
振り返るとY2KのR&Bやネオソウルが鳴っていた
――“Mellow90’s”という曲が象徴的ですが、今Hanahさんがいる音楽のゾーンはやはりネオソウル以降のものなのでしょうか?
「私が若い頃に留学した先はカリフォルニア州サンディエゴだったんですけど、友だちとオープンカーに乗ってラジオを聴いていたら、ルーシー・パールの“Dance Tonight”(2000年)がかかったことがあったんですね。その時に、すごくピンときたんです。〈これが自分のやりたいことだ!〉って。
ふと振り返ると、TLCだったり、それこそエリカ・バドゥだったり、そういう音楽のことばかりを思い出すんです。99年頃、2000年になるかならないかの時期の作品に没頭していた思春期の感覚っていうのを、ふわっと思い出すことがあって。
それは今、自分が海の近くに住んでいることも関係していると思います。思春期の時に見ていた海の景色や匂いに、大人になってからまた向き合っているんです。流行り廃りと関係なく、自分の幹となる部分が何かと言われたら、そういう音楽なんでしょうね。もちろん、親の影響でジャズも大きいのですが」
――テクニカルな部分でもマインドの面でも、そういう解放感があったんですね。その充実感はありましたか?
「ありますね。制作においてディレクターやA&R的な方がいなくて、自由にものづくりをできることが人生で初めてだったんですね。それが、今回はすごくよかったのかなって。今まで抑圧されていた何かが解放されて、〈そんなもの知ーらない! 作りたいものを作ろう!〉という気持ちでやれたんです(笑)」
ジャズの精神でエリカ・バドゥをカバー
――今のお話に繋げると、エリカ・バドゥの“Apple Tree”をカバーした理由は?
「今回のカバーのビートはDJ HAZIMEさんが提供してくれたんですけど、そのビートがめちゃくちゃかっこよくて、〈これを活かせないかな〉とずっと思っていたんです。〈今の自分の感覚でこのビートに挑んだら何が出てくるか、チャレンジしたい〉というモードになったので、DJ HAZIMEさんに投げてもらった球を返したくなって。
しばらく考えて、この曲のカバーなら他の人と被らないし、カバーをする意味があるなと思ったんですよね。もちろん、自分がすごく傾倒していたエリカ・バドゥの音楽にも挑戦してみたかった。
歌詞もすごく好きなんですよね。哲学的というか、シニカルな部分があるのがかっこよくて」
――この歌詞は並大抵の英語力では理解できないでしょうし、歌うのも相当難しいですよね。
「はい。でも、やってみたら気に入ったものができちゃったので、みんながどう思うかは気にせず、自分が好きなものならいいやと思って(笑)」
――それはジャズの精神ですね。ジャズで演奏する曲って、基本的にカバーじゃないですか。
「そうなんですよ! 私の両親はジャズミュージシャンなので、〈お父さんとお母さんって曲は作らないの?〉と聞いたら、〈えっ、曲を作る……? こんなにたくさん素敵な曲が、世の中にすでにあるのに?〉と言われて(笑)。〈でも、それってカバーじゃない?〉と返したら、〈ええっ、カバーなの!?〉と驚いていましたね(笑)」
――ジャズの人は〈カバー〉とは言わないですからね(笑)。
「そうそう。原曲をいかに自分のやり方で、他人とちがう解釈でやれるかが重要ですから」
人生をもう一回生き直させてもらっている
――では、このアルバムを聴いてくれてる人に〈ここが伝わってほしい〉というポイントはありますか?
「ビジネス的なしがらみを度外視して、とまでは言わないですけど、初めてセルフプロデュースでアルバムを作り上げました。もうすぐ40歳にもなる大人がこうやって楽しくフリーランスで頑張っていること、好き勝手に生きているところを見てもらえたらいいなと思います(笑)」
――Hanahさんが、自分がやりたい音楽を自由にやっていると。
「はい。もちろんPヴァインさんにお手伝いしていただいてますが、制作は全部自分でやりきりました。音楽を一生懸命やっていたら友だちが応援してくれたし、今はありがたいことに音楽だけに没頭できている。何も持っていない私ですが、歌ばっかり歌っているんです。
けれど、楽しそうに生きている私を見て、〈こんな気楽なやつがいるなら、私も大丈夫だな〉と思ってもらえたら嬉しいですね(笑)。頑張っていいものを作っています」
――この創造から始まりそうなことは見つけられましたか?
「やっぱり、発信していれば新しい友だちができるんだなと思いましたね。たとえば、Instagramに曲をアップしていたら、Uyama Hirotoさんがそれに反応してくれたんです。grooveman Spotさんも、〈Hanahちゃん、僕と一緒にやってもらえませんか?〉とDMしてきてくれたり。そうやってものを作っていれば、楽しい出来事がまた起こるんじゃないかな」
――どんどん繋がっていく?
「うん。そうやってコツコツやっていたら、自分らしく生きていけるかなと思いました。メジャーで大人に言われて音楽を作っていた時代と比べると、今やっている音楽はライフワークや自分のアイデンティティとして自主的にやっているものだから、まったくちがう人生をもう一回生き直させてもらっている感じです」