King Gnuがここまで大きなバンドになることを、一体どれだけのリスナーが想像しただろうか。おそらく、今にいたる成功は常田大希、勢喜遊、新井和輝、井口理というカードが揃った瞬間に決まっていたのかもしれない。

King Gnuはロックバンドという形態を利用して、様々な表情を見せる。時にキングのように王道を闊歩し、時にエースのごとく新たな風を吹かせる。片や、蛇の道も好むジョーカーとしての役割も、彼らは喜んで引き受けるのだ。

Mikikiでは、新作『THE GREATEST UNKNOWN』がリリースされた今こそ、King Gnuのオリジナルアルバムを取り上げたいと本コラムを企画した。音楽ライターの小川智宏、蜂須賀ちなみの力も借り、新作を含む全4枚のアルバムのレビューを通じて、彼らの成功の歩みを確かめてほしい。 *Mikiki編集部


 

『Tokyo Rendez-Vous』(2017年)

King Gnu 『Tokyo Rendez-Vous』 PERIMETRON(2017)

それまでのバンド名を変更し、King Gnuとしてリリースしたファーストアルバム。アルバムの半分が前身バンドSrv.Vinciとして発表した楽曲のリレコーディングということからもわかるとおり、サウンド的には過渡期的な印象も強いアルバムだが、その再録曲――具体的には“Vinyl”“破裂”“ロウラヴ”“サマーレイン・ダイバー”の4曲を含め、〈J-POPの土俵で叩ける「歌もの」を作る〉という矢印は徹底されている。とりわけフォークソング的な世界観を帯びた“McDonald Romance”や、曲名からも80年代歌謡曲のニュアンスを感じさせる“あなたは蜃気楼”などはKing Gnuが(それまでのエクスペリメンタルでオルタナティブな感覚を併せ持ちながらも)まぎれもなく〈日本のポップス〉を目指す集団であることを示していたし、実際にそれらの楽曲がポップソングとしてとても高い強度をもっていることは、現在にいたるまでライブでも欠かせない曲としてレパートリーの中に存在しているという事実からもはっきりとわかる。King Gnuの始まりの一歩にして、バンドのコンセプトや進む方向をはっきりと提示したのがこの『Tokyo Rendez-Vous』だったのだ。

他方、前述したとおりサウンド的にはSrv.Vinci時代のテイストも色濃く残っていて、“Vinyl”や“破裂”のエディットやエフェクトには一筋縄ではいかない実験精神やシーンに対してカウンターを喰らわそうという気概も滲んでいる。一方ではポップスを志向しながら、同時にアンダーグラウンドに根差した自分たちのマインドもはっきりと打ち出す、そのバランスはこのときだからこそ表現しえたものであったのかもしれない。バンドとして立っているフェーズはまったく違えど、これまでのディスコグラフィのなかで、最新作『THE GREATEST UNKNOWN』にもっとも近い精神性を帯びているアルバムはどれかといったら、間違いなくこのファーストだと思う。 *小川

 

『Sympa』(2019年)

King Gnu 『Sympa』 ARIOLA JAPAN(2019)

2019年1月16日にリリースされたセカンドフル作で、メジャー初のアルバム。3日後の1月19日には“白日”が主題歌のドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」が放送開始、本格ブレイク前夜の重要作だ。4人で制作した前作とちがってWONKの江﨑文武と長塚健斗、常田大希の実兄・俊太郎が参加、〈シンパシー〉〈シンパを募る〉といった意味を含むタイトルも象徴するとおり、バンドの広がりが表れている。4曲のインタールードがアルバムをコンセプチュアルにまとめているが、先行配信された“Slumberland”、アニメ「BANANA FISH」のエンディングテーマ“Prayer X”といった一曲一曲それぞれがやはり際立ち、各曲のミクスチャー感、独特のソングライティングには〈King Gnuらしさ〉の確立が感じられるのも、〈可能性の束〉というような感じがあった前作との相違。

ワウを効かせたファンキーなカッティングやコーラスをかけたコードストローク、ソロなど、常田のギタープレイはアルバムを通して自在。もちろん勢喜遊の手数の多いドラムプレイやマシーンビートとの融合、新井和輝の動き回るベースラインやエフェクトづかいも多彩かつ強烈。ボーカリスト・井口理の魅力が特に凝縮されているのは、切ないミドルナンバー“Hitman”、ストリングスとアコギを中心にした“Don’t Stop the Clocks”、壮大なバラード“The hole”など。King Gnuといえば常田の頭脳に焦点が当てられがちだが、何よりも4人の音と声、個性やプレイヤビリティのヒリヒリとしたぶつかりあいと融合に、彼らが一筋縄ではいかないロックバンドであることが刻まれている。

当時のインタビューで常田はセッションシーンとポップシーンの両方で学んだこと、足りないことを自覚し、「より強い表現でいいとこ取りバンドになろうとした」とバンドの成り立ちについて語った。その客観的な観察力とエクレクティックなセンスこそが彼らの独自性であり、それが形になった作品だと言える。第61回日本レコード大賞の優秀アルバム賞を受賞した。 *天野