珠玉のメロディをリリカルな静かな炎で燃え上がらせる、デイナ・スティーヴンスのバラード集
難病の腎臓疾患である巣状糸球体硬化症から、復活しつつある中堅サックス・プレイヤーのデイナ・スティーヴンスが、盟友のジュリアン・レイジ(g)、ラリー・グラナディア(b)、エリック・ハーランド(ds)と、スペシャル・ゲストにブラッド・メルドー(p)を迎え、意欲作をリリースした。
アルバム・レコーディングの時に、スティーヴンスに去来したのは、希望と平穏、そして不安だった。その三つの感情と、スティーヴンスの闘病生活中に、ベネフィット・コンサートを開催し、多くの愛と励ましを送り続けてくれたアーティスト仲間やファンへの深い感謝を、美しいメロディに添えて本作は完成した。アルバム唯一のオリジナルの6、パット・メセニー(g)の5、ビリー・ストレイホーンの7以外は、アーロン・パークス(p)、レベッカ・マーティン(vo)、ミシェル・アマダー(vo)ら、スティーヴンスと同世代で、切磋琢磨してきた同志たちの曲を選んでいる。レイジによる4は、レコーディング・スタジオにあったタックピアノ(ホンキートンクで用いる、ピアノのハンマーに細工をして、あえて調律を狂わせているピアノ)を駆使して、フォーキーな空気感を醸し出している。メセニーのカヴァーの5は、学生時代に聞いたジョシュア・レッドマン(ts,ss)のプレイにインスパイアされて選んだという。スティーヴンスはEWIを駆使して、自らのカラーに染め上げた。ほぼ全編がバラード・チューンで占められ、珠玉のメロディをリリカルな静かな炎で燃え上がらせるスティーヴンスを、メルドー、ラージュ、グラナディア、ハーランドが絶妙のサポートを聴かせてくれた。
3月21日にニューヨークのクラブ、“Jazz Standard”で催かれたアルバム・リリース・ギグには、メルドーに代わりテイラー・アイグスティ(p)が、レイジに代わりピーター・バーンンスタイン(g)が参加し、アルバムの世界観を忠実に再現した。デイナ・スティーヴンスは、完全復活を高らかに宣言する。