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杏里

杏里、土岐麻子、上田正樹が届けたグッドメロディーの数々

前半部分における一番の盛り上がりを生み出したのが、杏里の登場であった。ベストテンヒットを記録した“悲しみが止まらない”、名盤『Timely!!』(83年)を代表するバラード“YOU ARE NOT ALONE”というカラーの異なる2曲で会場中をアーバンな空気で包み込み、揺るぎない貫録を放った。「偶然にも11月5日は私のデビュー日。そのことをさっき知ったんだけど」というMCにもあったとおり、杏里にとってもアニバーサリーなステージだったわけだが、彼女が運んできた祝祭感がステージの彩りをいっそう豊かにしていたことは確かだ。

各々のパフォーマンスを注視しながら冷静に分析していこうとするけれど、聴き慣れたメロディーが出てきた途端、瞬時に遠い昔に引き戻されてしまった瞬間も少なくなかった。とくに土岐麻子が原田知世の“天国にいちばん近い島”を歌った際、もっとも強烈なフラッシュバックがあり、知らず知らずのうちに涙をこぼしていたことを告白したい。

土岐麻子

グッドメロディーが持つ不思議な誘引力について誰よりも探求を続けてきた林哲司だが、各楽曲が真骨頂を発揮する場面が多々あって、土岐と林のデュエットによる“レイニー・サタデイ&コーヒー・ブレイク”、そして林のソロによる〈悲しみ三部作〉の一角を担う“悲しみがいっぱい”などでもそんな力が大いに働いていたのだった。

土岐麻子、林哲司

林哲司

そして第1部のトリを飾ったのが、日本が誇るソウルシンガー、上田正樹。3人のコーラス隊との絡み合いもゴキゲンだった“レゲエであの娘を寝かせたら”で微笑のメロディーを大きく広げながら、心にそよ風を注ぎ込むような歌声を聴かせた。今剛の官能的なギタープレイも光った“悲しい色やね”ではスキャットを交えながらソウルフルにきめてみせるなど、他の出演者とはまた種類の違ったバイブスを放ちながら会場を沸かせた。

上田正樹