〈現代最高峰のジャズギタリスト〉の呼び声も高いジュリアン・ラージ。10代でゲイリー・バートンのグループに参加したのをはじめ、チャールス・ロイドやジョン・ゾーンらの大物と共演を重ねる一方で、ソロとしてのキャリアも確実に積み重ねてきた。ジャズの伝統に加え、ブルースやカントリーなど古いアメリカンミュージックからの影響も感じさせるスタイルは幅広い音楽ファンから支持されている。
2021年には名門ブルーノート・レコードから、ホルヘ・ローダー(ベース)、デイヴ・キング(ドラム)とのトリオでアルバム『Squint』をリリース。昨年はそのトリオにビル・フリゼールを迎えた注目作『View With A Room』を、そして今年は、同じ日のセッションからの未発表曲を集めた『The Layers』を発表した。そしてこのたび、『View With A Room』と『The Layers』をカップリングし、未発表テイクも追加したコンプリート盤が登場。聴けば聴くほど2枚のアルバムの方向性の違いが浮き彫りになる今作について、ライブのために来日したジュリアン・ラージ本人に話を聞いた。

ブルーノートのプレッシャーと手ごたえ
――『View With A Room』は『Squint』に続いてブルーノート・レコードからの2作目になります。改めて伺いますが、ブルーノートに移籍して制作環境は変わりましたか?
「大きく変わったよ。僕も、多くのジャズプレイヤーやジャズファンと同じように、ブルーノート・レコードのアルバムをたくさん聴いて育ったのだけど、どの作品にもいえるのは、ジャズミュージシャンたちによる即興のアンサンブルが基本にあるところだよね。そして、そこにはものすごい緊迫感がある。まさに、いまこの瞬間に起こっている音楽をリアルに収めたエネルギーを感じるんだ。
僕たちもそのようなアルバムを作らなきゃ、と気を引き締めて制作に臨んだよ。その結果、いい意味でプレッシャーを感じながら作ることができたし、ブルーノートでのアルバムは、それまで以上にいいアルバムになっている手ごたえを感じているよ」
――あなたの作品はどれも文学作品、短編集を読んでいるような味わい深さがあって、楽曲というひとつひとつのストーリーをギュッと凝縮したような密度の濃さが大きな魅力だと思います。
「そのように感じてもらえるととても嬉しいな。僕たちの曲はどれもそれほど長くはないけれど、それぞれの曲が語るストーリーはより長大なものなんだ。だから、まさに短編集といえると思うよ」

ビル・フリゼールとの友情で新次元へ
――改めて今作のコンセプトを教えてください。
「前作『Squint』と比較すると、『Squint』では1960年代初期のような、ちょっと古いジャズのライブパフォーマンスを感じさせる空気感を目指したところがあったんだ。今回『View With A Room』と『The Layers』のセッションでは、レコーディングの手法は同じだけれど、よりカラフルでハーモニー的にも豊かなものにしたかった。
その試みは成功させることができたし、さっき言ったブルーノートらしさもより大きく出せたと思う。そこにはビル・フリゼールが参加してくれたことが大きく貢献しているよ。特にオーケストレーションの部分でね」
――ビル・フリゼールとはチャールス・ロイドやジョン・ゾーンのアルバムで共演したり、ギターデュオでツアーも行ったりしている間柄ですが、今作のレコーディングに参加してもらった理由を教えてください。
「おっしゃるとおり、ビルとはさまざまな機会で共演していて、深い信頼関係を築くことができている。彼は僕のことを本当によく知っているんだ。だから今回、今まで築き上げてきた自分の音楽性をさらに広げて、新しい次元にまで引き上げたいと思ったときに、彼にサポートしてもらいたい、と考えたのは自然の流れだったよ。
また、僕とビルが一緒にたくさんのライブを行っていることを、ライブを観たことのないファンは知らないかもしれないよね。今回のレコーディングで、彼らに改めて僕たちの友情を紹介したい、という気持ちもあったんだ」
――ビル・フリゼールが入ることで、今作では従来のトリオのサウンドとは一線を画する、広がりのある音世界が楽しめます。加えて、テーマとインプロビゼーションがシームレスに展開する、曲のまとまりというか一体感が、さらに研ぎ澄まされたような気がします。
「そう言ってくれてありがとう! 僕たちが目指したのはまさにそこだったんだ。僕は、曲を書くという行為は、自分が好きなことや愛していることを改めて見出す作業だと考えていて、今回のレコーディングでは、さらに多くのことを発見してパッケージすることができたよ。もちろん、曲についての理解は時間の経過とともに深まって、ライブはその過程がリアルタイムに体験できる場だといえる。
今作のセッションでは、30曲ぐらいを用意して、『View With A Room』と『The Layers』で16曲が残ったわけだけど、これらの曲は極めて短い期間でレコーディングできたから、まとまりや一体感があるのはある意味自然なことかもしれないね」

『View With A Room』と『The Layers』は元々1つの作品だった
――今回、1回のセッションで収録された曲が2回に分けてリリースされ、コンプリート盤では2枚一緒に楽しめるわけですが、改めて聴くと、両者の質感の違いが実感できますね。陽の『View With A Room』、陰の『The Layers』といった具合に……。
「そうだね。確かに、両者を比べると、『The Layers』のほうが内省的で、メランコリックな雰囲気が漂っているよね。
実をいうと、録音当初の計画では全部一緒に出してしまおうと考えていたんだ。だけど、2枚に分けてリリースしたほうが、それぞれの世界観をより明確に打ち出せるし、リスナーの皆さんにもパワフルに伝わるんじゃないかと思い直して、分けてリリースすることにした。でも今回、改めてカップリングして皆さんに届けることができて嬉しいよ」
――プロデューサーは前作に続きマーガレット・グラスピー、そしてアーマンド・ハーシュが務めています。両者の役割分担はあるのですか?
「マーガレットは曲のアレンジに関する部分をはじめ全体を見てくれていて、アーマンドはレコーディングの後に音のミックスの部分で主に参加してくれている。だからアーマンドはどちらかというとエンジニア的なスタンスかな」
――ヘビーで太い低音から囁くように繊細な高音まで、レンジの広いギターサウンドが楽しめるのも今作の特徴だと思います。
「それはレコーディングをしてくれたマーク・グッデルのセンスによるところが大きいね。ローエンドからハイエンドまで、とにかくふくよかで温かく、そしてちょっとファジーなサウンドなのがポイントだね。今よくあるような、ハイパークリーンな音ではなくて、少しコンプレッションがかかっているようなソフトな感じ。そのようなサウンドが僕は大好きなんだけど、それを彼が実現してくれたんだ」

エレキギターもアコースティックのように聴かせたい
――『The Layers』では、アコースティックギターをフィーチャーした曲も印象的です。あなたはクリス・エルドリッジとの共演等を通してアコースティックギターのプレイヤーとしての魅力もファンの間に浸透していますが、エレクトリックとアコースティックはどのように使い分けているのでしょう?
「その曲で表現したい世界観によって使い分けているよ。自分にとって、エレクトリックもアコースティックも非常に大切なものであるということは当然なんだけれど、どちらか一方に重きを置くとするならば、自分はアコースティックギターのプレイヤーだという意識がある。エレクトリックギターを弾くときも、フレージングの違いこそあれ、アコースティックギターのように聴かせたいと思いながらプレイしているんだ。フィジカルな部分でいえば、エレクトリックギターのほうが楽に演奏できるんだけど、難しさがある分、アコースティックギターを弾くときのほうがワクワクするかな。そして、どちらを弾くにしても、倍音をどのように響かせるかということを常に意識しているよ」
――4年前、クリス・エルドリッジとのデュオとトリオでのライブを拝見しました。特にトリオでのライブは、演奏がどんどんスリリングに展開していき、新しい命が吹き込まれていくダイナミックなもので、レコードでは体験できないものでした。レコードとライブとの違い、それぞれ心がけていることについて教えてください。
「僕にとって、その2つはまったく異なるものなんだ。おっしゃるとおり、ライブでの音楽はその場、その瞬間にどんどん進化していくもので、スタジオでレコーディングしている時は、まだその曲のことをよく知らない状態。だからこそ、新鮮さや発見していく部分が常にある。明日(2023年11月9日)以降の日本でのライブで披露するのは、3年間演奏してきた曲で、以前とはかなり変化して新しいものになっているから、自分でも演奏することが楽しみなんだ」
――早くも、次のアルバムに関する情報も入ってきています。
「さっき、『The Layers』では内省的な曲が多いという話をしたけれど、その方向性をさらに推し進めたものになるよ。簡単に言うと、アバンギャルドなゴスペルブルースアルバムみたいな感じかな。現在のトリオにキーボードやサクソフォンなども加えた編成で、全曲オリジナルで構成する予定だよ」

RELEASE INFORMATION
リリース日:2023年11月8日(水)
品番:UCCQ-1196
価格:3,300円(税込)
日本独自企画/来日記念盤/未発表音源収録/UHQCD
TRACKLIST
1. トリビュタリー
2. ワード・フォー・ワード
3. オーディトリアム
4. ハート・イズ・ア・ドラム
5. エコー
6. チャベス
7. テンプル・ステップス
8. キャッスル・パーク
9. レット・エヴリ・ルーム・シング
10. フェアバンクス
11. トリビュタリー(トリオ・ヴァージョン) ※未発表音源
12. エヴリシング・ヘルプス
13. ダブル・サウスポー
14. ミッシング・ヴォイセズ
15. ディス・ワールド
16. マントラ
17. ザ・レイヤーズ
パーソネル:ジュリアン・ラージ(ギター)/ビル・フリゼール(ギター)/ホルヘ・ローダー(ベース)/デイヴ・キング(ドラムス)
プロデュース:マーガレット・グラスピー
レコーディング&ミックス:マーク・グッデル
マスタリング:ランディ・メリル
リリース日:2023年3月17日(金)
品番:UCCQ-1182
価格:2,200円(税込)
SHM-CD
TRACKLIST
1. Everything Helps
2. Double Southpaw
3. Missing Voices
4. This World
5. Mantra
6. The Layers
PROFILE: JULIAN LAGE
88年、アメリカのカリフォルニア州サンタローザ生まれ。5歳よりギターを始め、12 歳の時に全国でテレビ放送されたグラミー賞授賞式で演奏するなど少年期より既に神童の呼び声が高く注目を集める。その後間もなくして、アーティストとしての育ての親と言うべきゲイリー・バートンに誘われてステージを共にし、2003年にはゲイリーのアルバム『Generations』のレコーディングに参加。さらに2005年にリリースされた『Next Generations』にも参加し自身のオリジナル曲を複数提供するなど、本格デビュー前ながらミュージシャンとしての地位を確立していった。バートンのクインテットと共に演奏した公演にはサンフランシスコ・ジャズ・フェスティバル、モンタレー・ジャズ・フェスティバル、ニューポート・ジャズ・フェスティバルのほか、ヨーロッパや日本へのツアーも含まれる。かのハービー・ハンコックをして「ジュリアンは心と意思と魂でプレイする。こんなに若いのに、いつそれを学んだのか」と言わしめるなど、バートン以外にもジャズ界でジュリアンを支持する声は多い。




