帰ってきたPEDROが新体制で初めてのシングルを完成! 改めて自身の表現と丁寧に向き合ったアユニ・Dがいま伝えたい温度感、届けたい言葉とは?

 ……ということで、アユニ・Dは髪を切りました。田渕ひさ子(ギター)、ゆーまお(ドラムス)をサポートに迎えた形で新生し、同体制での再録アルバム『後日改めて伺いました』も発表したPEDROですが、それに続く再始動後の初シングル“飛んでゆけ”のMVでは、「もう1年半前から、この日のために伸ばしてきたんで(笑)」という長い髪をみずからカット。活発なボブを揺らして、改めて本格的にPEDROが戻ってきたというわけです。今回はそんなニュー・シングルと新体制で巡るツアー、2度目の武道館へ向かう心境についてアユニに話を訊きました。

PEDRO 『飛んでゆけ』 ユニバーサル(2023)

 

素直に生きるほうが素敵だな

――そもそもの話ですが、BiSH解散が決まった2019年末の段階で、以降の選択肢はPEDRO一択だったんでしょうか?

「PEDROを始めたての時とかBiSHの解散を考えはじめた頃は、精神的にもホントに子どもで、明日生きるのに必死みたいな時期だったので、自分が将来どういう表現をしていきたいのかを考えられる力も持ってなかったし、他の選択肢を考える余裕もない感じでしたね」

――確かに、PEDROはコロナ禍に入ってから、より主体的に成長していったように見えました。

「そうですね。精神的にも変わったって自覚するくらい物心がついた期間だったので」

――PEDRO活動休止までの期間に、気持ちも定まっていったということですね。

「はい。解散後にPEDROとして前向きに表現できるように、最後の1年半はBiSH人生を全うしようっていう気持ちだったので。もうその時点では、ここからPEDROとして表現していきたい、音楽を作っていきたいっていう自我がありました」

――そこで改めてPEDROとしての活動を選んだ理由は?

「やっぱり、ひさ子さんの音楽と出会えたことが自分の人生には大革命的な出来事ですし、心から尊敬できるPEDROチームの人たちと仕事ができてるのってホントに幸せなことだって常々思っていて。だからこそ、自分ももっと良い表現者になって、PEDROというものをもっと確立させたいという強い思いを持ちました」

――再始動後もベース/ヴォーカルで、同じ3ピースの形態は変えないイメージでしたか?

「再始動するタイミングでドラムの毛利(匠太)さんと一緒にできなくなったり、あとは〈こういう音楽を作りたい〉っていうのが自分の中でどんどん芽生えてきてからは、〈キーボードを入れたい〉とか〈ギターもう1人いてもいいんじゃないか〉とか考えたこともありました。でも、例えばめっちゃ巧いキーボードの人を入れるとか、そういう音数や技術で成長した姿を見せるのって、自分のクオリティを考えるとまだ早いし、自分のレヴェルが追いついてないとも思ったし、やっぱりまったくの初心者が突如ベースを始めてレジェンドと組むっていうおもしろみのある3ピースでやってきたのも、ある意味PEDROのひとつの強みなので。自分の技術のなさは弱みで、PEDRO一本になったのでどんどんクオリティを上げていかないといけないんですけど、裏を返せばそんなバンドってなかなかいないし、そこが味でもあると思ったので、いまはこの形で続けていきたいなって。レコーディングでどなたかに別の音を入れてもらったり、今後やってみたいことはいろいろあるんですけど、ライヴは3ピースの体制でやっていきたいなって思ってます」

――新代田FEVERでの〈午睡から覚めたこどものように〉が新体制の初ステージ(シングルの初回盤/映像付通常盤に収録)となりましたが、初めて3人で揃って合わせたのはいつ頃でしたか?

「去年の夏に『後日改めて伺いました』のプリプロやレコーディングに入りはじめたので、ちょうど1年前くらいですね。でも、その頃はBiSHのスケジュールもあったり、お二人もお忙しいので、実は3人で合わせたのも数えれるくらいしかなくて。各自が練習してきて、1~2回プリプロ入って、すぐにレコーディングして、って感じでした」

――再録盤に続いて昨年秋に制作されていたのが今回のシングルとなりますが、収録の2曲とも“さすらひ”に続いて田渕さんがアレンジを担当されています。

「やっぱり再始動1発目は大好きな人にお願いしたくて、ひさ子さんがtoddleやソロでやってる楽曲の、あの柔らかさとか、脆そうだけど、ちゃんと芯を貫いてるところが凄く好きで。その温かさを作っていただきたくてお願いしました」

――いまのアユニさんがそういうモードでもあって。

「どんどん〈人間って日々生活して生きてるんだ〉ってわかってきて、そこを大事にして生きていきたいなって思うようになったのが大きいです。昔はやっぱり出せるキーまで声を出して、パンクでロックで、ベースをガツガツ弾いて、みたいな曲が多かったけど、いま自分が作りたいのはそういうものじゃないというか……斜に構えてる感じじゃないんだよな、やっぱり素直に生きるほうが素敵だなって実感してから、温度感のある温かい曲を作りたいと思うようになって。“飛んでゆけ”は、そんないまの自分といちばんリンクする楽曲でした」

――曲を書いた時期は?

「ここ1年以内だと思います。活動休止中も再始動後のために曲をいろいろ作っていたなかで、たぶんシングルっぽくないって思われがちな曲というか。〈よし! 再始動1発目、ポップな曲作るぞ! 広めるぞ!〉っていうよりかは、自分がいまどんな曲を歌いたいのか、どんな温度感を表現したいのかを重視して作りました」

――いまのPEDROを伝える意味で、最初にこういう大らかな曲が出るのは凄くいいと思います。言葉にしてもらうのも野暮ではありますが、何がどこに飛んでゆくんでしょう。

「PEDROの存在やPEDROの音楽が、受け取ってくれる人のお守りのような存在になれたら幸せだなって思いながら曲を作ってて。この曲のお守りのような力がその人に飛んでゆけっていうか。めちゃくちゃ理想論なことを言うと、〈あなたがつらくなったら私が飛んでいくよ〉って伝えたいんですけど。誰かを救いたいとか思うのってわがままかもしれないけど、自分がファンの方々とか家族とか大事な人からの言葉でたくさん救われてきたので、それを恩返ししたいというか」

――曲調も相まって凄く優しい歌に仕上がりましたね。

「いままで救われてきたことを忘れたくないっていうのがありました。BiSHに入ってから何年間も人に救われてばかりだったので、人の優しさに触れたぶん、人が困ってる時に次は自分が優しさを出せる人になりたいし、いい人になりたいなって。いまは単純にそういう強い思いがあります」

――アユニさんの思う〈いい人〉ってどういう人のことでしょう。

「物事から目を背けない人。しっかり何がどうなってこうなってるのか、こうなったから次はどうしたいのかっていうのを、自分はいままで考えない人間だったんですよ。でも、それを考えて、自分で暮らして、生活して、乗り越えていくと、次の日の朝も楽しみになるというか。前は〈朝なんて来ないでくれ〉って思ってたけど、自分の考え方を変えれば世界が変わるんだっていう、そういうことをちゃんと理解できる人がいい人だと思います。人のことは変えられないから、変えられるのは自分だけなんだっていう、哲学的な話ですけど」

――それで言うと、〈9時前にインターホンが鳴る 再配達を受け取った!〉っていうのが象徴的ですね。ちゃんとしてないと受け取れないし。

「そうなんですよ。なかなか無理ですよね(笑)。でも、ちゃんと早起きして自律神経を整えたら受け取れるんですよ」