原点回帰の野音に立ってアユニ・Dが迎えた新しい夜明け――心の奥底に沈めてきた感情を飾らず剥き出しにした新作は、過去と現在の先にあるPEDROの未来を色鮮やかに広げていく!
立ちたかった舞台
「いまのアユニ・Dとしても、PEDROとしても、自分の歴史と現状を自覚して、現実と向き合って進んでいこうっていうテーマがあります。私は悩んでることや闘ってることが如実にライヴに出るので、今回もいまの自分を出せたらなと思うし、観てくれる人がそこから何かを受け取って、持って帰ってもらえたらいいなと思ってます」。
これは8月11日にPEDROで日比谷公園大音楽堂でのワンマン〈ちっぽけな夜明け〉を行ったアユニ・D(ヴォーカル/ベース)の、公演の数日前に行った取材での言葉。結果的に当日そこで何を受け取ったかは人それぞれだとして、田渕ひさ子(ギター)、ゆーまお(ドラムス)と3人だけで野音の舞台に立ったPEDROは、強靭に鍛え上げられたダイナミックな演奏と迫力を増した歌で最高のパフォーマンスを届けてくれた。〈いまの自分がライヴに出る〉という言葉をそのまま受け止めるなら、つまり現在のPEDROのコンディションはかつてなく良好だということで、それは本人も認めるところだった。
「やっぱり良いライヴ、良い音楽を作るために、自分の意思や意図をきちんと共有しないと伝わらないんだなって私自身が気付けて、特に4月からの〈LITTLE HEAVEN TOUR〉ではよりコミュニケーションを取るようになって。ひさ子さん、ゆーまおさんとも、一緒にライヴを作ってくれるスタッフさんとも、ライヴが終わったら打ち上げやって、その日の反省や〈もっとこうしたら良くなるよね〉という話を繰り返してきて、自分自身も心の扉を開けるようになったし、やっぱり一緒に必死こいて良いものを作ろうとしてる人たちとちゃんと話し合うのって、絆が深まるんだなって気付きました(笑)。いままでも〈バンドらしくなったね〉って言ってもらえることはあったんですけど、自分でもようやく胸を張ってその言葉が言えるようになったかなっていう感じです。それが表現にも出てるから、ライヴもどんどん良くなってるはずだし、それはお客さんにも伝わってるんじゃないかなって」。
PEDROとして改装前の野音では最初で最後のワンマンがこのタイミングで実現するという強運も、そんな現況が引き寄せたのかもしれない。本人も「〈そんなことあるんだ〉って震えました」というぐらい、直近でいきなり開催が決まったものだという。もちろんアユニにとっての野音は、BiSH加入2か月後の2016年10月8日に16歳で踏んだ最初の大舞台でもある。さらに、2019年8月18日には田渕が在籍するNUMBER GIRLの復活を見届けた場所でもあった。
「自分がこの仕事に就いてから初めての大舞台だったのもあって、当時は右も左もわからず、ついていくのに必死って感じで野音に立たせてもらいました。でも、野音に好きな人のライヴを観に行ったりもして、そもそもライヴというものをひとつ作り上げるのがどれだけ大変で熱量が要ることなのかもこの数年で気付けるようになってきたなかで、たまたま降りかかってきた試練の場所でもあるけど、でも立ちたいっていう気持ちが勝ってたので、決まった時はめちゃくちゃ嬉しかったです。〈夢に見てた舞台〉って言うと綺麗事すぎるかもしれないけど、いつかバンドとして自分も立ちたいなって思いを馳せていた場所でした」。