
名義を突如〈想像力の血〉に変え、初のソロアルバム『物語を終わりにしよう』を2025年4月16日に配信リリースした音楽家・佐藤優介。彼がこれまでに最も大きな影響を受け、数年前から鍵盤奏者としてサポートで参加もしているのがムーンライダーズだ。そのムーンライダーズの鈴木慶一は本作の“Quaggi”にボーカルで参加しており、4月23日(水)に開催される東京・表参道WALL&WALLでのライブにも参加する。そこで今回、鈴木にアルバム全曲を聴いてもらい、想像力の血 × 鈴木慶一の対談が実現した。進行は、ムーンライダーズに欠かせない音楽評論家の小暮秀夫が務めた。
想像力の血が1人で鳴らす多様性
佐藤優介「自分にとって、慶一さんの影響っていうのはやっぱりすごく大きくて……慶一さん自身の音楽はもちろん、慶一さんから教えてもらった音楽もたくさんあるので。ヴァン・ダイク・パークスだったり、ピーター・ガブリエルもそうだし……」
鈴木慶一「今回のアルバム、いろんな音がちょっとずつ出てくる感じは、ヴァン・ダイク・パークス的だね。『Song Cycle』の」
佐藤「『Song Cycle』、大好きです。何回聴いても聴いた気がしないっていうか……。
言われてみれば確かに、ちょっとずついろんなものが聞こえてくるっていう、そういう音の使い方が好きなのかもしれないです。異物を紛れ込ませるみたいな……それで異物まみれになっちゃうときもあるんですけど」
鈴木「ふつう、異物だらけだと、逆に平坦になってくるんだけど、そこがうまくできてる。異物の取り扱いが。想像力の血は」
佐藤「ああ、異物的な、過激な音がずっと並んでると、かえって単調に聞こえちゃうんですよね」
鈴木「そういう異物的なアレンジの仕方が洗練されてると思う。1曲1曲でもまた全然違うし」
佐藤「ありがとうございます。でもその、1曲ごとに違うものが出てくるっていうのは、やっぱりムーンライダーズの影響が大きいんだと思います。ライダーズは、メンバー6人全員が曲を作るから、6人の世界が1枚のアルバムに混ざり合っていて……こんな形で成り立ってきたバンドは他にないと思います」
鈴木「それはそれで大変なんだよ(笑)。6つの個性が目標を達成するのはね」
佐藤「バンドって、だいたい作曲におけるリーダーみたいな人がいて、ワントップになりがちですけど、ライダーズは本当にメンバーそれぞれ代表曲があって。多様性っていわれるよりもずっと前から、すごく自然に多様性を実現してきたバンドだと思うんです」
鈴木「ともすると、どんどんバラバラになっていっちゃうんで、それをバンドとしてまとめる作業が必要なんだけどね。最初のデモなんか本当にバラバラだから」
佐藤「それが完成すると、見事にムーンライダーズの音になっていて……」
鈴木「でも、優介くんはそういう作業を1人でやってるんでしょう(笑)」
佐藤「1人だから、逆に無責任に何でもできちゃう、っていうのはあるかもしれません。もし自分がバンドで、対等な関係のメンバーがもう何人かいたら、多分こういう風にはできていない気がします」
鈴木「でも、1人であの多様性っていうのは、やっぱり本人自身が超多様な人なんだよ」
佐藤「どうなんでしょう……(笑)」