「私の奇跡」のドヴォルザークの次はショパン“前奏曲集”

 1970年、ノルウェー生まれ、今や世界を代表するピアノの〈若き巨匠〉となったレイフ・オヴェ・アンスネスの最新盤はドヴォルザークの秘曲“詩的な音画集(全13曲)”作品85(ソニー・ミュージックレーベルズ)。2023年10月の日本ツアーでもシューベルト、ベートーヴェン、ブラームスの名曲とともに5曲、アンコールでさらに1曲を弾いた。最初のピアノ教師、イルジ・フリンカ(1944-)が〈プラハの春〉事変(旧ソ連軍によるチェコ民主化弾圧)後にノルウェーに逃れたチェコ人で、アンスネス最初の録音(1990年)もヤナーチェク作品集(ヴァージン→ワーナーミュージック)だったから、今回のドヴォルザークもてっきり、恩師から授かったものだと思い込んでいた。「こればかりは違います。私の両親は熱心な音楽ファンで、父がロンドンで買ってきたLP盤の中にラドスラフ・クヴァピル(1944-)の独奏した“詩的な音画集”があったのです。小さい時に魅了されて繰り返し聴き、12歳で最初の青少年コンクールを受けた際には第1曲“夜の道”を弾きました。20代以降、今回のようにリサイタルに5~6曲を交えながら〈いつか全曲録音に取り組みたい〉と考えてきました」

LEIF OVE ANDSNES 『ドヴォルザーク:詩的な音画集』 Sony Classical(2022)

 「奇跡の作品」のスコアを究め録音する機会は突然訪れた。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック(世界拡大)で何もできなくなった時期、全曲を学び直し、録音に踏み切りました」。セッションは2021年4月24~28日、ノルウェー・トロンハイムのオラフ・ホールでたっぷり時間をかけて行った。「なぜもっと広く知られ、多くのピアニストのレパートリーに入らないのか、不思議で仕方ありません。様々なピアノ奏法を駆使してあらゆる色彩に満ち、ユーモアからスピリチュアルな世界まで、実に多くの内容を語りかけてきます」

 2023年10月23日、東京オペラシティコンサートホールのリサイタルのアンコールではショパンの“マズルカ”も2曲、作品33の2と17の4を弾いた。その瞬間、「次はショパンかな?」と直感した。ソニーには2018年に録音した“バラード”全4曲の間に3曲の“夜想曲”を挿入した名盤がすでに存在する。「当たりです(笑)。ショパンの“前奏曲集”作品28を予定しています。スヴャトスラフ・リヒテルのように〈全24曲から13曲だけ〉を選んだ先輩もいましたが、作品28に関してはちゃんと全24曲を録音して、ツアーにもかけます」