薬屋の少女が置かれた場所で聡く生きる姿を描いた異国ファンタジー

長沼範裕, 悠木碧 『「薬屋のひとりごと」第1巻』 東宝(2024)

 2023年10月放送開始の秋アニメは良作が多く、とんでもない激戦となっているが、なかでもトップクラスの話題になっているのが本作だ。万人に薦められる内容なので、普段あまりアニメを観ていない層にも受けが良く、今後ますます評判になること間違いない。

 語弊を恐れずに本作を一言でいえば〈異国ファンタジー風の科捜研の女〉だ。とある大陸の後宮を舞台に、17歳の少女・猫猫が科学的知識と論理的思考を駆使して、賢く生き抜いてゆく物語なのである。実在の人物や役職をモデルにしたキャラクターもいるが、あくまでフィクションなので歴史モノが苦手でも抵抗なく読める。

 むしろ本作最大の魅力は科学的な考証がしっかりしている点だ。周囲の人物たちが事件を超常現象だと思い込んだり、感情に流された判断をしがちななか、主人公が論理的に事件の真相に迫ったり、解決のために地道な努力を重ねたりする姿に心打たれてしまう。それでいて湿っぽすぎず、人間の醜いところだけでなく愛すべきところもバランスよく描いてくれるので、ツラい気持ちにもならない。まあ、本当に絶妙なバランスなのである。

 主人公・猫猫が読者を惹きつけてやまないのは、自分に対して酷い仕打ちを受けてもさほど怒らない(むしろ常に、面倒なことに巻き込まれぬよう次善の策を考えている)のだが、他の誰かのためになら自分のことを二の次にして、怒ったり闘ったりしてくれる人物だからだろう。それでいて自分の知的好奇心にはとても正直で、子どもっぽいところも愛される由縁だ。

 現代のリベラルな価値観からすれば〈置かれた場所で咲きなさい〉という言葉はもはや時代錯誤という意見もあるけれども、とはいえどうしたって環境を変えられないことはある。そんな時にどうするべきか? 彼女は心のなかの〈ひとりごと〉では愚痴ったり悪態をついたりと、絵に描いたような善人ではない。それでも無用な敵をつくらないよう聡く生きる姿には、老若男女が勇気づけられるはずだ。