2023年6月現在、早くも〈今年を代表する楽曲〉と称して差し支えないであろうYOASOBI“アイドル”。現在放送中のアニメ「【推しの子】」との相乗効果はもちろん、楽曲そのもののインパクトに日本だけでなく世界までもが注目している。6月21日(水)にはCDパッケージとしてリリースされる“アイドル”が、なぜこれほどまでに話題を生み続けるのか。ライターのs.h.i.に紐解いてもらった。 *Mikiki編集部
“アイドル”が内包する音楽的な文脈
YOASOBI“アイドル”が大きな話題を呼んでいる。同曲のMVは4月13日の公開から35日間でYouTube再生数1億回を突破、海外からの反響をうけて5月26日には英語版もリリース。6月10日付のBillboard Global Excl. U.S.(世界200以上の地域のダウンロードとストリーミングデータの集計からアメリカを除いたチャート)では、日本語で歌唱された楽曲として初の1位を獲得している。
こうしたヒットは、“アイドル”がオープニング主題歌となっているアニメ「【推しの子】」の公開戦略およびクオリティの高さ、そしてYOASOBI自身の優れたSNS運用によるところも大きく、現役のアイドルも多数参加している踊ってみた/歌ってみた動画など、周囲の盛り上がりも貢献しているだろう。その一方で、ラップ部分の出来(フロウや韻の踏み方の是非)については一部議論が起こるなど、音楽面に関しても様々な角度から注目が集まっている。
そこで本稿では、以上のことに関連して、“アイドル”という楽曲が内包する文脈の多さと、それを自然な印象にまとめるボーカルの見事さについて述べていきたい。
まず、“アイドル”が内包する音楽的な文脈について。イントロはガールクラッシュ的なK-Pop(BLACKPINKやaespaなど)に通じる勇壮な展開だが、それに続く荘厳なオーケストレーション(0:14〜)は、ももいろクローバーZ“猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」”(2012年)や、Linked Horizon“紅蓮の弓矢”(2013年)のようなメタル寄りのアニソンを想起させる。これに連なる歌パートでは、PPPH(0:40〜)を入れるなどして日本の伝統的なアイドルソングの系譜にあることを示しつつ、サビ(中国風の音階はYMOの“RYDEEN”にも通じる)ではボカロ的な進行から中田ヤスタカが手掛ける楽曲(Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅなど)を想起させる展開に変化。
一転してダークになる中間部(1:30〜)は、Ayaseいわくサウンドメイクで参照したというゴーストメイン(GHOSTEMANE)にそのまま通じるトラップメタル的な曲調で、そこからサビを挟んで至るラップパート(2:05〜)は、作曲者のAyaseが言うとおりビートダウン~ハードコア的な味がある。つまり“アイドル”の目まぐるしい曲構成は、ハロー!プロジェクトやももクロなどが培ってきた多展開型アイドルソング(2010年代に広まった〈楽曲派〉的なもの)に連なるし、それらと並行して存在した相対性理論のようなバンドや〈電波ソング〉の系譜を匂わせるものでもある。