藤井 風は学び続けている
それに比べると、ドラマ「いちばんすきな花」の主題歌として10月にリリースされた“花”は、2020年のファーストアルバム『HELP EVER HURT NEVER』の頃に連なる2000年代J-R&B直系の音楽性だが、曲構成やサウンドの面では確かな進化を遂げていた。ファーストアルバムの頃は従来のJ-POPの定番〈A→B→サビ〉構成が主だったのが、“花”はAとBの変奏がコンパクトに交錯する構成になり、それでいて歌謡曲系譜のメロディは今まで以上に魅力的なものになっている(似た音型が多いこともあって、よく動くのにとても覚えやすい)。A.G.クックによる音作りも極上で、J-POP的な肌触りを前面に出しつつさりげなく変則的な音響を加えることで、馴染みやすさと新しさを絶妙に両立している。ドラマのエンディングでも流れた“花(Ballad)”がスクリュー(ピッチを落としドープさを増すDJ技法)的にも聴けるのも興味深い。保守と革新を同時に成し遂げた名曲だと思う。
以上のような新曲群は、藤井 風が現行のシーンをしっかり追い、そこから学び続けているからこそ生み出せたものでもあるのだろう。先述の〈ねそべり配信〉では、宇多田ヒカルの“First Love”やワム!の“Last Christmas”といったクラシックとともに、NewJeansの“OMG”と“ETA“、ジョングクの“Seven(feat. Latto)”、Adoの“唱”といった最近の楽曲も積極的にカバーされていた。それに鑑みて藤井 風自身の新曲を聴き返してみると、“花”のチルなムード、そして展開させすぎない曲構成は、NewJeansにもそのまま通ずるものに思えてくる。
マイペースな活動をしているようにも見えるが、現行の音楽シーンをよく捉えていて、そこから逸脱しすぎない形でさりげなく新味を加えてみせる塩梅が心憎い。藤井 風は演奏における表現力の面でも作編曲力の面でも圧倒的なスキルを持つアーティストだが、それがここまで注目を集めることができているのは、こうした〈寄り添う力〉、距離感覚の凄さによるところも大きいのではないだろうか。
以上をふまえて、2024年は国内ツアーやアルバムのリリースを期待したい。いずれも間違いなく素晴らしいものになるはずだ。