
『View With A Room』と『The Layers』は元々1つの作品だった
――今回、1回のセッションで収録された曲が2回に分けてリリースされ、コンプリート盤では2枚一緒に楽しめるわけですが、改めて聴くと、両者の質感の違いが実感できますね。陽の『View With A Room』、陰の『The Layers』といった具合に……。
「そうだね。確かに、両者を比べると、『The Layers』のほうが内省的で、メランコリックな雰囲気が漂っているよね。
実をいうと、録音当初の計画では全部一緒に出してしまおうと考えていたんだ。だけど、2枚に分けてリリースしたほうが、それぞれの世界観をより明確に打ち出せるし、リスナーの皆さんにもパワフルに伝わるんじゃないかと思い直して、分けてリリースすることにした。でも今回、改めてカップリングして皆さんに届けることができて嬉しいよ」
――プロデューサーは前作に続きマーガレット・グラスピー、そしてアーマンド・ハーシュが務めています。両者の役割分担はあるのですか?
「マーガレットは曲のアレンジに関する部分をはじめ全体を見てくれていて、アーマンドはレコーディングの後に音のミックスの部分で主に参加してくれている。だからアーマンドはどちらかというとエンジニア的なスタンスかな」
――ヘビーで太い低音から囁くように繊細な高音まで、レンジの広いギターサウンドが楽しめるのも今作の特徴だと思います。
「それはレコーディングをしてくれたマーク・グッデルのセンスによるところが大きいね。ローエンドからハイエンドまで、とにかくふくよかで温かく、そしてちょっとファジーなサウンドなのがポイントだね。今よくあるような、ハイパークリーンな音ではなくて、少しコンプレッションがかかっているようなソフトな感じ。そのようなサウンドが僕は大好きなんだけど、それを彼が実現してくれたんだ」

エレキギターもアコースティックのように聴かせたい
――『The Layers』では、アコースティックギターをフィーチャーした曲も印象的です。あなたはクリス・エルドリッジとの共演等を通してアコースティックギターのプレイヤーとしての魅力もファンの間に浸透していますが、エレクトリックとアコースティックはどのように使い分けているのでしょう?
「その曲で表現したい世界観によって使い分けているよ。自分にとって、エレクトリックもアコースティックも非常に大切なものであるということは当然なんだけれど、どちらか一方に重きを置くとするならば、自分はアコースティックギターのプレイヤーだという意識がある。エレクトリックギターを弾くときも、フレージングの違いこそあれ、アコースティックギターのように聴かせたいと思いながらプレイしているんだ。フィジカルな部分でいえば、エレクトリックギターのほうが楽に演奏できるんだけど、難しさがある分、アコースティックギターを弾くときのほうがワクワクするかな。そして、どちらを弾くにしても、倍音をどのように響かせるかということを常に意識しているよ」
――4年前、クリス・エルドリッジとのデュオとトリオでのライブを拝見しました。特にトリオでのライブは、演奏がどんどんスリリングに展開していき、新しい命が吹き込まれていくダイナミックなもので、レコードでは体験できないものでした。レコードとライブとの違い、それぞれ心がけていることについて教えてください。
「僕にとって、その2つはまったく異なるものなんだ。おっしゃるとおり、ライブでの音楽はその場、その瞬間にどんどん進化していくもので、スタジオでレコーディングしている時は、まだその曲のことをよく知らない状態。だからこそ、新鮮さや発見していく部分が常にある。明日(2023年11月9日)以降の日本でのライブで披露するのは、3年間演奏してきた曲で、以前とはかなり変化して新しいものになっているから、自分でも演奏することが楽しみなんだ」
――早くも、次のアルバムに関する情報も入ってきています。
「さっき、『The Layers』では内省的な曲が多いという話をしたけれど、その方向性をさらに推し進めたものになるよ。簡単に言うと、アバンギャルドなゴスペルブルースアルバムみたいな感じかな。現在のトリオにキーボードやサクソフォンなども加えた編成で、全曲オリジナルで構成する予定だよ」

RELEASE INFORMATION
リリース日:2023年11月8日(水)
品番:UCCQ-1196
価格:3,300円(税込)
日本独自企画/来日記念盤/未発表音源収録/UHQCD
TRACKLIST
1. トリビュタリー
2. ワード・フォー・ワード
3. オーディトリアム
4. ハート・イズ・ア・ドラム
5. エコー
6. チャベス
7. テンプル・ステップス
8. キャッスル・パーク
9. レット・エヴリ・ルーム・シング
10. フェアバンクス
11. トリビュタリー(トリオ・ヴァージョン) ※未発表音源
12. エヴリシング・ヘルプス
13. ダブル・サウスポー
14. ミッシング・ヴォイセズ
15. ディス・ワールド
16. マントラ
17. ザ・レイヤーズ
パーソネル:ジュリアン・ラージ(ギター)/ビル・フリゼール(ギター)/ホルヘ・ローダー(ベース)/デイヴ・キング(ドラムス)
プロデュース:マーガレット・グラスピー
レコーディング&ミックス:マーク・グッデル
マスタリング:ランディ・メリル
リリース日:2023年3月17日(金)
品番:UCCQ-1182
価格:2,200円(税込)
SHM-CD
TRACKLIST
1. Everything Helps
2. Double Southpaw
3. Missing Voices
4. This World
5. Mantra
6. The Layers
PROFILE: JULIAN LAGE
88年、アメリカのカリフォルニア州サンタローザ生まれ。5歳よりギターを始め、12 歳の時に全国でテレビ放送されたグラミー賞授賞式で演奏するなど少年期より既に神童の呼び声が高く注目を集める。その後間もなくして、アーティストとしての育ての親と言うべきゲイリー・バートンに誘われてステージを共にし、2003年にはゲイリーのアルバム『Generations』のレコーディングに参加。さらに2005年にリリースされた『Next Generations』にも参加し自身のオリジナル曲を複数提供するなど、本格デビュー前ながらミュージシャンとしての地位を確立していった。バートンのクインテットと共に演奏した公演にはサンフランシスコ・ジャズ・フェスティバル、モンタレー・ジャズ・フェスティバル、ニューポート・ジャズ・フェスティバルのほか、ヨーロッパや日本へのツアーも含まれる。かのハービー・ハンコックをして「ジュリアンは心と意思と魂でプレイする。こんなに若いのに、いつそれを学んだのか」と言わしめるなど、バートン以外にもジャズ界でジュリアンを支持する声は多い。