日本のロック・シーンのレジェンドによるユニットが、結成30年目にして初めてのオリジナル作をリリース! 厚い友情で新境地を切り開く。
頭脳警察のPANTAとムーンライダーズの鈴木慶一が93年に結成したユニット、P.K.O。これまではカヴァー曲中心のライヴ・アルバム 『P.K.O LIVE IN JAPAN』(06年)を発表したのみだったが、6月に発売予定の新作アルバムは、結成以来、30年目にして初めてのオリジナル作品だ。鈴木がPANTA & HALのアルバム 『マラッカ』(79年)をプロデュースしたことで2人の交流が始まったが、そこから育まれた信頼関係、そして、それぞれが蓄積してきたキャリアが化学反応を起こして新しい世界を生み出している。リリースまでの経緯を2人に聞いた。
――ユニット結成から30年経って新作が発表される、というのも驚きですが、何かきっかけになるようなことがあったのでしょうか。
PANTA「2022年の春頃に慶一とご飯を食べたんだよ。しばらく俺が病気で活動を休止していて、明日はどうなるのかわからない状況だから会っておこうということになってね」
鈴木慶一「その別れぎわに〈なんか作ろうよ〉って言った。それは言いたくなるよ。それで“クリスマスの後も”という曲をPANTAに送った。ムーンライダーズ用に作ったんだけど、あまりにも可愛らしくてメンバーが唖然とした曲(笑)」
――〈ずっと一緒にいようね〉とか歌ってますもんね(笑)。
慶一「PANTAに歌ってもらったらすごく合うんじゃないかと思ったんだよ。そして、それを聴いたら、みんな驚くんじゃなかって。でも、送ってから返信が来ない。その後も3曲くらい送ったけど全然返事がないんだよ」
PANTA「俺はずっとクリスマスに〈クリスチャンじゃないヤツが騒ぐんじゃねえ!〉っていうコンサートをやってきた。そんな俺にクリスマス・ソングが届いたんだよ。慶一は何をしたいんだろう?と思った。俺をプロデュースしたいのか、一緒に何かをやりたいのか。でも、それを直接聞くのはヤボだからあれこれ考えていたら、慶一から〈とりあえず会って話そう〉って」
慶一「返事が来ないから会ったほうが早いと思ったんだよ。それで私の家の小さなスタジオに来てもらった。そして、改めて曲を聴いてもらったら〈いいね〉って言うんで、じゃあ、キーを決めようって、その場でギターを弾きだした」
PANTA「そうこうしているうちに、自分が何をやったら良いのかがだんだん見えて来たんだよ。歌詞がついていたのは“クリスマスの後も”だけで、慶一に〈歌詞を書いてよ〉って言われて他の曲の歌詞は俺が書いて歌うことになった」
――2人の役割分担が決まったわけですね。
PANTA「そう。ブリルビルディング方式で完全分業になった。嬉しかったね、そうやって完全に分けた方が、相手に遠慮せずに創作できるから。そして、最初に聞いた“クリスマスの後も”の温度感に触発されて、歌詞を書く時にこれまで自分の曲にはなかったような言葉が出てきた。〈縁側〉とか〈アメンボ〉とか」
慶一「〈君が好きだ〉なんて言葉がPANTAから出てくるとは思わなかったな」
PANTA「“あの日に帰らない”っていう曲でね。あの曲はイントロがすべて。12弦のギターでティンパニがドコドン!ときたら、ああいう歌詞になる(笑)。もろ、ライチャス・ブラザーズの“ふられた気持ち”だから。自分の感性とか価値観じゃなく、あのイントロから生まれた歌詞なんです」
――歌い方が印象的で、歌い上げているわけではないけどエモーショナルで味わい深いですね。
PANTA「ちょうど胸を患っていた時だから、力がいい感じに抜けてるんだよね。慶一はそれを頭に入れて曲を作っていたみたいだけど」
慶一「今回はシャウトするのはやめようと思っていた。それがPANTAの体調とマッチしたんだよ。歌入れはソファーに座ってもらって、そこにマイクを立てて歌ってもらった。そうすることで歌に行間が出てくる」
PANTA「俺、朗々と歌う奴って好きじゃないからね。歌のうまさを強調する奴って歌が客席まで届かない。ヘタでもいいから客席に飛んでくる歌がいい。“クリスマスの後も”と“あの日に帰らない”に通じるのは、2人の間には固い絆があって、〈一緒にいれたらいいのに〉という気持ちが伝わってくることだな」
――“クリスマスの後も”を聞くと、慶一さんからPANTAさんにあてたメッセージのようにも聞こえますね。
慶一「まあ、それもあるけどね」
PANTA「だからBLの世界でもあるわけ。ジジイだから〈B(Boy)〉ではなくGLだな(笑)」