BiSH解散の翌日に衝撃の復活――1年半ぶりのステージとなったシークレットライヴと再録アルバムから探る、アユニ・Dと新生PEDROのさすらひの行方

サプライズでの帰還

 「改めまして、PEDROです。お待たせしました、ただいま。待っててくれて本当にありがとうございます」――東京ドームの大舞台でBiSHを解散してから24時間も経たない6月30日の夜20時過ぎ、ベースを構えたアユニ・Dは新代田FEVERのステージに立ってこう挨拶をした。2021年12月22日の横浜アリーナ公演〈さすらひ〉を区切りに活動休止していたPEDROが、シークレットライヴ〈午睡から覚めたこどものように〉を開催していきなり帰還を果たしたのだ。

 もともと当日の昼過ぎには個人事務所となる株式会社浪漫惑星の設立が発表され、そうでなくてもBiSH解散の翌日にドキュメンタリー作品「LOVE FOR PEDRO」(昨年BD/DVD化)の後半部分がYouTubeで無料公開されることは前々から告知されていたわけで、察しのいい人なら何らかの予想はできたはずだが……ドキュメンタリー映像は終盤で田渕ひさ子(ギター)、ゆーまお(ドラムス)とスタジオ入りする2022年8月収録のカットを挿入し、そのままFEVERの舞台裏からの生配信に突如スイッチ。現地では横浜アリーナ公演のFC限定チケット購入者となる濃いファンたちが記念すべき瞬間を見守るなか、配信の視聴者はサプライズでその衝撃を受け止めることになったのだ。ちなみに、新代田FEVERはPEDROが2018年9月に初めてのライヴ〈happy jam jam psycho〉を開催した場所でもある。

 そもそもデビュー作『zoozoosea』(18年)のゲリラ販売で始まったPEDROは、アユニ・Dがベース/ヴォーカルを担当するソロ・プロジェクト。2019年に本格始動して以降はサポートに田渕と毛利匠太(ドラムス)を迎えたバンドとしてコンスタントに作品を重ね、2021年2月には日本武道館での単独公演も実現させている。同年には2本の全国ツアーを敢行し、12月22日の横浜アリーナ公演〈さすらひ〉をもって無期限活動休止に入るまでの期間を生き急ぐかのように駆け抜けてきたが、その休止直前に出したサード・アルバム『後日改めて伺います』ではアユニ自身がすべての作詞/作曲を手掛け、この先の表現の深まりを予見させてもいた。さらに休止直後の2021年末に配信された最後の一曲“さすらひ”は田渕がアレンジした温かい雰囲気の置き土産で、アユニの柔和な歌い口も含めて新しいPEDRO像を垣間見せていただけに、ドラマー交替を経て臨んだ今回の活動再開は、もちろんその続きを描いてくれるものでもあるのだ。

PEDRO 『後日改めて伺いました』 ユニバーサル(2023)

 ショートボブの印象が強いPEDROながら、長くなった髪が1年半の月日を物語る。そんなアユニが新生PEDROのオープニングに選んだのは“さすらひ”。当時はBiSHに帰るためにPEDROの日々を振り返るニュアンスが感じられたが、このタイミングで改めて聴くとBiSHを終えてPEDROに帰る彼女の心情も重なって響く一曲だ。同曲を終えた後の最初のMCで帰還の挨拶とファンへの感謝を述べたアユニは、「原点にして頂点」だと語る最愛の田渕と、新加入のゆーまおを改めて紹介。ゆーまおはヒトリエで活躍する気鋭のドラマーで、以前からwowaka(ヒトリエの創設メンバー)への敬意を表していたアユニだけに納得の人選だろう。この日も「暗い学生時代に救ってくれた音楽」としてヒトリエのことは語られたが、もっと言えばwowakaがNUMBER GIRLの影響を公言していたという繋がりもあるわけで、新たなトライアングルはアユニのルーツと現在を繋ぐ強力なラインナップになったと言える。そして、この3人で『後日改めて伺います』の全10曲+“さすらひ”を再録して収めた11曲入りのニュー・アルバム『後日改めて伺いました』のリリース、さらには同作を引っ提げた全国24公演を回るツアーの開催も同時に発表。つまり、秘密のライヴを共有する場内のファンにも大きな驚きが用意されていたというわけだ。