華々しい活躍の裏にある試行錯誤を経て自己表現の初心に立ち戻ったアユニ・D。変わらぬ自我と日々の進化を記録した『意地と光』は新しいPEDROの指針となる!

 再始動イヤーとなった2023年は再録作『後日改めて伺いました』を皮切りに、シングル“飛んでゆけ”、自身2度目の日本武道館公演に併せて届けたアルバム『赴くままに、胃の向くままに』まで、ベースを抱えて駆け抜けてきたアユニ・D。環境の変化に伴う心境の移ろいはその後のドキュメンタリー動画などでも明かされましたが、今年に入ってからは単独の〈慈〉とツーマンの〈浪漫乾杯会〉といったツアーを立て続けに開催。田渕ひさ子(ギター)、ゆーまお(ドラムス)と共にバンドの地力を逞しく磨き上げてきました。そして、9月からは25都市27会場というキャリア最長のツアー〈ラブ&ピースツアー〉もスタートするなか、およそ1年ぶりに届いた新作が『意地と光』です。同作はそれぞれ『』『意地』と題して3曲ずつ配信されたEPにリード曲“ラブリーベイビー”を加えた7曲入りのミニ・アルバム。アユニ・Dに話を訊きました。

PEDRO 『意地と光』 ユニバーサル(2024)

 

不安とワクワク

――改めて現在の視点から振り返ってみると、前作『赴くままに、胃の向くままに』はどういう作品でしたか?

「ちょっとおかしかった過去の自分の記録を残せて良かったなと思います。小っ恥ずかしさと反省もありますが……」

――おかしかったというのは?

「やっぱりそれまでBiSHというものの忙しなさに命懸けて挑んでたんで、そこから自立した時に、衣食住もそうですし、音楽面もそうですし、〈自分のやりたいこと全部やろうマインド〉になってしまって。あっちゃこっちゃで中途半端にエネルギーを放出しすぎて自分を見失ってた時期でした。そのなかで気が済むまで好き勝手にアルバムを作らせてもらって。で、それを経てまた初心に返って、やっぱり私の表現の仕方として音楽に敵うものはないな、ライヴがいちばん好きだなって改めて気付いて、音楽に執着して出来上がったのがこの新作ですね」

――ということは、今回はそれ以降のコンディションで作った曲が中心で?

「はい。ここ半年くらいで出来た曲たちなので、ピチピチの感じです」

――一方で、そういう最新の自分と過去の自分の記録を並べてライヴで披露するのはどういう心境なんでしょう。

「そこはまったく嫌じゃないですね。過去の自分がまったくいまの自分と違うかって言うと、そうではないし、他人から見ても自分でも変わったと思う部分はありつつ、根本はホント変わってなくって。それこそ、この間ファンイベントで赤窄さん(A&R)に〈根暗、負けず嫌い、ナルシスト〉って言われたんですけど、確かに私は小っちゃい頃からずっとそうで、どれだけ意識や考え方、物事との向き合い方が変わっても、その3つは常に自分の中にあるなと思って。開き直るではないですけど、やっぱりそれが自分の武器で、情熱の元でもあるし、どの作品にもその気持ちは乗っかっているので。それと、ライヴではPEDROの音楽を好きでいてくれて、おもしろがってくれてる方々にめいっぱい楽しんでもらいたいので、生の感情+エンターテイメントにしたいというか。その意味では曲の世界を精一杯表現するBiSHの時と近い感覚かもしれないです」

――そういう気持ちの移り変わりを経たのが『意地と光』ということですね。

「もともと4~5曲のEPを出す予定で、前回のツアーの時から曲自体は作っていて。制作してる過程で、自分のマインドやパフォーマンスへの向き合い方がどんどん変わっていったので、いまならもっと違う顔を持った曲も作れるんじゃないかとなって。追加で出来た曲たちも合わせてミニ・アルバムにしました」

――どういう作品にしたかったですか。

「自分の情緒不安定な部分をそのまま出して、情緒不安定なジェットコースターのような1つの作品にしたいなっていうのと。自分の感情が変わりゆくなかで時間かけて曲を作ってるので、その曲たちは全部違う顔に見えつつも、やっぱり根本は自分の情熱で出来ているし、その情熱がどこからくるのかといったら、自分の〈意地〉と〈光〉だなって。そういう、いまの自分の情熱が前面に出る作品にしたいと思って作りました」

――その〈意地〉と〈光〉という言葉は二面性みたいなものですか?

「〈意地〉は、劣等感や悔しさ、負けず嫌いな部分とか、どちらかと言うと自分の中のマイナスな感情で。〈光〉は自分なんかをおもしろがってくれる人たちへの感謝とか、その人たちをもっと楽しませるにはどうしたらいいんだろう、ワクワクっていう感覚ですね。うん、不安とワクワクで『意地と光』みたいな感じです」