極めてプライヴェートで、個の内面を率直に反映した作品だということは、タイトルや佇まいが示す通り。Nao'ymtが2014年をかけて発表してきたデジタルEPシリーズの集大成となるCD2枚組・全21曲のアルバム『矢的直明 2014』は、日記のように綴られた楽曲の並ぶ、穏やかなベッドルームR&B作品となった。もちろん、本名を冠していればそれイコール率直な内容だとは思わないが(エミネムの『The Marshall Mathers LP』とか……)、これまでのイメージに束縛されない自由な創作の産物という意味で、今作が矢的直明という音楽家の意志を忠実に反映しているのは間違いないところだろう。

Nao'ymt 矢的直明 2014 YAMAHA(2014)

 そもそもNao'ymtといえば、安室奈美恵の復権を印象づけた『Queen of Hip-Pop』(2005年)で大いに名を上げ、三浦大知露崎春女黒木メイサleccaCrystal Kayらの作品を手掛けてきたトップ・プロデューサーである。R&Bを下地にしながら、そのアレンジメントの広がりはレゲエエレクトロニカハウスダブステップまで多様で、楽曲ごとの印象もバウンシーだったりロッキッシュだったりトランシーだったりさまざま(本当はそれも含めてのR&Bということなのだけど)。そのなかでも特徴的なのは、例外を除けば詞曲とアレンジ~プロダクションのすべてを彼自身が掌握した楽曲がほとんどだということ。そんなこともあってかイメージほど膨大な仕事をあちこちで手掛けているという感じではなく、商業作品の裏方として一線に立ちながらも、その仕事を通していわゆる〈シンガー・ソングライター〉的な作家性をも伝えてくる部分が強いのだ。三浦大知いわく〈Naoさんの曲は詞が重要〉とのことだが、そうした諸々から導かれるどこか〈孤高〉なイメージ自体が、この『矢的直明 2014』が纏うプライヴェートな雰囲気を補足するものでもあるのかもしれない。

【参考動画】Nao'ymtが手掛けた三浦大知の2014年のシングル“Anchor”

 

 シリーズの幕開けとなったのは、2013年のクリスマスに配信をスタートした『矢的直明 2013 大晦日』。そこから2014年に入って3月に『矢的直明 2014 彼岸』、7月に『矢的直明 2014 短夜』、10月に『矢的直明 2014 秋暁』と作品は続いてきた。それらがリリース順でディスク2枚に並べられた今回のCDは、ボーナス・トラックを追加したうえでNao本人が再ミックスを施し、さらにハーブ・パワーズJrによるリマスタリングを経てパッケージングされたものだ。

 楽曲群から共通して漂ってくるのは、ドレイクウィークエンド以降のアンビエントでアトモスフェリックな空気感や、ジェイムズ・ブレイク以降の繊細な歌心、ロードらとのオーガニックな同時代性だ。そこに浮かぶトレンド的な野心はアーバン系のクリエイターに共通する当然の嗅覚だとして、そうしたムードの包容に対して内側から滲み出してくるのが、九尾狐をあしらった往時の作品も想起させる日本的な美意識なのは、やはりNaoらしい。そこから例えば〈わびさび〉という言葉に思いが至らずとも、この不思議なポピュラリティーと芸術性を併せ持った歌の数々は染み込むように心に降ってくることだろう。世間の風物から過去に思いを馳せ、改めて個人の思索を時代の空気へと繋いだ、繊細で美しい楽曲たち。それはきっと誰しもの日常に響きうるものに違いない。