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ポップソングは総合芸術

 夢想的なムードと艶やかな浮遊感に包まれた“UTOPIA”は、従来のリスナーにもハッとするような驚きを与えるだろう。〈先輩後輩を問わず、音楽制作に関わった人たちの総称としてジャンク フジヤマがある〉と彼が常々口にする言葉には、各パートに配置されたエキスパートたちがスキルを最大限に発揮し、みずからが思い描く本物の音楽が生成されていく瞬間を幾度となく目撃してきた経験の裏付けがある。ジャンク フジヤマというマシーンをうまく操縦させるためにはオープンかつニュートラルな思考が重要なキーになるわけだが、〈僕の歌に寄り添ってほしい〉という要望に参加者全員が的確に対応しており、なんとも感動的だ。それらの賜物として、どの曲もスタンダードな趣を醸し出す結果になっている。ジャンク フジヤマが考えるスタンダードなポップソングとは?

 「まず曲の核をしっかり掴んだ歌があり、詞、メロディー、コーラス、オブリなどの入れ方、リズムといった要素が、有機的に絡み合い成立している総合芸術。さらにミックスをやる人、マスタリングをやる人、楽器を扱う人、各々の主張が音にありありと現われているもの。そういう音楽を作るのが理想です」。

 それにしても、布施明“君は薔薇より美しい”というカヴァーのチョイスといい(彼ほどこの曲を歌い継いでいくべき人材がいまは思いつかない)、あらゆるアイデアがど真ん中をズバリ的中しているこの感じ。そういう力が十全に機能している背景には、〈シティ・ポップ〉ブームの追い風があるのは確か。「マニアックなものだと決めつけられ、敬遠されたりすることなく、時代の主役を張っている音楽のなかに自分もいられるのはありがたいこと」と謙虚な物言いをするが、この状況のおかげで〈核〉とじっくり向かい合う態勢を整えられているのは事実だろう。

 ところで今年、不惑の年に到達したジャンク フジヤマ。15歳のときに35歳じゃないの?と言われたぐらい若くして老成円熟していたキャラに実年齢が追い付いたと言えるのかも。

 「デビュー当初と比べると、物事をだいぶ俯瞰で見れるようになったし、歌の面でも感情に引っ張られすぎず、あまり熱くなりすぎないようにコントロールできるようになった。体力、声の調子、共にとてもいいバランスにあるかな。でも、いまでも憧れの先人たちからいろいろ吸収していますよ。例えばニール・セダカの“Laughter In The Rain”からファルセットのミックス感を学んだり。日本人でああいう濃くて太い響きを出せる人ってなかなかいない。スコン!と抜けるようなファルセットを学びたかったら、マーヴィン・ゲイの音楽を聴くとか」。

 と、いろいろなことを書いてきたけど、『DREAMIN’』のハンパない充実感を支えているもの、それは、〈この音楽を未来に向かって末永く残すんだ〉という執念に似た彼の思いなんじゃないか。自身のスタイルを決して曲げることなく頑固に一途に楽曲を磨き上げる姿はなんだか、古い暖簾を守るために心を砕く老舗の番頭さんのようにも映る。そこに宿る気合と根性。シティ・ポップというもののイメージとはかけ離れた精神性かもしれないけど、なんだかんだ言ってもこいつがどの曲にも特別な輝きを与えているのは疑いない。絶対にそうだ。

ジャンク フジヤマの近作。
左から、2022年作『SHINE』(Pヴァイン)、2020年作『Happiness』(Mil Music/Pヴァイン)

『DREAMIN’』に参加したミュージシャンの関連作。
左から、ジャンク フジヤマと神谷樹が作曲した寺嶋由芙の2022年のシングル“恋の後味”(インペリアル)、ベーシストの坂本竜太が参加したChinatsuの2021年のシングル“Platinum”(ソニー)、山川恵津子が楽曲提供した伊藤蘭のニュー・アルバム『LEVEL 9.9』(ソニー)

THE CHARM PARKの2023年の7インチ・シングル『Lovers In Tokyo feat.ジャンク フジヤマ/Lovers In Tokyo』(StyleBook/ULTRA-VYBE)

 


LIVE INFORMATION
ジャンク フジヤマ ニューアルバム『DREAMIN’』リリースライブ

2023年8月14日(月)大阪・ビルボードライブ大阪
2023年8月25日(金)東京・COTTON CLUB