現在公開中の映画「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」をご覧になっただろうか? ティモシー・シャラメが演じた若きボブ・ディランは〈まだ何者でもなかった青年〉から瞬く間に〈次世代のフォークを担う新星〉へと変化していく。正真正銘のスターとなったディランだが、周囲の期待やメインストリームには背を向け、2025年の現在にいたるまで自らを更新し続けている。

そんなディランのように、デビューから半世紀以上にわたり自身の表現を追求し続けているのが、あがた森魚だ。このたび、彼がソロ名義では初となるビルボードライブ公演を2025年4月27日(日)に開催する。しかも、今回はあがたの音楽キャリアにおける最重要人物といっても過言ではない、鈴木慶一をスペシャルゲストに迎えた特別なステージが繰り広げられるという。

1972年のデビューからまもなく53年を迎えるあがた森魚の原点は、先に述べたボブ・ディランの存在とその音楽にある。“Like A Rolling Stone”を聴いて衝撃を受けたあがたは、数年後に鈴木慶一と出会い、はちみつぱいが生まれた。彼らの周囲にはのちにニューミュージックと称されるシーンで活躍する面々が集まり、そうした人との巡り合わせなどを経てあがたはシングル“赤色エレジー”でメジャーデビューを果たす。

“赤色エレジー”は〈四畳半フォーク〉を体現する代表的な楽曲だが、バックの演奏は鈴木らはちみつぱいが担当しており、単にフォークとカテゴライズするにはオルタナティブな音の鳴りをしているように思う。林静一の同名漫画を題材とした曲であり、男女の同棲生活でのやりとりが歌われてはいるものの、その世界観は四畳半になど収まることなく多くのリスナーを刺激した。

以降のあがたはディラン同様、自身の人気や地位にとらわれることなく、音楽性も活動形態も変化させていく。時代がニューウェイブに染まればヴァージンVSとして活動し、それまでのいわゆるフォーク的なスタイルからは距離を置き、テクノビートの上でポップスに寄った歌唱を披露してみせた。

2ndアルバム『STAR☆CRAZY』(1982年)においては、サウンド面ではクラフトワーク色が強まるも、“日本SFジェネレーション”をはじめパンキッシュなボーカルを聴くことができる。続く3作目の『乗物デラックス』もXTCが乗り移ったかのようなニューウェイブサウンドが特徴で、個人的に大好きなアルバムだ。

ヴァージンVS 『ゴールデン☆ベスト ヴァージンVS』 ユニバーサル(2006)

1990年代には武川雅寛(ムーンライダーズ)、OTO(元じゃがたら)らと結成した雷蔵でワールドミュージックに接近するなど、好奇心や探究心という言葉だけでは説明できない、表現者としての衝動に身を任せたキャリアはまさに唯一無二。ジャンルやスタイルを超越した、もはや天衣無縫な領域に足を踏み入れたかのようなあがた森魚の音楽は、『遠州灘2023』(2023年)や『オリオンの森』(2024年)といった近作でも独自の輝きを放っている。

あがた森魚 『デラックス雷蔵』 SUPER FUJI(2022)

あがた森魚 『遠州灘2023』 Qpola Purple Hz(2023)

あがた森魚 『オリオンの森』 Qpola Purple Hz(2024)

あがたは、つい先日に壊れかけのテープレコーダーズを率いて〈シングス・ボブ・ディラン -The 1966 Royal Albert Hall Concert-〉と題したエポックメイキングなライブを開催したばかり(時期を同じくしてキャット・パワーも来日公演で〈Sings Dylan: The 1966 Royal Albert Hall Concert〉を開催)。そんな初めてディランをステージで歌ったあがたが、盟友の鈴木慶一を迎えて行う一日限りのビルボードライブ公演……さて、どの曲がどのようなアレンジで披露されるのか。その答えは、当日会場に足を運んだ人にしかわからない。

 


LIVE INFORMATION
あがた森魚
Special Guest:鈴木慶一

2025年4月27日(日)ビルボードライブ東京
1stステージ
開場/開演:14:00/15:00
2ndステージ
開場/開演:17:00/18:00
https://www.billboard-live.com/tokyo/show?event_id=ev-20420

■チケット料金 ※飲食代金別
DXシート DUO:22,400円(ペア販売)
DUOシート:21,300円(ペア販売)
DXシート カウンター:11,200円
S指定席:10,100円
R指定席:9,000円
カジュアル:8,500円(1ドリンク付)

※本公演はClub BBL会員、および一般販売をWEB受付のみ実施いたします
※法人会員は電話にてご予約承ります

■メンバー
あがた森魚(ボーカル)
菊池琢己(ギター)
東谷健司(コントラバス)
青木菜穂子(ピアノ)
南條レオ(パーカッション)
駒沢裕城(ペダルスティールギター)

■スペシャルゲスト
鈴木慶一