モダン・ポップ黄金狂時代〉
噂の新顔〈鈴木マツヲ〉がベールを脱ぐ。誤植ではない。鈴木慶一と松尾清憲が結成したユニットのれっきとした名前である。松尾が〈シネマ〉でデビューを果たした際、プロデュースを務めたのが誰あろう鈴木その人だった、というように古い付き合いの両者だが、ガッツリイチから音楽制作を行うのは今回が初めて。
「音楽をやれなくなる日が来る前に成し遂げたいことのひとつが松尾くんとのユニット計画だった。ありそうでなかった組み合わせだよね」と微笑む慶一氏だが、カラフルでロマンティックな彼らの初作『ONE HIT WONDER』は聴き手を笑顔にせずにはおかない魅力に溢れている。
鈴木マツヲの〈モダン·ポップ黄金狂時代〉と呼びたい本作は、曲作りや演奏など楽曲制作の大半をゲストなしで遂行。その過程がめっぽう楽しかったであろうことは、弾けんばかりの歌や夢心地を誘うハーモニーなどから窺い知れる。脱力感を誘うユニット名(発案者は慶一さん)に反し、両者が持ち寄った真新しい楽曲は溌溂とした表情をしており、どこか王道感を色濃く漂わせているのも印象的だ。
「王道と言われると恥ずかしいものがある(笑)。でも無意識にポップなものを追求したところ、予期せぬ化学反応が起きたのだとすれば面白いですね」(松尾)
「ねじれた者同士が合体したらねじれにねじれて、結果的に真っすぐなってしまったとか。自虐的なタイトルを掲げて走り出したのに、王道に向かってしまったなんて不思議なもんだ。サウンドの方向性は〈一発屋〉から連想するイメージを拾いながら組み立てていった。ヒット曲ひとつで泡沫のごとく消えていったあの刹那的で感傷的な感じを意識した」(鈴木)
英米問わず60s~アーリー70sにヒットした洋楽に対するオマージュが随所に張り巡らされているが、当時ラジオから流れてきた日本版ヒットチャート、というフィルターを通して互いの記憶を掘り下げながら類似性や共通項を探るプロセスがコラボに豊かな閃きをもたらしたと思われる。
「去年ムーンライダーズでどのジャンルにも属さないアルバムを作った反動でポップに振り戻された感覚がある。松尾くんが持つポップ度に見合う曲を作ろうと臨んだ」と語る慶一氏。「ひとりじゃ絶対にできない意外性のある作品。自分でも珍しく聴き返したくなるぐらい良い」と自信をのぞかせる松尾氏だが、両者のユーモアセンスやマニアックな趣味性が固く結びつき、風通しの良い音世界が完成した点こそ感動的だ。